掲載誌:SCIENCE Jurnal Inovasi Pendidikan Matematika dan IPA
ライセンス: CC BY-SA 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
文化の中の数学を授業に生かすために
インドネシアには地域ごとに多様な文化があり、それを数学の学習に生かそうとする「民族数学(エスノマセマティクス)」という考え方があります。民族数学とは、ある文化集団が日々の暮らしや仕事の中で用いている数や形、測定の工夫を、学校で学ぶ数学の概念と結びつけて捉える研究分野です。抽象的になりがちな数学を、身近な文化を通して具体的に理解できるようにすることが期待されています。
著者らは、東ジャワの二つの伝統文化に注目しました。一つは、米粉の生地に黒糖(ヤシ砂糖)を入れて竹筒で蒸し、ココナッツをまぶして食べる伝統菓子「プトゥ・バンブー」です。もう一つは、木の胴をくり抜き、両面に動物の皮を張ったジャワの打楽器「クンダン」で、手のひらでたたいて演奏のテンポやリズムを導く役割を持ちます。
著者らによれば、これまでの民族数学研究は、伝統料理なら料理だけ、楽器なら楽器だけというように、一つの文化対象を単独で扱うものが多かったといいます。そこで本研究は、性格の異なる料理と楽器を一つの分析の枠組みで比較し、そこに含まれる数学の概念を明らかにして、地域の文化に根ざした数学の教材づくりにつなげることを目的としました。
作り手への聞き取りと観察
研究は、人々の暮らしの現場に入り込んで文化を記述する民族誌的な手法を用いた質的研究として行われました。2025年1月から3月にかけて東ジャワで調査が実施され、目的に合った情報提供者として、プトゥ・バンブーを売る2人と、クンダンの職人であり奏者でもある1人が選ばれました。
研究チームは、製造の現場での観察、写真などの記録、半構造化面接と呼ばれる柔軟な聞き取りを組み合わせてデータを集めました。調べた内容は、二つの対象の形や寸法、生地の材料の配合比、蒸し時間や皮の乾燥といった製造工程です。複数の手法や情報源の結果を照らし合わせて確認しながら、見いだされた特徴を学校数学の概念と対応づけて整理しました。
円、円柱、比、時間と温度
報告によると、プトゥ・バンブーとクンダンには、共通して四つの数学の概念が見いだされました。一つ目は平面図形の円です。プトゥ・バンブーの生地の表面や竹の型の断面、クンダンの上下の皮の面はいずれも円の形をしており、半径・直径・面積・円周といった要素と結びつけられるとしています。
二つ目は立体図形です。竹筒の型とそこで蒸された生地は円柱の形をしており、クンダンの木の胴は円柱を二つ合わせたような形、あるいは円錐の先を切り落とした形(円錐台)を二つ組み合わせた形に似ていると説明されています。著者らは、これらを曲面を持つ立体として、体積や表面積の学習に結びつけられるものと位置づけました。
三つ目は時間と温度の測定です。プトゥ・バンブーは約100℃の蒸気で10分ほど蒸して作られ、クンダンの皮は日差しの強さに応じて数日かけて乾かされるといいます。四つ目は比です。プトゥ・バンブーの生地では米粉と黒糖がおよそ3対1の割合で配合されていると報告されています。クンダンについては、大きい面と小さい面の皮の直径の比を、30センチと20センチ、すなわち3対2という例で示し、この比が音の高さに関わると論文は説明しています。
料理と楽器をつなぐ視点
著者らは、食べ物と楽器という異なる分野の伝統文化を一緒に分析することで、扱える数学の概念に幅が生まれ、より充実した教材の素材になると論じています。教師が、プトゥ・バンブーやクンダンを円や立体、比の問題の題材として用いることが想定されており、文化への誇りや伝統の継承にもつながるとしています。
なお、本研究は文化の中に含まれる数学の概念を記述・整理したものであり、これらの教材を実際の授業で使い、児童生徒の理解がどの程度深まるかを測定したものではありません。身近な菓子や楽器の形や作り方に、学校で学ぶ数学がそのまま現れていることを具体的に示した点に、この研究の意味があるといえます。
原著論文の著者・所属:Arinda Cahyaning Putri(Universitas HKBP Nomensen Pematangsiantar)、Asima Rohani Saragih(Universitas HKBP Nomensen Pematangsiantar)、Aunisea Rosayana Tambunan(Universitas HKBP Nomensen Pematangsiantar)、Eka Lidya Simatupang(Universitas HKBP Nomensen Pematangsiantar)、Tasya Damanik(Universitas HKBP Nomensen Pematangsiantar)、Tiara Angel Christine Saragih(Universitas HKBP Nomensen Pematangsiantar)、Yosephin Clarita Galingging(Universitas HKBP Nomensen Pematangsiantar)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Arinda Cahyaning Putri, Asima Rohani Saragih, Aunisea Rosayana Tambunan, Eka Lidya Simatupang, Tasya Damanik, Tiara Angel Christine Saragih, Yosephin Clarita Galingging EKSPLORASI ETNOMATEMATIKA PADA MAKANAN TRADISIONAL PUTU BAMBU DAN ALAT MUSIK TRADISIONAL KENDANG DARI JAWA TIMUR. SCIENCE Jurnal Inovasi Pendidikan Matematika dan IPA 2026-08-15. DOI: 10.51878/science.v6i3.13547. 原著ライセンス:CC BY-SA 4.0.
本紹介記事の文章(題名・見出しを含む)は、CC BY-SA 4.0で提供します。原著論文をもとにNutriMap Japanが日本語で要約・説明を加えています。対象は本紹介記事の文章に限り、ヒーロー画像・サイトのロゴ・画面デザイン・他の記事・データベース全体は含みません。