著者の所属・活動拠点の国は、タイ、バングラデシュです。

掲載誌:Journal of Agriculture and Food Research

ライセンス: CC BY-NC-ND 4.0 対象: 公開論文 確認元: Crossref

魚を加工する際には骨や皮など、食べずに捨てられてしまう部分がどうしても出てきます。こうした副産物を「もったいない」と捉え、新しい形で活用しようとする研究が世界各地で進められています。今回紹介するのは、タイの「すり身」生産の過程で発生する魚の骨を原料に、健康食品などに使える「バイオカルシウム」を作ろうとした研究です。

使われたのはブラックチンティラピア(Sarotherodon melanotheron)という魚の骨です。この魚はタイでは侵略的外来種として扱われており、すり身生産の副産物として骨が生じることから、廃棄物の有効活用という観点でも注目されている素材だそうです。

研究でわかったこと

研究チームは、ティラピアの骨を水酸化ナトリウム(NaOH)または水酸化カリウム(KOH)を使って、濃度1Mまたは2Mの条件でアルカリ前処理しました。骨と溶液の比率は1対10(重量/体積比)とし、2時間処理した後、エタノール洗浄、過酸化水素による漂白、乾燥、粉砕という工程を経てバイオカルシウム粉末を得ています。

できあがった粉末の収率(原料の湿重量に対する割合)は26〜28%で、水分活性は室温で0.33〜0.34だったと報告されています。中でも1M KOHで処理した条件が、収率(28%)、カルシウム含量(26.13%)、明るさを示す数値(L∗=88.5)のいずれにおいても最も高い値を示したとされています。

また、SDS-PAGEやATR-FTIRという分析手法を用いることで、粉末中にコラーゲンなどのタンパク質やヒドロキシアパタイト(骨の主成分であるカルシウムを含む結晶)が含まれていることが確認されたそうです。

特に注目される結果として、人の消化管を模した実験(模擬消化)を行ったところ、すべてのバイオカルシウム試料は、市販でよく使われる炭酸カルシウム(溶解性3.4%)と比べて、4〜5倍高いカルシウム溶解性(13.4〜17.50%)を示したと報告されています。中でも2M濃度で処理した条件が最も高い溶解性(17.2〜17.50%)を示したとのことです。

これらの結果から、研究チームは1M KOH処理は収率と明るさに優れるため食品への強化(栄養価を高める用途)に適しており、2M処理は溶解性が高いことからカルシウムサプリメントとしての利用に適しているのではないかとまとめています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この研究は、魚の骨という副産物からカルシウム素材を作る際の前処理条件を比較検討したものであり、実際にヒトが摂取した場合の健康効果を調べたものではありません。溶解性の評価も、実際の消化管内の環境をあくまで模した実験室内の条件によるものです。一つの研究であり、結論が確定したわけではない点にご留意ください。

まとめ

タイで課題となっている外来魚ティラピアの骨を活用し、アルカリ前処理の条件(KOH・NaOHの種類や濃度)によってバイオカルシウム粉末の性質が変わることを示した研究でした。用途に応じて前処理条件を使い分けることで、食品強化用途や高溶解性のサプリメント用途といった異なるニーズに対応できる可能性が示唆されています。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。出典(原著論文):ブラックチンティラピア(Sarotherodon melanotheron)骨由来バイオカルシウム粉末のカルシウム溶解性向上:アルカリ前処理条件の影響(ジャーナル・オブ・アグリカルチャー・アンド・フード・リサーチ・2026年07月)

著者:Theeraphol Senphan(Program in Food Science and Technology, Faculty of Engineering and Agro-Industry, Maejo University, Sansai, Chiangmai, 50290, Thailand)、Natthapong Mungmueang(Program in Food Science and Technology, Faculty of Engineering and Agro-Industry, Maejo University, Sansai, Chiangmai, 50290, Thailand)、Md. Sazedul Hoque(Department of Fisheries Technology, Faculty of Fisheries, Patuakhali Science and Technology University, Patuakhali, 8602, Bangladesh)、Chodsana Sriket(Food Innovation and Management Program, Department of General Science and Liberal Arts, King Mongkut's Institute of Technology Ladkrabang, Prince of Chumphon Campus, Pathiu, Chumphon, 86160, Thailand; Corresponding author.)、Soottawat Benjakul(International Center of Excellence in Seafood Science and Innovation, Faculty of Agro-Industry, Prince of Songkla University, Hat Yai, Songkhla, 90110, Thailand)、Phanat Kittiphattanabawon(Department of Food Science and Technology, Faculty of Agro and Bio Industry, Thaksin University, Phatthalung Campus, Pa-Phayom, Phatthalung, 93210, Thailand)、Sirima Sinthusamran(Department of Agricultural Education, School of Industrial Education and Technology, King Mongkut's Institute of Technology Ladkrabang, Bangkok, 10520, Thailand)