著者の所属・活動拠点の国は、中国、サウジアラビアです。

掲載誌:Ultrasonics Sonochemistry

ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: Crossref

エリンギ(学名:Pleurotus eryngii)は、食感の良さから人気のきのこですが、ポリフェノールなどの機能性成分を含むことでも知られています。こうした成分を食品や機能性食品の原料として活用するには、効率よく、かつ環境に優しい方法で抽出する技術が求められます。今回紹介する研究では、超音波の力と「深共晶溶媒(DES)」と呼ばれる新しいタイプの溶媒を組み合わせて、エリンギからポリフェノールを持続可能な方法で取り出す試みが行われました。

深共晶溶媒とは、複数の成分を混ぜ合わせることでできる溶媒の一種で、従来の有機溶媒に代わる、より環境負荷の少ない選択肢として近年注目されています。この研究では、まず単一の条件(温度や超音波の強さなど)を一つずつ変えて影響を調べる予備実験を行い、その後「応答曲面法」という統計的な手法を用いて、抽出条件を細かく最適化しました。

研究でわかったこと

最適化の結果、温度50℃、超音波出力320W、固液比60g/L、抽出時間20分という条件で、エリンギ由来ポリフェノール(PEPs)の収率が最も高くなると予測されました。この条件で実際に実験を行ったところ、予測値39.60 mg GAE/gに対し、実測では37.03 ± 1.3 mg GAE/gという収率が得られたと報告されています。

抽出が進む過程(反応速度)を数式で表したところ、「擬似二次反応モデル」という式によく当てはまった(決定係数R2が0.99を超えた)とのことです。また、赤外分光法(FTIR)による分析では、最適化した溶媒の主要な化学構造が保たれていることが確認され、超音波を使った抽出法が実際にポリフェノールの抽出に有効に働いていることが裏付けられました。さらに走査型電子顕微鏡(SEM)による観察では、原料のきのこと、水・エタノール・深共晶溶媒(超音波あり・なし)でそれぞれ抽出した後の粉末とを比べたところ、見た目の構造にはっきりとした違いが見られ、抽出処理によって組織が変化している様子がうかがえたとされています。

成分の内訳を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で調べたところ、主なポリフェノール成分としてバニリン酸(9.14 mg/g)と没食子酸(7.46 mg/g)が同定されました。また、この研究ではフマル酸、6,7-ジヒドロキシクマリン、カフェ酸についても、エリンギから初めて検出されたと報告されており、これまで知られていなかった成分プロファイルの広がりを示すものとされています。

さらに、この超音波・深共晶溶媒法で抽出したポリフェノールは、ABTS法、DPPH法、FRAP法という3種類の代表的な抗酸化活性の測定法いずれにおいても、活性が大きく高まっていたと報告されています。加えて、抗菌性についても検討され、0.35 mg/mLの濃度でアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger、いわゆるクロカビの一種)の生育を86.6%抑制する効果が確認されたとされています。

この研究の位置づけと読むうえでの注意

この研究は、実験室レベルでの抽出条件の最適化と、抽出物の性質を分析した基礎研究です。抗酸化活性や抗菌効果が「示された」とされていますが、これはあくまで実験環境下での測定結果であり、これらの成分を摂取した場合に人の健康にどのような影響があるかを直接示すものではありません。また、一つの研究であり、結論が確定したわけではない点にも留意が必要です。論文の著者らは、この手法がきのこ由来の副産物を有効利用し、機能性食品などへ応用できる可能性を持つ、持続可能で効率的なアプローチであると位置づけています。

まとめ

この研究では、超音波と深共晶溶媒を組み合わせることで、エリンギからポリフェノールを効率よく抽出できる条件が明らかにされ、その抽出物には高い抗酸化活性や抗菌効果が確認されたと報告されています。また、これまでエリンギから見つかっていなかった複数の成分が新たに検出されたことも示されています。食用きのこの新たな価値や、食品廃棄物・副産物の有効活用につながる研究として、今後の展開が注目されます。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。出典(原著論文):超音波支援深共晶溶媒を用いたエリンギからのポリフェノールの持続可能な抽出:プロセス最適化と生物活性(ウルトラソニックス・ソノケミストリー・2026年08月掲載予定)

著者:Muhammad Waheed Iqbal(State Key Laboratory of Green Chemical Synthesis and Conversion, Zhejiang University of Technology, Zhejiang, Hangzhou, 310014, China; College of Food Science and Technology, Zhejiang University of Technology, Zhejiang, Hangzhou 310014, China)、Ping Shao(State Key Laboratory of Green Chemical Synthesis and Conversion, Zhejiang University of Technology, Zhejiang, Hangzhou, 310014, China; College of Food Science and Technology, Zhejiang University of Technology, Zhejiang, Hangzhou 310014, China; Moganshan Research Institute at Deqing County Zhejiang University of Technology, Huzhou 313200, China)、Yang Lin(State Key Laboratory of Green Chemical Synthesis and Conversion, Zhejiang University of Technology, Zhejiang, Hangzhou, 310014, China; College of Food Science and Technology, Zhejiang University of Technology, Zhejiang, Hangzhou 310014, China; Corresponding author.)、Sanabil Yaqoob(Moganshan Research Institute at Deqing County Zhejiang University of Technology, Huzhou 313200, China; Laboratory of Food Nutrition and Clinical Research, Institute of Seafood, Zhejiang Gongshang University, Hangzhou, 310012, China)、Muhammad Shoaib(College of Biosystems Engineering and Food Science, Zhejiang University, Hangzhou, 310058, China)、Qing Shen(Laboratory of Food Nutrition and Clinical Research, Institute of Seafood, Zhejiang Gongshang University, Hangzhou, 310012, China)、Moneera O. Aljobair(Department of Sports Health, College of Sports Sciences and Physical Activity, Princess Nourah bint Abdulrahman University, Riyadh, Saudi Arabia)、Isam A. Mohamed Ahmed(Department of Food Sciences and Nutrition, College of Food and Agricultural Sciences, King Saud University, P. O. Box 2460, Riyadh 11451, Saudi Arabia)