著者の所属・活動拠点の国は、オーストラリア、中国です。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:冷えたでんぷんを温め直すと何が起きるか
でんぷんは多くの食事で血糖のもととなる主要な炭水化物で、消化される速さや程度は、でんぷんを含む食品からのブドウ糖の放出に影響します。加熱して糊状になったでんぷんを冷やして保存すると、ばらばらになった分子の鎖がふたたび寄り集まる「老化(レトログラデーション)」が起こり、消化酵素に分解されにくい構造ができることが知られています。しかし実際の食品は、食べる前に温め直されることがよくあります。再加熱によってこうした構造の一部が溶けたり、組織が軟らかくなったり、さらに組み替わったりする可能性があり、老化でできた「分解されにくさ」がどこまで残るのかははっきりしていませんでした。
研究チームが注目したのは、でんぷんの種類による違いです。通常のトウモロコシでんぷんは枝分かれの多いアミロペクチンが主成分で、高アミローストウモロコシでんぷんは比較的まっすぐな長い鎖であるアミロースを多く含みます。著者らは、この2種類と、両者を重量比で半分ずつ混ぜた配合を同じ条件で再加熱して比べ、でんぷんの組成と、分子の並び方よりも大きな規模の「組織(マトリックス)」のつくりが、再加熱後の消化されやすさをどのように左右するかを調べることを目的としました。
何をどのように調べたか
材料には、見かけのアミロース割合が22.7%の通常トウモロコシでんぷんと、45.7%の高アミローストウモロコシでんぷん、そして両者の50/50混合物が使われました。それぞれを水と1対2の重量比で混ぜて90℃で20分加熱し、濃いでんぷんペーストを作って型に入れ、4℃で7日間保存して老化させました。その後、ゲルを蒸気で再加熱し、中心温度が50℃または80℃に達した時点で処理を終えました。50℃は両でんぷんが本来糊化し始める温度より低く、80℃は通常でんぷんの糊化が終わる温度を超える一方、高アミロースでんぷんでは糊化が進む温度範囲の途中にあたる、という設定です。
研究チームは、分子の鎖の長さの分布、加熱したときに秩序ある構造が溶ける際の熱の出入り(示差走査熱量測定)、結晶構造(X線回折)、乾燥させたゲルの電子顕微鏡像、水銀を押し込んで調べる細孔の性質、ゲルの硬さや粘りなどの食感、そして試験管内で胃と腸の消化をまねた条件でのでんぷんの分解を測定しました。なお消化試験では、標準的な酵素量だと再加熱した試料がいずれも15分以内に90%以上分解されて差が見えなかったため、膵臓由来の消化酵素の量を標準の10分の1に減らしています。そのため著者らは、結果を標準化された「難消化性でんぷん量」ではなく、この試験条件における相対的な分解されやすさとして解釈しています。
主な結果:配合によって再加熱温度への反応が逆になった
全体として、でんぷんの組成が消化されやすさの大まかな順位を決めていました。300分時点の分解率は、通常でんぷんでは50℃・80℃のどちらで再加熱してもおよそ81%でした。一方、高アミロースでんぷんは再加熱した試料の中で最も分解されにくく、50℃で51.3%、80℃で61.4%と、高い温度で温め直したほうが分解が進みました。高アミロースでんぷんを含む試料では、80℃に再加熱しても熱的に安定な秩序構造がわずかに残り、元のでんぷん粒に似た構造も多く見られ、通常でんぷんより硬さも保たれていました。これに対し通常でんぷんでは、80℃の再加熱後に老化由来の秩序構造が熱測定ではとらえられなくなっていました。
注目されたのは50/50混合物です。80℃に再加熱すると、50℃のときに比べて秩序構造は減り、ゲルも軟らかくなったにもかかわらず、300分時点の分解率は72.6%から65.6%へと下がりました。秩序構造が減れば分解されやすくなると予想されるのに逆の結果となり、この反応は単独のでんぷんのどちらとも異なっていました。
この違いを説明する手がかりとして、研究チームは組織のつくりの変化を挙げています。電子顕微鏡像では、50℃で温めた混合物は細い割れ目で区切られた不連続な領域からなっていましたが、80℃の混合物は観察した範囲でより均一で連続した構造に見えました。細孔の測定でも、混合物では細孔の総量はほぼ変わらない一方、細孔の総表面積が1グラムあたり12.8平方メートルから4.6平方メートルへ減り、細孔の代表的な大きさは大きくなっていました。通常でんぷんと高アミロースでんぷんでは、50℃から80℃にかけて細孔の表面積が増えるという逆の傾向でした。著者らは、混合物では細かな細孔や内部の境界面が減ったと解釈し、酵素が取り付ける面が少なくなったことが分解の低下に寄与した可能性があると述べています。
研究が示すこと
こうした混合物特有の組織ができた理由として、著者らは一つの解釈を示しています。最初にゲルを作る段階で、糊化しやすい通常でんぷんの粒が先に水を多く吸ってしまい、高アミロースでんぷんの粒は十分に膨らめず、両者が混在した不連続な組織ができる。そこから80℃まで再加熱すると水の一部が再分配され、より連続した組織になったのではないか、という考え方です。これは今回のデータと矛盾しない、提案された仕組みとして位置づけられています。
研究チームは、再加熱後に残る分子の秩序だけでは消化の反応を予測できず、分解の程度はでんぷん分子の組織化、でんぷん粒の名残、組織の形態の違いと結びついていたとまとめています。でんぷんを含む食品では、原料の配合と再加熱の履歴をあわせて考える必要があるというのが著者らの見方です。ただし、人の血糖反応にどう関わるかは直接の検証が必要だと著者ら自身が述べています。
原著論文の著者・所属:Zeping Shao(Centre for Nutrition and Food Sciences, Queensland Alliance for Agriculture and Food Innovation, The University of Queensland, Brisbane, QLD 4072, Australia; Key Laboratory of Special Diet Nutrition and Health Research of China National Light Industry Council, School of Medicine, Nankai University, Tianjin 300350, China; Tianjin Key Laboratory of Food Science and Health, School of Medicine, Nankai University, Tianjin 300071, China)、Caili Li(Centre for Nutrition and Food Sciences, Queensland Alliance for Agriculture and Food Innovation, The University of Queensland, Brisbane, QLD 4072, Australia; Key Laboratory of Special Diet Nutrition and Health Research of China National Light Industry Council, School of Medicine, Nankai University, Tianjin 300350, China; Tianjin Key Laboratory of Food Science and Health, School of Medicine, Nankai University, Tianjin 300071, China)、Xiang Gao(Key Laboratory of Special Diet Nutrition and Health Research of China National Light Industry Council, School of Medicine, Nankai University, Tianjin 300350, China; Tianjin Key Laboratory of Food Science and Health, School of Medicine, Nankai University, Tianjin 300071, China)、Dan Li(Key Laboratory of Special Diet Nutrition and Health Research of China National Light Industry Council, School of Medicine, Nankai University, Tianjin 300350, China; Tianjin Key Laboratory of Food Science and Health, School of Medicine, Nankai University, Tianjin 300071, China)、Huan Lv(Key Laboratory of Special Diet Nutrition and Health Research of China National Light Industry Council, School of Medicine, Nankai University, Tianjin 300350, China; Tianjin Key Laboratory of Food Science and Health, School of Medicine, Nankai University, Tianjin 300071, China)、Shuo Wang(Key Laboratory of Special Diet Nutrition and Health Research of China National Light Industry Council, School of Medicine, Nankai University, Tianjin 300350, China; Tianjin Key Laboratory of Food Science and Health, School of Medicine, Nankai University, Tianjin 300071, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Zeping Shao, Caili Li, Xiang Gao, et al. Reheating-Induced Matrix Reorganisation Modulates the In Vitro Digestibility of a Retrograded Normal/High-Amylose Maize Starch Blend. Foods 2026-09-21. DOI: 10.3390/foods15183344. 原著ライセンス:CC BY.