著者の所属・活動拠点の国は、インドネシアです。
掲載誌:Jurnal Ners
ライセンス: CC BY-SA 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
数字の背後にある「なぜ」を知るために
妊娠中に、食事から得るエネルギーやたんぱく質が長い期間足りない状態を「慢性エネルギー欠乏(CED)」と呼びます。インドネシアでは、妊婦の栄養状態を確かめる目安として、二の腕の中ほどの周囲の長さ(上腕周囲長)が使われ、23.5cm未満がCEDの基準とされています。論文によると、2018年の国の保健調査では妊婦の約17.3%がこの基準を下回っており、地域によっては25%を超えるところもあると報告されています。
これまでの大規模な調査では、母親の学歴や世帯収入の低さ、出産回数の多さ、若年での妊娠などがCEDと関連する要因として挙げられてきました。しかし著者によると、こうした要因が実際にどのような経緯で食事の不足につながるのかは、十分に分かっていませんでした。この研究は、CEDと診断された妊婦本人や家族、医療者の話を丁寧に聞き取り、栄養状態や食事のとり方を形づくっている文化的・経済的・社会的・心理的な要因を明らかにすることを目的としています。
誰に、どのように話を聞いたか
調査は2023年3月から5月にかけて、西ジャワ州ボゴール県の都市近郊にある地域保健センター(プスケスマス)の担当地域で行われました。このセンターの2022年のデータでは、妊婦のCEDの割合は24%と高い水準でした。
参加者は合わせて25人です。内訳は、上腕周囲長が23.5cm未満の妊娠中期・後期の女性15人、夫や母親、義母などの家族5人、そしてセンターの医療者5人です。研究チームは、一人ひとりへの詳しい聞き取り、少人数でのグループ討論、家庭や地域の健診の場での観察を組み合わせてデータを集めました。集めた語りは、繰り返し現れる考え方や経験のまとまり(テーマ)を見つけ出す「テーマ分析」という手法で整理されました。
参加した妊婦は17歳から35歳で、平均は24.8歳でした。半数以上は中学校までの教育歴で、多くの世帯の月収は県の最低賃金を下回っていたと報告されています。
浮かび上がった5つのテーマ
1つ目は、断片的な栄養知識と誤った情報です。多くの妊婦は「妊娠中はたくさん食べるべき」とは知っていましたが、それを具体的な食事に結びつけられていませんでした。栄養のある食事を「ご飯の量を増やすこと」と捉える人が多く、健診での栄養指導は急ぎ足で一般的な内容にとどまっていたと語られています。その結果、近所の人や親族の助言に頼りがちになり、助産師の勧めより年長者の言うことを優先する人もいました。
2つ目は、根強い食のタブーと食事制限です。エビやイカ、ナマズ、一部の海の魚などが、流産や胎児の異常を招くという言い伝えから避けられていました。また妊娠後期には、赤ちゃんが大きくなりすぎると出産が難しくなると考え、意図して食事の回数や量を減らす習慣も見られました。
3つ目は、経済的な苦しさと家庭内での食べ物の分け方です。食べ物は夫、子ども、最後に妻という順で配られることが多く、苦しい時期には食事を1日3回から2回に減らす、つけで買う、インスタント麺で済ませるといった対処がとられていました。動物性の食品を口にするのは平均して週に1回程度だったと報告されています。
4つ目は、家族の支えのずれです。夫はお金を渡しても、何を食べるべきかの話し合いには加わらないことが多く、気持ちの面での支えも乏しかったと語られました。特に、台所を取り仕切る義母が食事の内容を大きく左右し、助産師の助言と反対のことを求める例もありました。一方で、義母が協力的だった2人の参加者は、より多様な食事をとっていたと報告されています。
5つ目は、心の負担です。食費の心配や赤ちゃんの健康への不安から食欲がわかないという声や、痩せていることを自分の落ち度のように感じる声が聞かれました。健診で「まだ痩せすぎ」と言われることが責められているように受け取られ、健診に足が向かなくなる場合もあったといいます。
医療者への聞き取りや観察からは、栄養相談が1人あたり3分足らずでパンフレットを読み上げる程度だったことや、配られた栄養補助のビスケットが家族で分け合われていたことなども示されました。
この研究が伝えていること
著者は、これら5つの要因が互いに絡み合い、食事の不足が続く循環をつくっていると解釈しています。そのため、知識を伝える従来型の栄養教育だけでは、この循環を断ち切れないと論じています。論文は、文化に配慮し、夫や義母を含む家族全体を対象とし、心の支えや経済的な支援も組み合わせた取り組みが必要だと提言しています。
なお、この研究は1つの地域で行われた質的研究であり、上腕周囲長や食事量の変化を継続して追跡したものではないため、因果関係を示すものではないと著者は述べています。それでも、数字だけでは見えにくい妊婦たちの暮らしや思いを通して、CEDが「食べ物が足りない」「知識がない」という単純な話ではないことを示した点に、この研究の意味があります。
原著論文の著者・所属:Rya Anastasya Siregar(Universitas Aufa Royhan)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Rya Anastasya Siregar Analysis of Risk Factors For Nutritional Status and Consumption Patterns Among Pregnant Women With Chronic Energy Deficiency (CED) In The Working Area of A Public Health Center. Jurnal Ners 2026-07-30. DOI: 10.31004/jn.v10i3.61905. 原著ライセンス:CC BY-SA 4.0.
本紹介記事の文章(題名・見出しを含む)は、CC BY-SA 4.0で提供します。原著論文をもとにNutriMap Japanが日本語で要約・説明を加えています。対象は本紹介記事の文章に限り、ヒーロー画像・サイトのロゴ・画面デザイン・他の記事・データベース全体は含みません。