著者の所属・活動拠点の国は、ドイツ、カナダです。

掲載誌:European Food Research and Technology

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

豆腐や豆乳をつくる過程で出る「おから」は、大豆1キログラムあたりほぼ同じ量(1〜1.2キログラム)が発生するとされ、世界全体では年間およそ1400万トンにものぼると見積もられています。食物繊維やたんぱく質、脂質を豊富に含む一方で、水分が80%を超えて傷みやすいこと、消化されにくいこと、そして風味が食品として使いにくいことが、これまで食用としての活用を妨げてきました。今回紹介する研究は、この「使いにくい副産物」を、きのこの一種と乳酸菌を順番に働かせることで、風味と機能性の両面から価値を高められないかを検証したものです。

どんな方法で調べたのか

研究チームが用いたのは、Cyclocybe aegerita(ポプラダケの仲間の食用きのこ)による固体発酵と、それに続く5種類の乳酸菌(Lacticaseibacillus rhamnosus、Lacticaseibacillus casei、Lactiplantibacillus plantarum、Pediococcus acidilactici、Pediococcus pentosaceus)による液体発酵を組み合わせる「二段階発酵」です。まず滅菌したおからにC. aegeritaの菌糸を接種し、24℃・湿度70%の環境で12日間培養して完全に菌をいきわたらせます。その後、この菌類発酵済みおから、および未発酵のおからそれぞれに5種の乳酸菌を等量ずつ混ぜた混合種菌を加え、37℃で48時間、追加の発酵を行いました。乳酸菌どうしが互いの増殖を妨げないかも、事前に「スポット・オン・ローン試験」という方法で確認されています。評価項目は、たんぱく質・食物繊維・糖質などの成分変化、乳酸菌の増殖数(CFU)とpH、フェノール化合物量や抗酸化力(DPPHラジカル消去能)、ヒト血管内皮細胞(EA.hy926細胞)を使った抗炎症マーカー(COX-2)や細胞内活性酸素(ROS)の測定、さらに訓練を受けた22名(男女各11名)によるにおいの官能評価と、電子舌によるうま味・苦味・渋みなどの味覚測定、そしてガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)による香り成分35種の同定です。

発酵によっておからはどう変わったか

まず、C. aegeritaによる菌類発酵は「下ごしらえ」として強く働いたようです。総食物繊維量を約22%、総炭水化物量を約70%減らす一方で、還元糖(消化・代謝されやすい糖)の濃度を3.8倍に増やしており、複雑な繊維構造がかなり分解されたことがうかがえます。この下ごしらえのおかげで、続く乳酸菌の増殖数は、菌類発酵を経ていないおからで乳酸菌のみを加えた場合と比べて2〜3桁(log10換算)多くなりました。ただし発酵48時間を過ぎると増殖はほぼ頭打ちになり、これは分解されやすい糖が使い尽くされたためと考察されています。pHについては、菌類発酵を経た試料のほうが乳酸菌接種前から酸性寄り(pH6.63対7.19)でしたが、最終的な酸性化の程度はほかの大豆発酵食品の報告と比べて緩やかなものにとどまりました。

香りの面では、生のおから特有の「豆くさい」「青くさい」「土っぽい」においが、発酵によって弱まりました。ヘキサナールという香り成分は約97%減少し、ノナナールや2-ペンチルフランといった成分は検出されなくなっています。かわりに、菌類発酵は分岐鎖のメチル脂肪酸類の生成を促し、続く乳酸菌発酵はアセトインやジアセチルといった、発酵食品に特徴的な香り成分を新たに生み出しました。味については、電子舌による測定で、発酵させたおからではうま味が増し、苦味や渋みが弱まる傾向が見られました。うま味の増加はC. aegeritaの菌糸に含まれるグルタミン酸や5'ヌクレオチドなどのうま味成分によるものと考えられており、苦味の低減にはうま味成分が苦味の感じ方を抑える作用も関わっている可能性が挙げられています。

機能性の面でも変化が見られました。フェノール化合物(ポリフェノール類)の濃度は発酵によって大きく増加し、これに伴って抗酸化力(DPPHラジカル消去能)は、二段階発酵させたおからで未発酵のものの4.4倍に達しました。ヒト由来培養細胞を使った実験では、TNF-αという炎症を引き起こす物質で刺激した細胞において、発酵させたおからは細胞内の活性酸素の増加を抑える傾向が見られ、特に菌類発酵を経た試料では炎症マーカーであるCOX-2の発現が下がり、抗炎症的な効果がおよそ17%強まったとされています。研究チームは、この効果にC. aegeritaが持つラッカーゼなどのリグニン分解酵素や、菌が作り出す多糖類が関わっている可能性を挙げていますが、その詳しい化学構造までは今回の研究では特定されていません。

この研究を読むうえで気をつけたいこと

この研究は、あくまで実験室レベルでの検証であり、ヒトが実際に発酵おからを食べた場合の健康への影響を調べたものではありません。抗酸化力や抗炎症効果は、試験管内の反応や培養細胞を使った実験で確認されたものであり、研究チーム自身も、フェノール化合物の測定に用いたFolin-Ciocalteu法は還元糖の存在によって数値が実際より高く出ている可能性がある点や、抗炎症効果に関わる具体的な多糖構造は未解明である点を限界として挙げています。また、乳酸菌がどの酵素を使って糖質を分解したのかも、今回は特定されていません。一つの研究であり、ヒトでの効果や食品への実用化については、今後さらなる検証が必要と考えられます。

まとめ

今回の研究は、豆腐づくりで大量に発生する副産物「おから」に、食用きのこC. aegeritaによる発酵と乳酸菌による発酵を順番に組み合わせることで、豆くささや苦味・渋みを減らしつつうま味を引き出し、同時に抗酸化力や抗炎症性を高められる可能性を示したものです。廃棄されがちな食品副産物を、風味・機能性の両面で価値のある食品素材へと変えるひとつのアプローチとして注目されます。

原著論文の著者・所属:Tim Wagner(Institute of Food Science and Biotechnology, Department of Flavor Chemistry, University of Hohenheim, Fruwirthstraße 12, 70599, Stuttgart, Germany)、Natália Averbuch(Institute of Food Science and Biotechnology, Department of Flavor Chemistry, University of Hohenheim, Fruwirthstraße 12, 70599, Stuttgart, Germany)、Harshita Naithani(Institute of Animal Science, Department of Functional Microbiology of Livestock, University of Hohenheim, Emil-Wolff-Straße 8, 70599, Stuttgart, Germany)、Zihan Wang(Department of Agricultural, Food and Nutritional Science, University of Alberta, 4-10 Ag/For Building, Edmonton, AB, T6G 2P5, Canada)、Jana Seifert(Institute of Animal Science, Department of Functional Microbiology of Livestock, University of Hohenheim, Emil-Wolff-Straße 8, 70599, Stuttgart, Germany)、Jianping Wu(Cardiovascular Research Centre, University of Alberta, Edmonton, AB, T6G 2R7, Canada)、Yanyan Zhang(Institute of Food Science and Biotechnology, Department of Flavor Chemistry, University of Hohenheim, Fruwirthstraße 12, 70599, Stuttgart, Germany)

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Tim Wagner, Natália Averbuch, Harshita Naithani, et al. Novel two-step fungal and lactic acid bacteria fermentation as an innovative strategy for soy okara valorization: improvement of sensory properties and bioactive functionality. ヨーロピアン・フード・リサーチ・アンド・テクノロジー (2026). DOI: 10.1007/s00217-026-05271-w. 原著ライセンス: cc-by.