この研究は、中国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:Foods (Basel, Switzerland)

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC

研究の目的

ハダカムギ(highland barley、青稞)は、β-グルカンや食物繊維を多く含む穀物として、中国をはじめアジア各地で食べられてきました。研究チームは、こうした雑穀を主食に取り入れる関心が高まる一方で、ハダカムギ粉にはグルテンとなるタンパク質が少なく食物繊維が多いため、麺やパンのような加工食品にすると食感や加工適性が落ちるという課題があることを、この研究の出発点として挙げています。

そこで著者らが注目したのが、薬品を使わない「物理的な加工(物理改質)」です。今回比較されたのは二つの方法で、一つは超微粉砕(SG)、機械の力で粉を細かく砕いてデンプン粒の構造を壊す方法です。もう一つは超音波処理(US)で、水に分散させた粉に超音波を当て、気泡がはじける作用(キャビテーション)で構造を変化させます。論文によれば、それぞれの方法を単独で調べた研究はこれまでにもありましたが、小麦粉ベースの麺づくりという場面で両者を体系的に比べた報告はなく、どちらがどの点で有利かは分かっていませんでした。この研究の目的は、その比較を行うことです。

何をどのように調べたか

著者らは、超微粉砕したハダカムギ粉(SG-HBF)と超音波処理したハダカムギ粉(US-HBF)をそれぞれ用意し、小麦粉(薄力粉)の10%、15%、20%、25%、30%を置き換えた混合粉をつくりました。予備実験で、30%を超えるとグルテンが足りず生地がまとまらなかったため、最大の置換率は30%に設定されています。ハダカムギ粉を加えない小麦粉だけのものを対照としました。

調べた項目は段階ごとに分かれています。粉の段階では、加熱・冷却しながら粘りの変化を測る糊化特性、電子顕微鏡によるデンプン粒の観察、X線回折によるデンプンの結晶構造の評価。生地の段階では、赤外分光法を使って、グルテンタンパク質の立体的な形(二次構造)の割合を調べました。麺にしたあとは、色、核磁気共鳴による水分の分布、ゆで時間・ゆで汁への溶け出し(ゆで損失)・切れた麺の割合、機械で測る硬さや弾力などの食感、そして訓練を受けた20名による官能評価が行われています。

報告された主な結果

粉の性質では、二つの方法で対照的な結果が報告されました。SG-HBFを増やすと混合粉の粘度は下がり、加熱中の粘度低下(ブレークダウン)や冷却時の粘度上昇(セットバック)も小さくなりました。著者らはこれを、糊化の安定性と、時間が経っても固くなりにくい性質(老化しにくさ)が改善されたものと説明しています。一方US-HBFでは、同じ置換率で比べた粘度の指標がSG-HBFより有意に高くなりました。電子顕微鏡では、US-HBFのほうがデンプン粒の形が保たれて均一に分散しており、これが粘度の高さと対応すると述べられています。X線回折では、どちらの処理でもデンプンの結晶の型(A型)自体は変わりませんでした。

生地では、どちらの粉を増やしてもグルテンの安定した構造であるβ-シートの割合が有意に減り、グルテンの網目が秩序ある状態から乱れた状態へ移っていくことが示されました。同じ置換率で比べると、US-HBFのほうがグルテンの構造に与える変化が大きく、網目への干渉が強いと報告されています。

麺では、どちらの粉でも置換率が上がるほど明るさが下がって色が濃くなり、ゆで損失、最適なゆで時間、切れた麺の割合がいずれも有意に増えました。硬さと噛みごたえは増す一方、まとまりや弾性回復は低下しています。同じ置換率での比較では、US-HBF麺のほうがゆで損失とゆで時間は大きく、逆に麺の切れにくさでは優れていました。官能評価では置換率が上がるほど点数が下がり、20%以下ではすべての項目が許容できる水準(7点以上)を保っていたのに対し、20%を超えると受け入れられない水準になったと報告されています。同じ置換率ではSG-HBF麺のほうが官能評価は高い結果でした。

この研究が示すこと

著者らは結論として、SG-HBFは15%まで、US-HBFは20%までであれば、麺の官能的な品質と調理特性を良好に保てたとしています。それを超えるとゆで損失が増え、弾力が落ち、官能評価も下がりました。

二つの方法には、それぞれ異なる向き不向きがあることも示されました。論文では、ゆで損失が少なくゆで時間も短いSG-HBFは加工効率の面で、弾力が高く切れにくいUS-HBFは麺の形を保ちたい製品に、それぞれ適していると位置づけられています。同じ「物理的に加工したハダカムギ粉」でも、処理の仕方によって粉・生地・麺の性質が違う方向に動くこと、そして雑穀を混ぜられる量には品質上の限界があることを、段階ごとの測定で具体的に示した点が、この研究の内容です。

著者:Song M(School of Food Science, Henan Institute of Science and Technology, Xinxiang 453003, China.; Henan Bainong Seed Industry Co., Ltd., Xinxiang 453003, China.; Agricultural College, Henan University, Zhengzhou 475001, China.)、Wang S(School of Food Science, Henan Institute of Science and Technology, Xinxiang 453003, China.)、Liang Z(School of Food Science, Henan Institute of Science and Technology, Xinxiang 453003, China.)、Wang H(School of Food Science, Henan Institute of Science and Technology, Xinxiang 453003, China.)、Wang J(School of Food Science, Henan Institute of Science and Technology, Xinxiang 453003, China.)、Huang J(Agricultural College, Henan University, Zhengzhou 475001, China.)、Song J(Henan Yingjie Food Co., Ltd., Xinxiang 453100, China.)、Zeng J(School of Food Science, Henan Institute of Science and Technology, Xinxiang 453003, China.)、Gao H(School of Food Science, Henan Institute of Science and Technology, Xinxiang 453003, China.)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Song M, Wang S, Liang Z, et al. Substitution of Wheat Flour with Modified Highland Barley Flour Affects Properties and Quality of Wheat Flour, Dough, and Noodles. Foods (Basel, Switzerland) 2026-08-23. DOI: 10.3390/foods15172958. 原著ライセンス:CC BY.