著者の所属・活動拠点の国は、インドネシアです。
掲載誌:International Journal of Economics Business and Innovation Research
ライセンス: CC BY-SA 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF
なぜ小さな店の帳簿づけを調べたのか
インドネシアでは、零細・中小企業が経済の大きな柱となっています。一方で、多くの零細事業者は日々のお金の出入りを体系的に記録しておらず、商売がどれだけうまくいっているかを正確に把握しにくいという課題があります。研究チームは、その背景として、事業用のお金と家計のお金が混ざっていることや、取引を記録する習慣がないことを挙げています。
研究チームが取り上げたのは、北スマトラ州カロ県カバンジャヘ郡サムラ村で揚げバナナを作って売る家庭規模の店「EL Sabena Pisang Goreng」です。事前の観察では、売上の記録は不規則で、ほとんどの取引は店主の記憶に頼っていました。そのため、元手や運営費、利益がいくらなのかを正確に知ることが難しい状態でした。
この研究の目的は、この店のお金の管理の実態、簡単な帳簿づけを導入していく過程、そして導入がお金の管理にもたらした変化を記述することです。著者らは、これまでの研究が短期間の研修や大規模なアンケート調査に偏っていたこと、北スマトラの高地にある家庭規模の事業はあまり研究されてこなかったことを、この研究に取り組んだ理由として挙げています。
一つの店を深く観察する方法
研究チームは、一つの事業を現場の文脈の中で詳しく見る「事例研究」の方法を用いました。数値の統計分析ではなく、観察や聞き取りから過程を描き出す質的研究です。
話を聞いた相手は、中心となる店主、製造と販売に関わる従業員2人、常連客4人の計7人です。研究者は2週間にわたり、製造・販売・日々の記録づけの様子を自ら加わりながら観察しました。あわせて、出入金の記録、在庫、損益の計算といった帳簿づけの項目に沿って聞き取りを行い、領収書や支援前後の現金記録も集めました。
帳簿づけの支援は4段階で進められました。まず、家計と事業のお金を分ける大切さを伝えました。次に、現金の入りと出を記録する簡単な帳簿のつけ方、バナナ・小麦粉・食用油といった材料の在庫の記録の仕方を指導しました。最後に、1週間ごとの簡単な損益計算書の作成を手伝いました。損益計算書とは、収入から支出を差し引いて利益を確かめるための表です。
結果の確かさを高めるため、研究チームは店主・従業員・客の話を互いに照らし合わせ、聞き取りの内容を観察記録や書類とも比較しました。さらに、研究チームの解釈が実態と合っているかを店主に確認しています。
帳簿をつける前と後で何が変わったか
店主と従業員2人で営むこの店では、1日に平均150〜200個の揚げバナナを作り、店頭や近所からの注文で販売していました。資金は自己資金で、金融機関からの借り入れはありませんでした。帳簿づけを始める前は、売上金が家計のお金と一緒に保管され、店主は1日の収入や支出を記憶で見積もっていました。材料の仕入れなどの判断も、記録されたデータではなく、手元にある現金の見込みにもとづいて行われていたと報告されています。
2週間の支援を経て、店主は日々の取引を自分で記録できるようになりました。事業用のお金を専用の現金入れに分けて保管するようにもなりました。また、支出のうち特に大きいのは食用油とガスの購入であることがわかりました。これらが運営費全体の中でどれほど大きいかは、それまで店主自身も気づいていなかったといいます。
支援期間中の記録からは、週ごとの純利益が総売上のおよそ30〜35%であることがわかりました。店主はこの数字をそれまで確かには知りませんでした。この情報は、需要が増えやすい週末に生産量を増やす計画を考える際の材料として使われたと報告されています。
論文によれば、帳簿づけを始める前の店主は直感と手元の現金を頼りに判断していましたが、始めた後は現金と在庫の記録から計算して判断するようになりました。ただし著者ら自身も、対象が一つの店に限られること、利益の数字は支援期間中の記録にもとづくもので長期の季節変動を反映していないこと、研究者が支援者として関わったことで記録の行動に影響した可能性があることを、限界として挙げています。
この研究が示すこと
著者らは、正式な会計基準を最初から完全に満たす必要はなく、家庭規模の事業者の力量や必要に合った簡単な記録から始め、段階的に進めていけばよいという見方を示しています。また、複雑すぎる様式は負担となって記録を続ける意欲を下げかねないため、店主の学歴、使える時間、取引の量、技術への慣れに合わせて仕組みを設計することが大切だと論じています。
著者らはさらに、事業のお金を分けて取引を透明に記録する実践は、イスラーム会計で重んじられる誠実さや公正さといった価値とも重なると述べています。
この研究は、一つの小さな揚げバナナ店を通して、帳簿づけの支援が一度きりの知識の伝達ではなく、記録の習慣を身につけていく過程として働いた様子を描いています。日々のお金を書き留めるという身近な実践が、自分の商売を数字で把握することにつながった一例として読むことができます。
原著論文の著者・所属:Muhammad Nur Fahmi(Student, Department of Islamic Economic and Business, Islamic University of North Sumatera, Medan, North Sumatera,Indonesia)、Siti Hafizah(Student, Department of Islamic Economic and Business, Islamic University of North Sumatera, Medan, North Sumatera,Indonesia)、Zahidah Naila(Student, Department of Islamic Economic and Business, Islamic University of North Sumatera, Medan, North Sumatera,Indonesia)、Achiriah, Achiriah(Lecture, Department of Social Sciences, Islamic University of North Sumatera, Medan, North Sumatera,Indonesia)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Muhammad Nur Fahmi, Siti Hafizah, Zahidah Naila, Achiriah, Achiriah Implementation of Simple Bookkeeping to Improve Financial Management at the El Sabena Fried Banana Business in Samura Village. International Journal of Economics Business and Innovation Research 2026-09-30. DOI: 10.63922/ijebir.v5i05.6777. 原著ライセンス:CC BY-SA 4.0.
本紹介記事の文章(題名・見出しを含む)は、CC BY-SA 4.0で提供します。原著論文をもとにNutriMap Japanが日本語で要約・説明を加えています。対象は本紹介記事の文章に限り、ヒーロー画像・サイトのロゴ・画面デザイン・他の記事・データベース全体は含みません。