著者の所属・活動拠点の国は、トルコです。
掲載誌:Toxins
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:見えにくい食品リスクの情報を点検する
マイコトキシン(カビ毒)は、アスペルギルス属、フザリウム属、ペニシリウム属などのカビが作る有害物質です。穀類、ナッツ類、油糧種子、香辛料、ドライフルーツ、コーヒー、カカオなどが汚染されることがあります。汚染された飼料を通じて、牛乳などの動物性食品に移る場合もあります。論文によると、汚染は収穫前から乾燥・保管、加工・流通の段階まで起こりえます。また、汚染は目に見えるとは限らず、食品の中に均一に広がっているとも限らず、家庭で取り除けるとも限りません。
著者らは、消費者が食品を買う、保管する、調理する、捨てるといった判断をするとき、カビの生えた食品や加熱・洗浄の効果について抱いている考えが影響すると指摘しています。伝え方がまずければ、不要な不安や食品ロスにつながります。反対に、安全でない食品を安心して食べ続けることにもつながりえます。研究チームは、こうした情報を得る場として広く使われているYouTubeに着目しました。そこで、食品由来のマイコトキシンのリスクを扱う動画が、科学的な網羅性、信頼性、教育的な有用性の面でどの程度の水準にあるかを調べました。著者らによれば、マイコトキシンの伝え方に絞って動画ごとに質を評価した先行研究は見当たらなかったといいます。
どのように調べたか
研究チームは2025年12月10日に、トルコからYouTubeを「mycotoxin」という一語で検索しました。閲覧履歴などによる個人向けの表示調整は、できる範囲で取り除いています。既定の関連度順で上位170件を確認し、条件に合う動画を選びました。条件は、過去15年以内に投稿された英語の動画で、人が食べる食品のカビ毒リスクを扱い、解説の語りがあり、長さが1分から70分であることです。宣伝だけの動画や、飼料・獣医分野だけを扱う動画は除きました。最終的に113本が分析の対象になりました。
評価は、食品安全の専門家2人がそれぞれ独立に、すべての動画を最後まで視聴して行いました。評価の尺度は3つです。1つ目は、この研究のために作ったカビ毒専用のチェックリスト(VCQ)です。定義、カビの生態、主な毒素の種類、健康影響、分析法、予防・管理、信頼できる情報源など10項目を、0〜20点で採点します。2つ目は、分かりやすさや有用性を全体として見る指標(GQS)です。3つ目は、目的の明確さ、出典の示し方、偏りのなさ、不確かさへの言及などを0〜5点で見る、信頼性評価の簡易版(modified DISCERN)です。評価者には、再生回数や「いいね」の数を見せずに採点してもらいました。2人の評価はよく一致していたと報告されています。
さらに研究チームは、投稿者を「企業・商業系」と「学術・非商業系」に分けて比較しました。あわせて、再生のされ方や視聴者の反応(いいねとコメントの数を再生数で割った割合など)と、内容の質との関係も調べました。
主な結果:人気と質は結びついていなかった
分析した動画の科学的な網羅性、信頼性、教育的な有用性には、大きなばらつきがありました。投稿者別では、企業・商業系が77本で多数を占めました。企業・商業系は、カビ毒専用チェックリストと信頼性の点数が、学術・非商業系(36本)より高い結果でした。一方、視聴者の反応の割合は学術・非商業系のほうが高くなりました。全体的な教育的質の指標では、統計的に明確な差は確認されませんでした。著者らは、これを「差がない」証拠ではなく、結論が出なかった結果として扱うべきだとしています。
論文が最も重要な結果として挙げるのは、視聴者の反応の割合も1日あたりの再生数も、3つの質の指標のいずれとも有意な関連を示さなかった点です。つまり、よく見られている動画や反応の多い動画が、科学的に優れているとは限りませんでした。項目別に見ると、信頼できる情報源の提示と健康影響の説明で満点の評価を得た動画は限られていました。予防・管理の項目で満点だった動画の割合は、評価者1で45.1%、評価者2で33.6%でした。
企業・商業系の点数が高かった理由について、著者らは次のように解釈しています。今回の検索語では、分析や規制について詳しく説明できる専門の検査機関やコンサルタントなどが、この区分に多く含まれていた可能性があるということです。ただしこれは別途確かめた結果ではありません。著者らは、商業系の健康情報一般に当てはめるべきではないとしています。また今回の結果は、英語の動画を一つの検索語で一時点だけ切り取ったものです。より小さな差は見逃された可能性があることも、限界として挙げられています。
この研究が伝えること
この研究は、カビ毒のように目に見えにくく専門的な食品リスクについて、YouTube上の情報の質が動画によって大きく異なることを示しました。さらに、再生数や反応の多さは、内容の確かさを見分ける手がかりにならなかったと報告しています。著者らは、役に立つ説明の条件として次の点を挙げています。カビが見えることと毒素の量とは別であること、見た目がきれいな食品でも毒素がないとは限らないこと、そして短期的な中毒と長期的な摂取の影響を区別することです。これらを、出典を示しながら平易な言葉で伝えることが大切だとしています。
原著論文の著者・所属:Ömer Faruk Yeşil(Department of Food Processing (Food Technology Program), Diyarbakır Vocational School of Agriculture, Dicle University, 21280 Diyarbakır, Türkiye)、Ahmet Çelik(Department of Crop and Animal Production (Dairy and Livestock Program), Diyarbakır Vocational School of Agriculture, Dicle University, 21280 Diyarbakır, Türkiye)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ömer Faruk Yeşil, Ahmet Çelik. Public Communication of Foodborne Mycotoxin Risks on YouTube™: A Cross-Sectional Assessment of Video Quality, Reliability, and Educational Value. Toxins 2026-08-14. DOI: 10.3390/toxins18080347. 原著ライセンス:CC BY.