著者の所属・活動拠点の国は、ルーマニアです。
掲載誌:Applied Sciences
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
トランス脂肪酸は、脂肪酸の分子にある二重結合が「トランス型」と呼ばれる形をとったものです。牛などの反すう動物の肉や乳製品にもともと少量含まれますが、植物油を部分的に水素化する加工や、揚げる・焼くといった加熱によってもできることが知られています。とりすぎると心血管系の病気などのリスクが高まるとされ、世界保健機関(WHO)は摂取量を1日の総エネルギーの1%未満に抑えるよう勧めています。欧州連合(EU)では、動物由来で自然に含まれるもの以外のトランス脂肪酸について、食品中の脂肪100グラムあたり2グラムという上限が定められています。
ルーマニアの研究チームによると、同国には伝統的な郷土料理と工業的に加工された食品のトランス脂肪酸量を直接比べた体系的なデータがありませんでした。そこで著者らは、伝統的な製法と工業的な製法で作られた食品のトランス脂肪酸量を測り、EUの規制値と照らし合わせることを目的にこの研究を行いました。
何をどう調べたか
研究チームは、ブカレストのスーパーや地元の店で購入した市販品と家庭で作ったものを合わせて81点の試料を集めました。試料は、ファストフード(ピザ、ハンバーガー、フライドポテト、ポップコーン)、ルーマニアの伝統的な甘いパン「コゾナック」とイタリア発祥のパネットーネ、ケーキやタルトなどの洋菓子、パン類、サラミやパテなどの肉製品、ゆで卵やチーズ、パプリカなどの食材の6つのグループに分けられました。クリスマスや復活祭の家族の食卓に並ぶ料理も含まれています。
測定では、まず各食品から脂肪を取り出し、赤外線を当ててその吸収の仕方を調べるフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)で分析しました。トランス型の二重結合は特定の波長(966 cm⁻¹付近)の赤外線をよく吸収するため、その吸収の強さから含有量を求めることができます。著者らは、この方法を脂肪酸の組成を詳しく調べるためではなく、多様な食品のトランス脂肪酸量を素早く比べるためのスクリーニング手法として用いたと説明しています。さらに、多数のデータから試料どうしの似ている度合いを整理する統計手法(主成分分析や階層的クラスター分析)を使って、食品グループごとに試料の特徴を比べました。
主な結果
論文の報告では、81点の中でトランス脂肪酸が最も多かったのはパネットーネで脂肪100グラムあたり0.36グラム、最も少なかったのはゆで卵で同0.15グラムでした。分析したすべての試料が、EUの上限である脂肪100グラムあたり2グラムを下回っていました。
製法による比較では、伝統的なルーマニアの食品は工業的に加工された食品と比べてトランス脂肪酸量が少ないか同程度でした。著者らはその理由として、バターや卵といった加工の少ない材料を使うこと、部分水素化油をあまり使わないこと、加熱条件を管理しやすいことが関係している可能性を挙げています。また、食品グループごとに見ると、脂肪の総量とトランス脂肪酸の量のあいだに統計的に意味のある関係は見られませんでした。研究チームはこれを、脂肪が多い食品ほどトランス脂肪酸も多いとは限らず、脂肪の種類や加工条件のほうが関わっていることを示すものと解釈しています。たとえば脂肪の多いマンガリッツァ豚のサラミも、トランス脂肪酸の割合は低い値でした。
さらに著者らは、クリスマスと復活祭の食事を想定し、代表的な料理の組み合わせからトランス脂肪酸の摂取量を見積もりました。その結果、食べる量が増えがちなお祝いの食事を想定しても、摂取量はWHOが勧める1日の総エネルギーの1%を超えなかったと報告しています。ただし、ルーマニアの祝祭料理の平均的な摂取量を示す全国的なデータは限られているため、これは実際の食習慣を示すものではなく、想定にもとづく試算として解釈すべきだとしています。
研究が示すこと
この研究は、ルーマニアの伝統食品と工業製品のトランス脂肪酸量を同じ方法で比べた基礎的なデータを示し、調べた範囲の食品はいずれも規制値を下回っていたことを報告しています。同時に著者らは、規制値を下回っていても、脂肪の多い料理を何品も組み合わせるお祝いの食事では食べすぎに注意が必要であり、トランス脂肪酸の量は一人分の量や食事全体と合わせて評価することが大切だと述べています。なお、結果は今回分析した製品にもとづくものであり、試料の数や食品の種類を広げることでより幅広い実態が見えてくるとも付け加えています。
原著論文の著者・所属:Cătălina-Beatrice Poteraș(Faculty of Chemical Engineering and Biotechnology, National University of Science and Technology POLITEHNICA Bucharest, 1-7 Gh. Polizu Street, 011061 Bucharest, Romania; National Research & Development Institute for Food Bioresources—IBA, 5 Ancuta Baneasa Street, 020323 Bucharest, Romania)、Fulvia-Ancuța Manolache(National Research & Development Institute for Food Bioresources—IBA, 5 Ancuta Baneasa Street, 020323 Bucharest, Romania)、Adina-Ionuța Gavrilă(Faculty of Chemical Engineering and Biotechnology, National University of Science and Technology POLITEHNICA Bucharest, 1-7 Gh. Polizu Street, 011061 Bucharest, Romania)、Maria-Cristina Todașcă(Faculty of Chemical Engineering and Biotechnology, National University of Science and Technology POLITEHNICA Bucharest, 1-7 Gh. Polizu Street, 011061 Bucharest, Romania)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Cătălina-Beatrice Poteraș, Fulvia-Ancuța Manolache, Adina-Ionuța Gavrilă, et al. Comparative Assessment of Trans-Fatty Acid (TFA) Formation in Foods Processed by Traditional and Industrial Methods. Applied Sciences 2026-09-30. DOI: 10.3390/app16199693. 原著ライセンス:CC BY.