著者の所属・活動拠点の国は、インドネシアです。
掲載誌:JEMSI (Jurnal Ekonomi Manajemen dan Akuntansi)
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
インドネシアでは、米、食用油、砂糖、卵といった生活必需品を扱う小さな食料品店「ワルン・スンバコ」が住宅地のあちこちにあります。こうした店は日々の暮らしを支える身近な存在で、零細・中小企業の一部として地域経済の土台にもなっています。一方で、多くの店はいまも簡素なやり方で運営されており、特にお金の記録が簡単なものにとどまっていると論文は指摘しています。
記録が不十分だと、資産の紛失、手元資金の不足、代金の未回収、在庫管理の失敗などのリスクが生じやすくなります。それでも、こうした店の多くは長く営業を続けています。著者らはこの点に注目し、店主が経験や勘にもとづいて非公式にリスクを管理しているのではないかと考えました。そこで、正式な会計記録を持たない零細食料品店で、リスク管理が実際にどう行われているのか、またそれが事業の継続にどう関わるのかを調べました。
一軒の店を深く調べる
研究チームが用いたのは、数値を集計する方法ではなく、人々の経験や考え方を言葉と観察から深く理解する「質的研究」です。対象を一つに絞って詳しく調べる「事例研究」の形をとり、2024年1月に開業した「Warung Sembako 3 Putri」という一軒の店を取り上げました。
この店は夫婦が家族以外の人を雇わずに切り盛りしており、長子が休みの日には店番をすることもあります。仕入れは夫婦で行い、買い物メモの作成とお金の管理は妻が担っています。著者らは店主に自由に答えられる形式で直接インタビューを行い、あわせて店の営業の様子、在庫の扱い、客への対応を現地で観察しました。インタビューと観察の結果を突き合わせ、まとめた内容を店主に確認してもらうことで、記述が実態と合っているかを確かめたとしています。
見えてきた五つのリスクと店主の工夫
論文によると、この店は大きく五種類のリスクに直面していました。客のツケ払いが遅れる「信用リスク」、手元の現金が足りなくなる「流動性リスク」、物の紛失などが起きる「業務上のリスク」、商品が期限切れになる「在庫リスク」、そして仕入れ先の値上げによる「価格リスク」です。
なかでも影響が大きかったのは信用リスクと流動性リスクでした。ツケで買う客は1〜5人ほどと多くはありません。しかし支払いが遅れるとお金が回らなくなり、仕入れの際に店主が自分のお金で立て替えることになります。店の規模が小さいため、少人数のツケでも資金繰りに響くと著者らは述べています。店主はツケを簡単なノートに書き留め、口頭で支払いを促し、夕方に客のもとを回って集金していました。
お金の管理では、店のお金と家計のお金がはっきり分かれていませんでした。手元資金が足りないときは自分のお金で補い、差し迫った場合にはまれに近い親族から借りて、比較的短い期間で返すこともありました。仕入れは現金払いで、「お金があるときに仕入れ、ないときは仕入れを控える」という方法をとっていたため、仕入れ先への支払いに困ったことはないといいます。著者らは、これを資金不足のリスクに対する非公式な対策とみています。
記録については、日々の収入と支出はつけておらず、店主は理由を「頭が痛くなるから」と答えています。それでも、切れた商品、商品の値段、客のツケは書き留めていました。仕入れ先のレシートは値段や計算の誤りを確かめるため1週間ほど保管し、その後は処分していました。店主自身は記録が大切だと感じていますが、実際の記録は差し迫って必要な項目に限られていました。
そのほかの出来事や工夫も見られました。客が空のガスボンベを交換済みだと言ったものの実際には渡されておらず、空のボンベを数えたときに紛失が分かったことがありました。在庫については、よく売れて日持ちする商品を選んで仕入れ、パンのように期限が近づいたものは業者に交換してもらっていました。仕入れ値が上がれば売値をすぐ見直し、客に直接説明していました。また、客が多い日も少ない日も毎日店を開け続けることを、店を維持するための大切な方針としていました。
研究が示すこと
著者らは、この店のリスク管理が理論で示されるような体系的な手順には沿っていないものの、限られた資源のなかで経験にもとづく、状況に応じた合理的な対応になっていると結論づけています。こうした非公式なリスク管理が、零細事業を続けるうえで重要な役割を果たしているという見方です。
一方で論文は、収支の記録がないことや、店と家計のお金が分かれていないことが、利益や損失を数字で判断したり、事業を評価したりする際の妨げになりうるとも指摘しています。そのため著者らは、収入・支出・ツケの簡単な記録を少しずつ始めることと、店のお金と家計のお金を分けることを提案しています。帳簿を持たない小さな店の日々の工夫を、リスク管理という視点で読み解いた研究といえます。
原著論文の著者・所属:Tia Khoerunnisa(University of Singaperbangsa Karawang)、Sofi Andriyani(University of Singaperbangsa Karawang)、Zulfania Zulfania(University of Singaperbangsa Karawang)、Gusganda Suria Manda(University of Singaperbangsa Karawang)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Tia Khoerunnisa, Sofi Andriyani, Zulfania Zulfania, et al. Praktik Manajemen Risiko Pada Usaha Warung Sembako Skala Mikro (Studi Kasus Warung Sembako 3 Putri). JEMSI (Jurnal Ekonomi Manajemen dan Akuntansi) 2026-10-01. DOI: 10.35870/jemsi.v12i5.7025. 原著ライセンス:CC BY.