この研究は、メキシコの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Grasas y Aceites

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

食品の多くは、水と油が混ざり合った「エマルション」の状態にあります。その中でも、油の粒が卵白などのタンパク質でできた網目の中に閉じ込められ、全体が固まったものを「エマルション充填ゲル」と呼びます。このとき油の粒は、網目とよく結びついて全体の強さを増す「活性フィラー」として働くこともあれば、網目とほとんど関わらずに強さに寄与しない「不活性フィラー」にとどまることもあります。

研究チームが注目したのは、液体の油をそのまま使うのではなく、カンデリラワックス(メキシコ原産の植物から採れる天然ろう)を加えてゲル状に固めた油、すなわち「オレオゲル」を油相として使った場合です。カンデリラワックスは加熱すると溶け、冷やすと再び固まる「熱可逆的」な性質を持ち、また界面活性(水と油の境目になじむ性質)を示す成分を含むことが知られています。研究の目的は、このカンデリラワックスのオレオゲルを油相として用いたとき、エマルション充填ゲルの熱的性質と力学的性質にどのような影響が出るのか、そしてオレオゲルが活性フィラーとして働くのかを確かめることでした。

調べた方法

著者らは、大豆油にカンデリラワックスを3%(重量比)分散させてオレオゲルを作り、これを卵白タンパク質溶液(可溶性タンパク質濃度9 mg/mL)に乳化させた系(CWO-EWP)を主な対象としました。比較のために、オレオゲルを水に乳化させた系(CWO-W)、大豆油を卵白タンパク質溶液に乳化させた系(O-EWP)、そして卵白タンパク質溶液そのもの(EWP)も用意し、段階的に条件を変えた系どうしを見比べられるようにしています。

これらの系について、示差走査熱量測定(DSC、試料を加熱・冷却しながら出入りする熱を測り、融解や結晶化、タンパク質の変性が起こる温度を捉える手法)、レオロジー測定(変形に対する応答から、固体らしさを表す貯蔵弾性率などを調べる手法)、偏光顕微鏡観察(ワックスの結晶を明るく光らせて、油滴や結晶の分布を目で確かめる手法)を行いました。いずれも25 °Cから90 °Cへの加熱、90 °Cでの保持、そして25 °Cへの冷却という同じ熱処理の流れに沿って測定されています。

主な報告結果

熱的な挙動では、卵白タンパク質が変性する温度は、油を使っても、オレオゲルを使っても大きくは変わらず、おおむね68〜84 °Cの範囲に収まったと報告されています。一方で、変性にともなう熱量(変性エンタルピー)は、卵白タンパク質溶液のみ(0.097 J/g)と比べて乳化させた系で小さく、油を使った系(0.0014 J/g)のほうがオレオゲルを使った系(0.004 J/g)よりもさらに小さくなりました。著者らは、卵白タンパク質が油滴のまわりの膜(界面タンパク質膜)の形成に使われることでその分が変性に寄与しなくなること、またオレオゲル中のワックスも界面活性剤として働くため、安定なエマルションを作るのに必要なタンパク質が少なくて済み、膜に取り込まれずに残るタンパク質が多くなることで説明しています。

DSCの波形を成分ごとに分解する処理(デコンボリューション)では、CWO-EWPにおいて34.9〜82 °Cの範囲に六つの熱的な変化が見いだされました。水に乳化させたオレオゲル(CWO-W)では39.2 °C、48.87 °C、55.47 °Cにワックスの融解に対応する吸熱がはっきり現れたのに対し、CWO-EWPではワックス由来の吸熱は43.92 °Cの一つにまとまって見え、より高温側の69.72 °Cと80.5 °Cはタンパク質の変性に対応していました。著者らは、ワックスの融解とタンパク質のほどける過程が重なり、さらに三次元のタンパク質網目ができることで、弱いワックスの信号が隠れた可能性を指摘しています。冷却時には、CWO-Wが38.18 °Cで結晶化したのに対し、CWO-EWPでは33.7 °Cと41.2 °Cの二か所で結晶化が観測されました。

レオロジー測定では、加熱していくと卵白タンパク質溶液は63.3 °C付近から固さの指標が急に立ち上がり、ゲル化が始まりました。油を使った系(O-EWP)では52.75 °Cとより低い温度で立ち上がったのに対し、オレオゲルを使った系(CWO-EWP)では65.57 °Cとゲル化の始まりが遅れました。著者らはこれを、卵白タンパク質とワックス成分が乳化の段階から相互作用し、その関係が加熱中も保たれた結果だと述べています。90 °Cで保持している間は、分散相が油でもオレオゲルでも同じような粘弾性の挙動を示しました。冷却時には、卵白タンパク質を含む二つの系ができあがったゲル構造を保ったのに対し、タンパク質のないCWO-Wは45 °C手前までオレオゲルが徐々に固まることで固さを増していきました。

偏光顕微鏡では、油を卵白に乳化させた系は大きさの異なる油滴が規則的に並び、加熱の前後で似た様子を保っていました。オレオゲルを卵白に乳化させた系では油滴はより小さく不均一で、熱処理の後にはワックスの結晶が全体に一様に分布していました。これに対し、タンパク質のないCWO-Wでは油滴が不規則な形になり、油滴どうしが寄り集まったり融合したりする様子が見られました。

この結果が意味すること

これらの観察から著者らは、カンデリラワックスのオレオゲルが、単に固められた油としてゲルの中に置かれているのではなく、活性フィラーとして界面のタンパク質膜を補強していると結論づけています。ワックスの熱可逆的な性質によって、加熱中にワックス成分が溶けて動けるようになり、界面の膜ができる過程で卵白タンパク質と相互作用できることが、その鍵とされています。

油相の中身を入れ替えるだけで、ゲルが固まり始める温度も、できあがった構造の性質も変わる――この研究が示しているのは、食品のゲルの性質が、タンパク質だけでも油だけでもなく、両者が接する境目で何が起きているかによって左右されるということです。

著者:Iram Cisneros-García(Food science lab and pilot plant, TecNM/TES Ecatepec)、Alfonso Totosaus(Food science lab and pilot plant, TecNM/TES Ecatepec)、Jorge Fernando Toro-Vazquez(Facultad de Ciencias Químicas, Universidad Autónoma de San Luis Potosí)、Anaid de la Peña‐Gil(Facultad de Ciencias Químicas, Universidad Autónoma de San Luis Potosí)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Iram Cisneros-García, Alfonso Totosaus, Jorge Fernando Toro-Vazquez, et al. Thermal, rheological and microstructure of candelilla wax oleogel as oil fraction. Grasas y Aceites 2026-09-25. DOI: 10.3989/gya.1290251.2385. 原著ライセンス:CC BY.