著者の所属・活動拠点の国は、インドネシアです。

掲載誌:Majapahit Journal of Islamic Finance and Management

ライセンス: CC BY-SA 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

ホテルなどのサービス業では、設備や料理だけでなく、従業員と客との直接のやり取りが満足度を大きく左右するとされています。日本の「おもてなし」は、見返りを求めずに心から客を迎える接客の考え方として、国内外で関心を集めています。

著者らによると、これまでのおもてなし研究は、概念の整理や他国との比較、旅館、航空会社、言葉遣いなどを扱うものが中心でした。ホテルの厨房、特にビュッフェや目の前で調理する「ライブキッチン」のように、調理スタッフが客と直接接する場面に注目した研究はほとんどありませんでした。

そこで研究チームは、日本の温泉ホテル「大江戸温泉物語プレミアム ホテル風月」の厨房部門を対象に、おもてなしが日々の業務でどのように実践されているかを調べました。分析には、おもてなしを形にする三つの側面を用いました。「しつらい」はサービスの場の準備と美しさ、「振る舞い」はスタッフの態度や礼儀、「仕掛け」は客の求めを先回りして喜ばせる工夫を指します。あわせて、これらとサービス品質の代表的な評価枠組み「SERVQUAL」との関係や、実践を支える要因と妨げる要因も検討しました。SERVQUALは、サービスの質を「有形性(設備や見た目)」「信頼性」「対応性(迅速さ)」「確実性(知識や礼儀による安心感)」「共感性(個別の気配り)」の五つの観点から捉える考え方です。

どのように調べたか

この研究は数値で効果を測るものではなく、現場の実態を詳しく記述する質的な事例研究です。著者らは、ホテルの厨房で1年間インターンとして働きながら、朝食ビュッフェ、夕食ビュッフェ、ライブキッチンの日々の様子を観察しました。

さらに、料理長、料飲部門のマネージャー、厨房スタッフ4人、ビュッフェやライブキッチンを利用した宿泊客4人の計10人に、メッセージアプリを通じたオンラインでの聞き取りを行いました。業務手順書や運営記録、写真などの資料も参照しています。情報の偏りを避けるため、立場の異なる人の話、観察と聞き取りと資料、異なる時間帯や営業時間帯の様子を突き合わせて確認したと報告されています。

主な結果

研究チームは、三つの側面がいずれも、朝食・夕食のビュッフェとライブキッチンで体系的かつ一貫して実践されていたと報告しています。

「しつらい」では、開店のかなり前から準備が始まっていました。勤続7年のスタッフによると、夕食ビュッフェの準備は開始の約3時間前から、朝食はさらに早い早朝から行われ、毎日のチェックリストで設備を確認していました。料理の配置は、その日の客層、たとえば子ども連れの家族が多いかどうかなどに応じて調整されます。毎月変わる季節の装飾も厨房チームが管理していました。混雑時には、料理を補充する担当、厨房と会場を行き来する担当、全体と客の食べ具合を見渡す責任者の三者で見守る体制が取られていました。料理は容器の中身が3分の1ほど減った時点で補充し、客が品切れを目にする前に対応していたといいます。

「振る舞い」では、客が声をかけるとスタッフは作業の手をゆるめて注意を向け、手が離せないときも目を合わせて笑顔で「すみません、もう少しでございます」と伝えていました。年齢や背景を問わず、すべての客に敬語を使います。予想外の頼みにはすぐに「できません」と答えず、まず確認するか代わりの案を示すよう教育されていました。チェックイン時に記録した食事の好みや制限が事前に厨房へ共有され、アレルギーのある客には原材料表の確認を案内し、宗教上の食の制約がある客には精進料理を用意していました。ライブキッチンで材料や調理法を説明し、客の前で手袋を替える様子が見えることも、客の信頼につながっていたと著者らは述べています。

「仕掛け」としては、メニューに載っていない季節の品(春の手作り桜餅など)、炭火の焼き鳥や氷の上での刺身の切り分けといったライブキッチンでの見せる調理、誕生日の客の皿にハートや花の飾りを添える演出が挙げられています。一方、あるスタッフは裏メニューは出せないものの、新しい料理の案内や、複数のスタッフが声を重ねて場を盛り上げる掛け声などの小さなパフォーマンスを行っていると答えていました。

著者らは、これらの実践によってSERVQUALの五つの観点がすべて満たされていたと結論づけています。おおむね、しつらいは有形性と信頼性に、振る舞いは確実性と共感性に、仕掛けは対応性と信頼性に結びつくと整理されています。また、外国からの客に対しては、出身文化に合わせて説明の仕方を変えたり、ムスリムの客には尋ねられる前にハラールの案内をしたりしていました。二か国語の表示とアレルゲンの絵表示、多言語の説明を表示する小型タブレット、身振り、翻訳アプリなどを組み合わせて、言葉の壁を補っていたことも報告されています。

実践を支える要因としては、明確な役割分担、長年の経験によって手順が自然な振る舞いとして身についていること、客の情報を共有する仕組み、苦情を改善の機会とする「改善」の文化が挙げられました。反対に、休暇シーズンの客の急増、外国人客との言葉の壁、経験の浅い新人スタッフには価値観が十分に身についていないこと、繁忙時に仕掛けが手薄になりやすいことが課題として示されました。

研究が示すこと

この研究は、一つのホテルの厨房を詳しく観察した事例研究です。そこから、おもてなしが単なる心がけや標語ではなく、準備の手順、役割分担、言葉遣い、客の情報の共有といった具体的な仕組みとして、調理の現場に組み込まれている様子が浮かび上がりました。

著者らは、厨房のサービスを生産効率だけでなく文化的な価値観にもとづいて組み立てる考え方の参考になるとしています。同時に、その質を保つには、手順を教えるだけでなく、価値観そのものを身につけていくことが欠かせないことも示しています。

原著論文の著者・所属:Panambunan, Jiniver Debora(Politeknik Negeri Manado, Manado, Indonesia)、Rasjid, Efendy(Politeknik Negeri Manado, Manado, Indonesia)、Papia, Friska Jutresia(Politeknik Negeri Manado, Manado, Indonesia)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Panambunan, Jiniver Debora, Rasjid, Efendy, Papia, Friska Jutresia Implementation of Omotenashi's Cultural Values in Improving Guest Service in the Kitchen: A Case Study of Ooedo Onsen Monogatari Premium Hotel Fugetsu, Japan. Majapahit Journal of Islamic Finance and Management 2026-09-18. DOI: . 原著ライセンス:CC BY-SA 4.0.

本紹介記事の文章(題名・見出しを含む)は、CC BY-SA 4.0で提供します。原著論文をもとにNutriMap Japanが日本語で要約・説明を加えています。対象は本紹介記事の文章に限り、ヒーロー画像・サイトのロゴ・画面デザイン・他の記事・データベース全体は含みません。