この研究は、ブラジルの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
発酵食品づくりに欠かせない乳酸菌は、古くから発酵肉製品のスターターカルチャー(発酵を始動させるために加える微生物)として使われてきました。近年は、それに加えて「プロバイオティクス」としての性質をもつ乳酸菌を食品に取り入れる動きが広がっています。プロバイオティクスとは、十分な量を摂取したときに宿主に健康上の利益をもたらす微生物を指す、という定義が広く受け入れられていると論文は説明しています。
この研究で著者らが取り上げたのは、ブラジル・ミナスジェライス州の生乳チーズ(ミナス伝統チーズ)の製造環境から分離された3つの乳酸菌株です。Lacticaseibacillus paracasei GV17、Lactococcus lactis GV103、Pediococcus pentosaceus PPの3株で、以前の研究でプロバイオティクスとしての可能性が試験管内で調べられており、模擬消化管条件を通過した後も8.00 log CFU/mL以上の菌数を保つことなどが報告されていました。
ただし、チーズ由来の菌が塩や発酵剤を使うサラミの中でも生き残り、製品の品質を損なわないかどうかは別の問題です。そこで研究チームは、これらの菌株をイタリア風サラミに加えた場合の影響を評価し、熟成期間と保存期間を通じた乳酸菌数、および製品の物理的・技術的な特性を調べることを目的としました。
何を、どのように調べたか
研究はまず、サラミ製造の環境を模した条件下で3株がどれだけ増えるかを試験管内で確認しました。サラミづくりでは酸性化が進み、食塩が2〜5%程度含まれ、発色・保存の目的で亜硝酸塩や硝酸塩が加えられます。そこで著者らは、pHを4.5・5.0・5.5、食塩濃度を2.0%・3.75%・5.0%、さらに亜硝酸ナトリウム150 ppmや硝塩(キュアリングソルト)150 ppmという条件を個別に設定し、15℃と25℃で菌の増え方を濁り(波長600 nmの吸光度)として測定しました。
次に実際のサラミを4種類の配合で、それぞれ別の日に行う3回の独立した製造バッチとして作りました。対照区(C)は市販のスターターカルチャーT-SPXのみ、残る3区はT-SPXを半分にして、GV17、GV103、PPをそれぞれ半分ずつ組み合わせた配合です。豚肩肉と背脂に塩、砂糖、亜硝酸ナトリウム、香辛料などを加え、天然の牛腸ケーシングに詰めて約140 gずつに分け、温度と湿度を段階的に下げながら25日間熟成させました。熟成中は重量、水分含量、水分活性(食品中の水が微生物に利用されやすい度合いを示す値)を測り、乳酸菌数は3・6・12・18・25日目に数えました。熟成後は真空包装して室温で保存し、1・15・30・45日目にも菌数を測定しています。さらに熟成終了時点で、色(明るさのL*、赤みのa*、黄色みのb*)と、硬さ・弾力・凝集性・ガム性・咀嚼性といったテクスチャー(食感)の機器測定を行いました。
報告された主な結果
試験管内の試験では、pH 4.5は3株すべてにとって増殖を妨げる条件でしたが、pH 5.0と5.5ではGV17とGV103がよく増え、25℃で最も高い値を示しました。食塩2.0%では両株とも増えた一方、3.75%と5.0%では15℃で増殖が制限されました。亜硝酸ナトリウム150 ppmと硝塩150 ppmは、とくにGV17とGV103の増殖を妨げませんでした。PP株は一部の条件で増えたものの、全体としてGV17・GV103より増殖速度が低かったと報告されています。
サラミの熟成では、4配合の間に重量の差はなく、いずれも熟成に伴う減量が進みました。25日間での減量率はGV17が46.74%、GV103が42.86%、PPが40.53%、対照区が44.21%でした。25日後の水分含量は対照区が27.59%と最も低く、GV17が30.81%、GV103が32.90%、PPが33.25%で、いずれもイタリア風サラミについてブラジルの規定が定める水分35%以下の範囲に収まっていました。
乳酸菌数については、熟成3日目に全配合で9.0 log CFU/g を超え、25日目の熟成終了時点でも全配合が8.0 log CFU/g を上回りました。真空包装での保存でも、45日後に全配合が6.0 log CFU/g 以上を維持し、最も高かったのは対照区の7.63 log CFU/g、次いでPPの7.31 log CFU/g、GV103の7.23 log CFU/g でした。著者らは、ヒトに健康上の利益をもたらしうる最低量として6.00〜9.00 log CFU/mLまたはgという水準が考えられていることを挙げ、今回の配合は保存45日後にその水準を満たしたと述べています。
色では、PPを加えたサラミの内部が対照区より明るく、内部の赤みはGV103が最も強い値を示しました。食感では、プロバイオティクス候補株を加えた配合は対照区に比べて硬さと咀嚼性が有意に低下しましたが、弾力・凝集性・レジリエンスには差がありませんでした。著者らはこれを、製品の一体性を損なわずに、より柔らかく噛みやすい方向へ組織が変化したものと解釈し、発酵中のタンパク質や脂肪の分解、酸性化や水分損失などの複合的な影響によるものだろうと考察しています。
この研究が示すこと
著者らは、チーズ由来の3株を市販スターターと組み合わせてイタリア風サラミに加える方法が有効であり、乳酸菌が保存期間を通じて良好な水準を保ち、発酵肉の中で定着しうることを示したと結論づけています。評価した項目の範囲では、技術的な特性も良好に保たれていました。
ただしこれは、機能性をもつ可能性のあるサラミ開発に向けた有望な手がかりという位置づけであり、著者ら自身、製品の品質と消費者の受容性を十分に明らかにするには、理化学的・組成的・官能的な分析をさらに行う必要があると述べています。地域の伝統的な食品に由来する菌が、別の発酵食品の製造条件をどこまで耐えられるのかを丁寧に確かめた点に、この研究の意義があります。
著者:M. Campos(Department of Technology and Inspection of Products of Animal Origin, School of Veterinary Medicine, Federal University of Minas Gerais, Belo Horizonte 31270-901, MG, Brazil)、Beatriz Barbosa Cordeiro de Campos(Department of Technology and Inspection of Products of Animal Origin, School of Veterinary Medicine, Federal University of Minas Gerais, Belo Horizonte 31270-901, MG, Brazil)、Isabella Maciel Costa(Department of Technology and Inspection of Products of Animal Origin, School of Veterinary Medicine, Federal University of Minas Gerais, Belo Horizonte 31270-901, MG, Brazil)、Vinícius Tadeu da Veiga Correia(Agricultural Research Company of Minas Gerais (EPAMIG), São João del-Rei 36301-360, MG, Brazil)、Cosme Damião Barbosa(Department of Bromatological Analysis, Faculty of Pharmacy, Federal University of Bahia, Salvador 40110-909, BA, Brazil)、José Erick Galindo Gomes(Laboratory of Microbiology, Enzymatic Technology and Bioproducts, Federal University of Agreste of Pernambuco, Garanhuns 55292-278, PE, Brazil)、Lara Beatriz Oliveira Mateus(Department of Technology and Inspection of Products of Animal Origin, School of Veterinary Medicine, Federal University of Minas Gerais, Belo Horizonte 31270-901, MG, Brazil)、Ana Carolina Nascimento Cidrini Golo(Department of Technology and Inspection of Products of Animal Origin, School of Veterinary Medicine, Federal University of Minas Gerais, Belo Horizonte 31270-901, MG, Brazil)、Taynan Jonatha Neves Costa(Department of Food, Faculty of Pharmacy, Federal University of Minas Gerais, Belo Horizonte 31270-901, MG, Brazil)、Bruna Luiza Ferreira Moraes(Department of Technology and Inspection of Products of Animal Origin, School of Veterinary Medicine, Federal University of Minas Gerais, Belo Horizonte 31270-901, MG, Brazil)、Washington Azevêdo da Silva(Department of Food Engineering, Federal University of Sao Joao del Rei, Sete Lagoas 35702-031, MG, Brazil)、Christiano Vieira Pires(Department of Food Engineering, Federal University of Sao Joao del Rei, Sete Lagoas 35702-031, MG, Brazil)、Gabriel Augusto Marques Rossi(Department of Veterinary Medicine, Vila Velha University, Vila Velha 29102-920, ES, Brazil)、Cléia Batista Dias(Department of Technology and Inspection of Products of Animal Origin, School of Veterinary Medicine, Federal University of Minas Gerais, Belo Horizonte 31270-901, MG, Brazil)、Bruna Maria Salotti de Souza(Department of Technology and Inspection of Products of Animal Origin, School of Veterinary Medicine, Federal University of Minas Gerais, Belo Horizonte 31270-901, MG, Brazil)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):M. Campos, Beatriz Barbosa Cordeiro de Campos, Isabella Maciel Costa, et al. Potentially Probiotic Lactic Acid Bacteria Strains into Italian-Style Salami: Effects on Ripening and Storage Parameters. Foods 2026-09-07. DOI: 10.3390/foods15173159. 原著ライセンス:CC BY.