この研究は、南アフリカ、中国、ベルギーの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Mycotoxin Research
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
何を目的とした論文か
カビ毒(マイコトキシン)とは、特定の糸状菌(カビ)がつくり出す有害な化合物のことです。著者らによれば、これまでに400種類以上が特定されており、そのうち健康や農業経済への影響が大きいものとして、アフラトキシン類、オクラトキシン類、ゼアラレノン、フモニシン類、そしてデオキシニバレノールやニバレノール、T-2・HT-2毒素を含むトリコテセン類が挙げられています。これらは畑での栽培中から収穫、貯蔵、輸送に至る食料生産の全工程で、水分活性・湿度・温度・pHといった条件が整うと生成されうると論文は説明しています。
この論文は総説(レビュー)であり、既存の研究を整理し直したものです。著者らは、個別のカビ毒についての発生状況や検出法、健康影響を扱った既存のレビューは多い一方で、複数のカビ毒が同時に存在する「共汚染」とその複合的な健康影響、気候変動が汚染を左右する仕組み、そしてリスク評価そのものへの注目が不足していると指摘します。そこで本論文は、共汚染と毒性の相互作用を健康リスク評価の中に組み込み、気候変動・汚染の動態・曝露経路・リスク評価を一つの枠組みとして結びつけることを目的に据えています。
どのように整理したか
著者らは主要なカビ毒ごとに、どの菌がつくるのか、どの食品や飼料で検出されているのか、どのような毒性の仕組みが報告されているのかを、各国の調査報告に沿ってまとめています。あわせて、国際がん研究機関(IARC)による発がん性分類や、欧州食品安全機関(EFSA)や米国食品医薬品局(FDA)などが定める上限値といった規制の枠組みにも触れています。
リスク評価の土台となる分析技術についても整理されています。論文が挙げるのは、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)や液体クロマトグラフィー質量分析(LC–MS/MS)などのクロマトグラフィー手法、抗体を使う免疫化学的な検査法で、近年は高分解能質量分析やバイオセンサー、分光法の進展により、規制対象のものだけでなく新たに問題となりつつあるカビ毒の検出・監視も進んだとされています。
報告されている主な内容
汚染の広がりについて、論文は国連食糧農業機関(FAO)の推計として世界の食料・飼料生産の約25%がカビ毒に汚染されているという数字を引きつつ、進んだ分析法を用いた近年の調査では、品目や地域によって60〜80%を超える汚染率が報告されていることを紹介しています。個別の報告値としては、ザンビアの落花生製品で11,000および3,000 µg/kgという高いアフラトキシンB1濃度、ケニアの収穫直後のトウモロコシで総アフラトキシン最大411 µg/kg、マラウイの1,294点のトウモロコシ試料のうち75%超が総アフラトキシンに汚染されていたという調査などが挙げられています。オクラトキシンAはアルジェリアの小麦製品81点のうち62点(76.54%)で0.84〜34.75 µg/kgの範囲で検出されたとされ、飼料についても中国南部の家禽用飼料514点すべてでゼアラレノンが確認されたという報告が紹介されています。
健康への影響としては、発がん性、変異原性、催奇形性、神経毒性、エストロゲン様作用、免疫抑制といった作用が報告されていると著者らは述べます。アフラトキシンB1は肝臓で反応性の高い代謝物に変換されてDNAと結合し、遺伝子の損傷とがん化につながる経路が示されており、とくにB型肝炎ウイルスに重複感染している人では強い相乗作用が報告されています。オクラトキシンAは主に腎臓を標的とし、バルカン半島に見られる腎障害(バルカン腎症)との関連が指摘されています。フモニシンB1については、南アフリカのトランスカイ地域やイランなど食道がんの多い地域で汚染食品の摂取との関連が報告されているほか、妊娠初期の高い曝露と出生児の神経管閉鎖障害のリスク上昇を示した研究が紹介されています。ゼアラレノンは内分泌をかき乱す作用をもち、動物ではブタの過剰なエストロゲン作用として古くから知られてきました。デオキシニバレノールはリボソームに結合してタンパク質合成を妨げ、消化器や神経系の障害を引き起こすとされます。ただし論文は、ニバレノール曝露と中国の食道がん・胃がんとの直接的な因果関係は確立されていないこと、カシン・ベック病の原因は多因子的でカビ毒の関与はあくまで仮説であることを明示しています。
本論文が特に重視するのは、複数のカビ毒が同時に存在する状況です。一つの菌種が複数種の毒素をつくり得るため、同時汚染はよくあることだと著者らは述べます。そして複合曝露では、毒性が足し合わされる(相加)、単独の合計を超えて強まる(相乗)、あるいは互いに打ち消し合って弱まる(拮抗)といった異なる相互作用が起こり得ると報告されています。この予測しにくさゆえに、単独の毒素のデータからは組み合わせの影響を導けず、人の健康リスク評価が難しくなると指摘されています。
もう一つの論点は、食品中の濃度がそのまま体内への曝露量を表すわけではない、という点です。著者らは「バイオアクセシビリティ」——消化の過程で食品の組織から放出され、腸で吸収されうる割合——という概念を紹介し、食品の組成や消化条件、他の食品成分との相互作用によってこの割合が変わりうると述べます。したがって食品中の濃度を体内曝露の主要な指標として使うことはできず、生体利用性を考慮したほうが食事由来の曝露をより現実に近く評価できるとしています。
気候変動は、農業生態系においてカビ毒生成を左右する大きな駆動要因として位置づけられています。マラウイのトウモロコシ調査では、その地域のアフラトキシン汚染が気候要因によって生じていることが示されたと紹介されています。また経済的な側面として、収穫物の損失や検査・監視の費用、貿易障壁、食品の劣化といった負担が挙げられ、カビ毒汚染はEUの国境で農産物が拒否される主要な原因の一つであり続けているとされています。
この整理が示すこと
著者らがこの総説で組み立てたのは、気候変動を織り込み、リスク評価を中心に据えた見方です。カビ毒は単独ではなく複数同時に現れることが多く、その組み合わせによる毒性は個々の毒素から足し算では読み取れません。また食品中の濃度と体内に取り込まれる量も、そのまま重なるわけではありません。個別の毒素を別々に見る従来の枠組みでは捉えきれない部分があることを、この論文は具体的な報告例を積み上げながら示しています。汚染が地域の気候や規制の有無、食品の取り扱い状況と結びついているという指摘は、この問題が分析化学だけの課題ではなく、食の安全をめぐる制度や環境の条件と分かちがたいことを浮かび上がらせています。
著者:Oluwasola Abayomi Adelusi(Department of Biotechnology and Food Technology, Faculty of Science, University of Johannesburg, Doornfontein Campus, P.O. Box 17011, Doornfontein, Gauteng, 2028, South Africa. [email protected])、Viola Onyinye Okechukwu(Department of Biotechnology and Food Technology, Faculty of Science, University of Johannesburg, Doornfontein Campus, P.O. Box 17011, Doornfontein, Gauteng, 2028, South Africa)、Julianah Olayemi Odukoya(Department of Biotechnology and Food Technology, Faculty of Science, University of Johannesburg, Doornfontein Campus, P.O. Box 17011, Doornfontein, Gauteng, 2028, South Africa)、Rumbidzai Changwa(Department of Biotechnology and Food Technology, Faculty of Science, University of Johannesburg, Doornfontein Campus, P.O. Box 17011, Doornfontein, Gauteng, 2028, South Africa)、Adeola Oluwakemi Aasa(Department of Biochemistry and Microbiology, Faculty of Natural and Agricultural Sciences, University of Pretoria, Pretoria, South Africa)、Oluwaseun Mary Oladeji(Department of Biology and Environmental Science, Faculty of Science, Sefako Makgatho Health Sciences University, P.O. Box 139, Pretoria, 0204, South Africa)、Nnamdi Nwulu(Department of Electrical and Electronic Engineering, University of Johannesburg, Johannesburg, 2006, South Africa)、Kulsum Kondiah(Department of Biotechnology and Food Technology, Faculty of Science, University of Johannesburg, Doornfontein Campus, P.O. Box 17011, Doornfontein, Gauteng, 2028, South Africa)、Oluwafemi Ayodeji Adebo(Centre for Innovative Food Research (CIFR), Department of Biotechnology and Food Technology, University of Johannesburg, Doornfontein Campus, P.O. Box 17011, Johannesburg, 2028, South Africa)、Adewale Olusegun Obadina(Department of Biotechnology and Food Technology, Faculty of Science, University of Johannesburg, Doornfontein Campus, P.O. Box 17011, Doornfontein, Gauteng, 2028, South Africa)、Hany S. El-Mesery(School of Energy and Power Engineering, Jiangsu University, Zhenjiang, 212013, China)、Sarah De Saeger(Centre of Excellence in Mycotoxicology and Public Health (CEMPH), Faculty of Pharmaceutical Sciences, Universiteit Gent, Ghent, 9000, Belgium)、Patrick Berka Njobeh(Department of Biotechnology and Food Technology, Faculty of Science, University of Johannesburg, Doornfontein Campus, P.O. Box 17011, Doornfontein, Gauteng, 2028, South Africa)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Oluwasola Abayomi Adelusi, Viola Onyinye Okechukwu, Julianah Olayemi Odukoya, et al. Mycotoxin contamination in food and feed: Occurrence, co-occurrence, combined impacts on human and animal health, climate change implications, risk assessment, and mitigation strategies. Mycotoxin Research 2026-09-15. DOI: 10.1007/s12550-026-00679-5. 原著ライセンス:CC BY.