著者の所属・活動拠点の国は、スペインです。

掲載誌:Food and Bioprocess Technology

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の背景と目的

世界人口の増加でタンパク質を多く含む食品の需要が高まっています。その一方で、畜産の環境負荷や持続可能性、動物福祉への関心も高まっています。そこで、動物性タンパク質に代わる植物性タンパク質が注目されています。著者らによると、豆類は人の食事で摂るタンパク質のおよそ33%を担っており、有望な代替源の一つとされています。

マメ科植物ルピナスの種子から取り出したタンパク質(ルピナスタンパク質単離物)は、粒子が詰まった構造をしていて熱に強いことが知られています。そのため加熱しても形が崩れにくく、粘りの少ない食品に向く素材と考えられてきました。反対に、加熱して固める半固形の食品、たとえばゲル状の肉代替食品には使いにくいという課題がありました。

研究チームは、高い水圧をかける「高静水圧処理」がこの課題の解決につながるかを調べました。仮説は次のとおりです。圧力によってタンパク質が部分的にほどけると、内側に隠れていた水になじみにくい部分(疎水性部分)や、硫黄を含む反応性の部分(遊離SH基)が表に出る。その結果、タンパク質どうしが結びつきやすくなり、ゲルを作る力などが高まる。この仮説のもと、黄色ルピナス(Lupinus luteus)のタンパク質を対象に、圧力処理が構造と食品素材としての性質にどう影響するかを、特にゲル化に注目して評価しました。

どのように調べたか

研究チームは黄色ルピナスの種子を粉にし、アルカリ性の液でタンパク質を溶かし出しました。その後、酸性側に調整してタンパク質を沈殿させ、回収して凍結乾燥しました。得られた素材のタンパク質含量は、乾燥重量あたり約84%と報告されています。

この素材を5%(重量比)の濃度で用意し、200、350、500メガパスカル(MPa)の圧力で10分間処理しました。処理しなかった試料と比べたうえで、次の点を分析しました。タンパク質の折りたたみ方(二次構造・三次構造)、表面の疎水性、SH基とジスルフィド結合(硫黄どうしの結合)の量、分子の大きさ、粒子の大きさです。

食品素材としての性質も調べました。水への溶けやすさ、油と水を混ぜた状態を作り保つ力(乳化性)、泡立ちと泡の持ちです。さらに、加熱して冷ましたときにゲルになる最低のタンパク質濃度(最小ゲル化濃度)と、加熱・冷却の過程でのゲルの硬さ(弾性)の変化も測定しました。

主な結果

圧力をかけると、タンパク質の構造に変化が見られました。350MPaでは、規則的な形をとらない「ランダムコイル」と呼ばれる部分の割合が、無処理の3.4%から11.8%へと有意に増えました。著者らはこれを、タンパク質が部分的にほどけて形を組み替えたことを示すものと解釈しています。二次構造の変化は全体として小さい一方、立体的な折りたたみ(三次構造)の変化はより大きく、350MPaと500MPaでは表面の疎水性が最も高くなりました。

圧力が高いほど、分子量が大きい集合体のしるしが強く現れました。これは、タンパク質どうしが集まって大きなかたまり(凝集体)を作ったことを示しています。この集合体は、硫黄どうしの結合を切る条件で分析すると消えました。著者らはこの結果から、集合体が分子間のジスルフィド結合で安定化している可能性を示しています。粒子の大きさも350MPaと500MPaで大きくなり、特に500MPaで凝集が顕著でした。

食品素材としての性質は、圧力によって異なる方向に変わりました。水への溶けやすさは200MPaで高まりました。一方、乳化性は200MPaを超える圧力で50%以上低下しました。乳化した状態の安定性と泡立ちの性質は、無処理との間に有意な差がありませんでした。

最も明確な改善はゲル化に関するものでした。最小ゲル化濃度は、無処理の13%から200MPaと350MPaで11%、500MPaで12%に下がりました。より少ないタンパク質でゲルを作れるようになったことを意味します。加熱・冷却試験で冷却後のゲルの弾性を比べると、圧力処理した試料はいずれも無処理より高い値でした。ただし、統計的に有意だったのは350MPaだけでした。無処理の試料は低い温度でゲル化し始めましたが、最終的なゲルは最も弱いという結果でした。著者らは、無処理のタンパク質は熱に強い構造のため形を変えにくく、しっかりした網目を作りにくいと説明しています。

研究が示すこと

著者らは、試した条件の中で、ゲル化には350MPa、溶けやすさと乳化性には200MPaが最も好ましかったと結論づけています。圧力の強さを選ぶことで、ルピナスタンパク質の性質を目的に合わせて調整できる可能性が示されました。逆に、構造の変化や凝集が行き過ぎると、用途によっては性能を下げる場合があることも分かりました。

著者らは、ゲル状の肉代替食品(350MPa)や飲料(200MPa)などへの利用を候補に挙げています。同時に、今回の結果は特定の圧力・濃度・時間の条件で、凍結乾燥した素材を水に戻した液を使って得られたものだと注意を促しています。産業での利用には、条件の最適化を含むさらなる検証が必要だとしています。熱に強いことがかえって弱点となっていた植物性タンパク質の性質を、加工の工夫で変えられることを示した研究です。

原著論文の著者・所属:Christina Trigka(Food Safety and Functionality, IRTA, Finca Camps i Armet, Monells, 17121, Catalonia, Spain)、Albert Ribas-Agustí(Food Safety and Functionality, IRTA, Finca Camps i Armet, Monells, 17121, Catalonia, Spain)、Gerard Sabenya(Food Safety and Functionality, IRTA, Finca Camps i Armet, Monells, 17121, Catalonia, Spain)、Montserrat Pinent(Department of Biochemistry and Biotechnology, MoBioFood Research Group, Universitat Rovira i Virgili, c/ Marcel·lí Domingo 1, Tarragona, 43007, Catalonia, Spain; Institut d’Investigació Sanitària Pere Virgili (IISPV), c/ Dr. Mallafrè Guasch 4, Tarragona, 43005, Catalonia, Spain)、Rosa Jorba-Martín(Institut d’Investigació Sanitària Pere Virgili (IISPV), c/ Dr. Mallafrè Guasch 4, Tarragona, 43005, Catalonia, Spain)、Ricard Bou(Food Safety and Functionality, IRTA, Finca Camps i Armet, Monells, 17121, Catalonia, Spain)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Christina Trigka, Albert Ribas-Agustí, Gerard Sabenya, et al. High Hydrostatic Pressure: A Tool for Functional Modification of Lupin Protein Isolates. Food and Bioprocess Technology 2026-10-29. DOI: 10.1007/s11947-026-04626-1. 原著ライセンス:CC BY.