著者の所属・活動拠点の国は、タイ、ドイツです。
掲載誌:Agronomy
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:微生物資材は「いつ」使うかで効き方が変わるのか
タイを代表する香り米「カオ・ドーク・マリ105(KDML105)」、いわゆるタイのジャスミンライスは、独特の香りや炊き上がりの良さで高く評価されています。その市場価値は品質と深く結びついているため、収量とともに品質を保つことが生産上の大きな課題です。
この米が育てられる水田では、土が長く水に浸かって酸素が乏しくなり、養分の形や植物の吸収しやすさが大きく変わります。とくに窒素は、水田ではアンモニウム態窒素が作物の主な窒素源になります。一方で、施した化学肥料の窒素のうち作物が利用できるのは一般に3〜5割程度にとどまるとされ、養分をより効率よく使う方法が求められています。
その手段の一つとして注目されているのが、乳酸菌などの微生物を含む発酵資材です。ただ、こうした資材を田植え前、田植え時、生育途中のどの時期に使うかによって、微生物が土の中でどれだけ残り、養分の動きにどう影響するかは、ほとんど調べられていませんでした。研究チームは、ショウガを発酵させてつくった微生物資材(GFMI)について、散布時期の違いが土と田面水の養分、稲の生育、収量、米の品質に及ぼす影響を調べました。
何をどう調べたか
資材は、生のショウガと糖蜜、塩素を抜いた水をおよそ1対1対13の割合で混ぜ、市販の種菌などを加えずに4か月間自然発酵させてつくられました。散布直前の資材には、乳酸菌の培養に使われるMRS培地で増える細菌(乳酸菌と推定されるもの)が1ミリリットル当たり約1200万個含まれていました。ただし、培地で数える以外に代表的な菌を分離したり、どのような微生物が含まれているかを分類したりはしておらず、著者らは、得られた効果は特定の菌ではなく発酵資材全体によるものとして解釈すべきだとしています。
実験は2025年の雨季にタイ北部チェンマイ県の水田で行われました。資材を使わない対照区のほか、耕起前に散布する区、田植え時に散布する区、分げつ期(茎が増える時期)に散布する区の4つを設け、それぞれ3回ずつ繰り返して計12区画で比較しました。資材は500倍に薄めて、どの区でも同じ量を散布し、有機肥料も全区画に同じように施しています。
研究チームは生育期間を通じて土と田面水を繰り返し採取し、土の酸性度、有機炭素、アンモニウム態窒素、硝酸態窒素、リン、カリウム、MRS培地で数えた推定乳酸菌の数などの変化を追いました。収穫後には、茎葉の養分、収量のほか、米のタンパク質や脂質、アミノ酸、ミネラル、炊飯特性を測定し、プロの料理人10人による食味評価も行いました。
主な結果:田植え時の散布で収量と品質の向上が最も大きかった
資材の散布は、土の酸性度、有機炭素、アンモニウム態窒素、利用しやすいリン、推定乳酸菌の数、田面水のアンモニウム態窒素に有意な影響を与えました。土の中の推定乳酸菌の数は、耕起前散布区で生育期間を通じて最も多く保たれていました。しかし、稲の生育や収量で最も強い反応が見られたのは、田植え時散布区でした。
土のアンモニウム態窒素は、稲が盛んに育つ時期に、資材を使った区のほうが対照区よりおおむね多くなりました。田植えから69日後には、田植え時散布区で1キログラム当たり98.1ミリグラムに達し、対照区の76.0ミリグラムを上回りました。これに伴い、田植え時散布区では茎葉の窒素・リン・カリウムの濃度も高くなりました。
籾の収量は田植え時散布区で1ヘクタール当たり6.40トンと最も多く、対照区の5.54トンより15.5%多い結果でした。この区の米はタンパク質(7.62%)と脂質(0.63%)の含有率も最も高く、グルタミン酸やアスパラギン酸、プロリンなど複数のアミノ酸が多くなっていました。ミネラル組成も資材の影響を受けましたが、反応は元素によってまちまちでした。
一方、炊飯にかかる時間や炊いたときの膨らみ方などの炊飯特性には、処理による有意な差は見られませんでした。食味評価では資材を使った米のほうが好まれる傾向があり、田植え時散布区の米が香り、味、総合評価で最も高い点を得ました。
この研究が示すこと
著者らは、発酵微生物資材の散布を田植えの時期に合わせることで、その効果が最も大きく引き出され、養分の利用しやすさ、収量、米の品質の向上につながったと結論づけています。土の中で培地により数えた推定乳酸菌の数は耕起前散布区で最も多かったのに対し、収量などの稲の反応は田植え時散布区で最も大きかったという点も、この研究の特徴的な結果です。
同じ資材を同じ量だけ使っても、いつ使うかによって結果が変わりうることを、この研究は湛水栽培のジャスミンライスで示しました。微生物資材の効果を考えるうえで、散布の時期が見落とせない要素であることを伝える報告といえます。
原著論文の著者・所属:Thidarat Rupngam(Department of Environmental Engineering, Faculty of Engineering, Chiang Mai University, Chiang Mai 50200, Thailand; Office of Research Administration, Chiang Mai University, Chiang Mai 50200, Thailand)、Patchimaporn Udomkun(Department of Environmental Engineering, Faculty of Engineering, Chiang Mai University, Chiang Mai 50200, Thailand; Office of Research Administration, Chiang Mai University, Chiang Mai 50200, Thailand)、Joachim Müller(Institute of Agricultural Engineering, Tropics and Subtropics Group, University of Hohenheim, 70599 Stuttgart, Germany)、Thirasant Boonupara(Living Soil Co., Ltd., Chiang Mai 50100, Thailand)、Puangrat Kaewlom(Department of Environmental Engineering, Faculty of Engineering, Chiang Mai University, Chiang Mai 50200, Thailand)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Thidarat Rupngam, Patchimaporn Udomkun, Joachim Müller, et al. Application Timing of a Ginger-Fermented Microbial Inoculant Affects Soil Nutrient Dynamics, Rice Yield, and Grain Quality in Flooded KDML105 Rice. Agronomy 2026-07-31. DOI: 10.3390/agronomy16151452. 原著ライセンス:CC BY.