おなかの調子と免疫力には関係があると言われることがあります。ヒトの腸内には1×10の14乗個ともいわれる腸内細菌がすみついており、その構成を含めた腸内環境が、腸管を通じた免疫の維持に関わっていると考えられています。今回紹介するのは、食物繊維を多く含む小麦粉(HAW)を使ったパンを日常的に食べ続けることで、腸内環境や免疫の指標にどのような変化が起きるかを調べた研究です。この研究は日本食品科学工学会大会講演要旨集に発表予定のもので、Yuto Otomo氏らの研究グループにより実施され、日本の研究機関に所属する著者が名を連ねています。
どのように調べたのか
研究グループは、HAWにはレジスタントスターチ(RS)をはじめとする発酵性の食物繊維が複数含まれており、これまでの培養試験でHAWの添加によって腸内の有益菌が増え、有害菌が減る傾向が確認されていたことを踏まえ、実際にヒトで免疫への影響が見られるかを検証しました。対象は、風邪をひきやすいと感じている、排便回数が週5回以下、疲労を感じているという条件に当てはまる健常な成人男女36名です。この試験はメディカルステーションクリニック倫理審査委員会の承認を受け、UMIN臨床試験登録システム(試験ID:UMIN000054868)にも登録されています。参加者は無作為に「HAW高配合パン摂取群(RS 5.9g/日)」「HAW低配合パン摂取群(RS 3.7g/日)」「プラセボ群」の3グループに分けられ、それぞれの試験食を12週間続けて摂取しました。効果の評価には、便中の分泌型免疫グロブリンA(sIgA)やプラズマサイトイド樹状細胞(pDC)の活性といった免疫関連の指標に加え、腸内細菌の構成比率などの腸内環境指標が用いられました。最終的に33名分のデータが解析対象となっています。
わかったこと
主要な評価項目として設定されていた便中分泌型免疫グロブリンAについては、群間で統計学的に意味のある変動は確認されませんでした(p>0.05)。一方で、いくつかの副次的な指標では違いが見られています。HAW高配合パン摂取群では、12週間の摂取後にプラセボ群と比べてpDCの活性(CD80)が有意に高いという結果でした(p=0.03)。あわせて腸内細菌の解析では、酪酸産生菌を含むことで知られるFaecalibacterium属の相対存在比率がプラセボ群より有意に高く(p=0.01)、有害菌とされるBilophila属の比率は低い傾向がみられました(p=0.09、統計学的な有意水準には届いていません)。また、RS量が少ないHAW低配合パン摂取群では、くしゃみ・鼻汁、喉の痛み、咳、関節痛、発汗、悪寒といった体調に関するアンケートスコアが、プラセボ群より有意に低いという結果も報告されています(p<0.05)。
この研究をどう受け止めるか
研究グループは、これらの結果からHAW摂取が腸内環境の変化を介して免疫系に何らかの調節的な影響を及ぼす可能性が示唆されるとし、今後さらに検証を進めるとしています。ただし、この研究では主要評価項目であった便中分泌型免疫グロブリンAには有意差が確認できておらず、有意差が見られたのはpDC活性や腸内細菌の一部の指標、体調アンケートスコアといった副次的な項目にとどまります。また対象者は33名という小規模な集団であり、腸内細菌の変化の一部(Bilophila属)も統計学的な有意水準には至っていません。特定の食品が病気を予防・改善するという結論が確定したわけではなく、一つの研究として今後の追加検証が待たれる段階にあるといえます。
まとめ
今回の小規模なヒト試験では、食物繊維を多く含む小麦粉を使ったパンを12週間摂取したグループで、腸内細菌の構成や一部の免疫関連指標、体調に関するアンケートスコアに変化がみられたことが報告されました。一方で主要な免疫指標には有意な変化が確認されておらず、研究グループ自身も今後の検証の必要性に言及しています。食物繊維と腸内環境、免疫の関係を考えるうえでの一つの手がかりとして捉えるとよさそうです。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Yuto Otomo, Yasuyuki Nishitsuji, Satoshi Noma, et al. 高食物繊維小麦粉摂取による腸内環境改善を介した免疫調節効果の検証. 日本食品科学工学会大会講演要旨集 (2026). DOI: 10.3136/aamjsfst.72.0_56.