桑の実(マルベリー)は鮮やかな色合いとポリフェノール類を含むことで知られる果実ですが、近年は乳酸菌で発酵させたジュースへの関心も高まっています。発酵食品は保存性や風味、機能性が変化することが知られていますが、どの乳酸菌を使うか、どの温度で保存するかによって、その中身がどう変わるのかは意外と詳しく調べられていません。今回紹介する研究は、この点に着目し、桑の実ジュースを対象に、乳酸菌の株の違いと保存温度の違いが品質や機能性成分にどのような影響を与えるのかを系統的に調べたものです。
研究チームは、桑の実ジュースをLactobacillus plantarum(LPJ)とLactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus(LBJ)という2種類の乳酸菌でそれぞれ発酵させ、室温(25℃)と冷蔵(4℃)で保存した際の変化を比較しました。
研究でわかったこと
まず、乳酸発酵によって糖分・pH・タンパク質の量は減少したと報告されています。一方で、発酵後には総フェノール量、総フラボノイド量、総アントシアニン量、そして抗酸化活性がいずれも高まったとされています。桑の実に含まれるこうした成分は、発酵という工程を経てむしろ増える方向に変化したという点が、この研究の興味深いポイントの一つです。
ただし、これらの機能性成分は保存期間が進むにつれて減少していく傾向が確認されました。興味深いのは、この減少のスピードが保存温度によって異なっていた点です。4℃で保存した場合は、室温保存に比べて機能性成分の減少がゆっくりであったと報告されています。また、2種類の乳酸菌を比較すると、LPJ(Lactobacillus plantarum)で発酵させたグループの方が、より高い抗酸化活性を示したとされています。
香り成分についても詳しく分析されており、合計144種類の揮発性香気成分(食品の香りのもとになる成分)が確認されました。発酵前の桑の実ジュースと比べると、発酵後は香気成分の種類と量がいずれも増加したことが示されています。しかし、21日間の保存を経ると、確認できた揮発性成分の数は120種類まで減少し、特にエステル類とアルデヒド類という香り成分のグループが大きく減ったと報告されています。
さらに、LPJで発酵させた桑の実ジュースから得られた粗多糖類(精製前の多糖成分)については、脱水素酵素活性や血糖値を下げる方向の作用が確認されたとされ、研究チームは桑の実が持つ医学的な可能性を支持する結果だとまとめています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、乳酸菌の株と保存温度という2つの条件を組み合わせて、桑の実発酵ジュースの品質や機能性成分がどのように変化するかを詳しく追跡したものです。ただし、これは一つの研究であり、結論が確定したわけではありません。ここで示された効果や作用は、あくまで今回の実験条件下で観察された結果であり、実際にヒトが摂取した場合の健康効果を直接示すものではない点に留意が必要です。今後、さらなる研究によって知見が積み重ねられていくことが期待されます。
まとめ
桑の実ジュースを乳酸菌で発酵させると、糖・pH・タンパク質が減る一方で、フェノールやフラボノイド、アントシアニンといった成分や抗酸化活性が高まると報告されています。保存中はこれらの成分や香り成分が徐々に減少しますが、冷蔵保存(4℃)の方が室温保存よりも減少が緩やかであったとされ、乳酸菌の種類によっても抗酸化活性に差が見られたことが示されています。発酵や保存条件の工夫によって、食品の機能性成分がどう変化するかを考えるうえで、参考になる知見と言えそうです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:乳酸菌株と保存温度が発酵桑の実ジュースの品質および機能性に及ぼす影響(フード・ケミストリー:エックス・2026年07月)