桑(Morus alba L.)の根の皮を乾燥させた「桑白皮(そうはくひ)」は、ポリフェノールを豊富に含む植物素材として知られています。ポリフェノールは食品や化粧品分野で注目される成分ですが、その抽出には従来メタノールやエタノールといった有機溶媒が使われてきました。今回紹介する研究では、こうした溶媒に代わる方法として「深共晶溶媒(DES)」と超音波を組み合わせた抽出技術を開発し、得られた成分の中からチロシナーゼ(メラニン生成に関わる酵素)を阻害する候補物質を探索しています。
36種類の溶媒から最適な組み合わせを選定
研究チームはまず、36種類の深共晶溶媒を比較し、その中でベタインとスクロースを組み合わせた溶媒(DES-6)が最も高い抽出性能を示すことを確認しました。さらに応答曲面法という統計的手法を用いて、含水率35%、温度57℃、液固比90mL/g、超音波処理時間20分、出力520Wという条件を導き出しています。この条件では総ポリフェノール収量が232.93±0.95mg GAE/gに達し、同条件で比較したメタノール抽出の最高値より28.31%、エタノール抽出の最高値より32.78%高い値となりました。走査電子顕微鏡による観察では、超音波と深共晶溶媒の併用によって植物の細胞壁に浸食や孔の形成、亀裂、部分的な崩壊が生じている様子が確認され、これが溶媒の浸透と成分の移動を助けたと考えられています。
58種のポリフェノールを同定し、酵素阻害候補を絞り込み
抽出液はHPD-100という多孔性樹脂で精製された後、高分解能質量分析(UHPLC–Q–Orbitrap HRMS)によって分析され、58種類のポリフェノール化合物が同定されました。このうち11種は桑白皮からの報告としては本研究で初めて確認されたものです。精製画分の中でも「70-W2」と呼ばれる画分は強いチロシナーゼ阻害活性を示し、その50%阻害濃度(IC50)は1.92±0.03µg/mLで、比較対象として用いられた既知の阻害物質コウジ酸(IC50=12.54±0.21µg/mL)を上回る値でした。さらに、酵素と結合する成分を選び出す「アフィニティ限外濾過-LC-MS」というスクリーニング手法により、チロシナーゼに結合しうる候補として7種の成分が特定されました。コンピューター上で分子と酵素の結合しやすさを予測する分子ドッキング解析では、2-ヒドロキシナリンゲニン4′-O-グルコシドが最も良好な予測結合スコア(−10.5kcal/mol)を示し、続いてマルベロサイドA、5,7,2′,6′-テトラヒドロキシフラバノンが挙げられています。研究チームは、これらの候補は今後さらに生化学的および生体内での検証が必要だとしています。
研究の位置づけと読むうえでの注意
この研究ではあわせて、開発した深共晶溶媒を3回再利用した後でも初回の90.51±2.28%の抽出性能を維持できたことや、赤外分光分析・粘度・密度の測定から短期的な物理化学的安定性が支持されたことも報告されています。ただし、今回示されたチロシナーゼ阻害活性はあくまで実験室レベルでの評価であり、分子ドッキングによる結合予測も含めて、ヒトの肌における効果や安全性を保証するものではありません。著者らも候補成分についてさらなる検証が必要だと述べており、一つの研究として今後の発展が期待される段階にあります。
まとめ
本研究は、超音波と深共晶溶媒を組み合わせることで、従来の有機溶媒よりも効率的に桑白皮からポリフェノールを取り出せる可能性を示すとともに、得られた成分の中からチロシナーゼに結合しうる候補物質を科学的な手法で絞り込んだ点に特徴があります。食品や化粧品分野での天然由来成分の探索において、こうした抽出技術と活性スクリーニングを組み合わせるアプローチの一例として位置づけられます。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Wei D, Manqiu Lei, Sina Wang, et al. Ultrasound-assisted deep eutectic solvent extraction and macroporous resin enrichment of polyphenols from Cortex Mori: Screening of tyrosinase inhibitors via affinity ultrafiltration–LC–MS and molecular docking. ウルトラソニックス・ソノケミストリー (2026). DOI: 10.1016/j.ultsonch.2026.108006. 原著ライセンス: cc-by-nc.