桑の実(マルベリー)には、食物繊維の一種である「多糖類(ポリサッカライド)」が含まれており、健康素材として研究が進められています。ただし同じ桑の実由来の多糖類でも、どのような方法で抽出するかによって、その構造や体への働きかけ方が変わる可能性があります。今回紹介する研究では、「酵素・超音波併用抽出」という比較的新しい抽出方法を数理的な手法で最適化したうえで、従来からよく使われる「熱水抽出」による多糖類と比べて、マウスを使った実験でどちらがより肝臓や腸の状態に関わる働きを示すかを調べています。
背景には、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)という、お酒をあまり飲まない人にも起こる脂肪肝が、腸内環境と肝臓の状態が密接に関係し合う「腸肝軸」の乱れによって引き起こされると考えられていることがあります。腸内細菌のバランスと肝臓の健康がどうつながっているのかは、栄養学の分野でも関心の高いテーマです。
研究でわかったこと
研究チームはまず、桑の実から多糖類を効率よく取り出すための「酵素・超音波併用抽出(EAUE)」という方法について、抽出条件を最適化する作業を行いました。ここでは「応答曲面法(RSM)」と、遺伝的アルゴリズムとニューラルネットワークを組み合わせた「GA-BP」という2種類の数理的な予測手法が比較されています。その結果、RSMのほうが実験値に近い予測を示したと報告されています。RSMによって導き出された最適な抽出条件は、抽出時間107分、液体と原料の比率33対1、酵素の添加量350mg、抽出温度52℃で、この条件のもとで得られた多糖類の収率は10.06±0.03%だったとされています。
次に、この方法で得られた多糖類(MPEU)と、従来の熱水抽出で得られた多糖類(MPHW)について、構造の特徴を調べたところ、MPEUのほうが糖同士のつながり(グリコシド結合)の構造がより完全な形で保たれていたと報告されています。
さらに、脂肪肝を誘導する条件と同時に多糖類を30日間投与するマウス実験が行われ、血液検査や腸内細菌叢を調べる16S rRNA解析などによって、体の中での働きが比較されました。その結果、MPEUはMPHWと比べて、肝臓の脂肪蓄積(脂肪肝)や腸の損傷、炎症を和らげる効果がより強かったと報告されています。そのしくみとして、短鎖脂肪酸(SCFA)を作る腸内の善玉菌とされる細菌を回復させる一方で、炎症を促すとされる細菌の増殖を抑える働きが関わっている可能性が示唆されています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、抽出方法の違いによって桑の実由来の多糖類の構造や体への働きかけ方が異なりうることを、マウスを用いた実験で確認したものです。ヒトでの効果を直接示したものではなく、あくまで一つの研究であり、結論が確定したわけではない点には注意が必要です。また、今回の比較は熱水抽出との違いに焦点が当てられており、今後さらなる検証が積み重ねられることで理解が深まっていくと考えられます。
まとめ
この研究では、桑の実から多糖類を取り出す際の抽出方法(酵素・超音波併用抽出)の条件を数理的手法で最適化し、その結果得られた多糖類が、従来の熱水抽出による多糖類よりも、マウスの脂肪肝や腸の状態に関連する腸内細菌叢のバランスに強く働きかけたと報告されています。抽出方法という「作り方」の違いが、素材の機能性に影響しうることを示す興味深い研究といえそうです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:桑実ポリサッカライドの酵素・超音波併用抽出の最適化におけるRSMおよびGA-BPの活用と熱水抽出ポリサッカライドとのNAFLDに対する保護作用の比較(フロンティアーズ・イン・ニュートリション・2026年07月)