著者の所属・活動拠点の国は、フィンランドです。
掲載誌:Scientific Reports
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF
水が豊かな国で農業の水不足を調べる理由
フィンランドは一般に水資源の豊かな国とされています。しかし著者らは、夏の高温化、降水パターンの変化、蒸発散の増加によって、農業の水不足リスクが高まりつつあると指摘しています。蒸発散とは、地面からの蒸発と植物からの水分放出を合わせたものです。年間の降水量が増える場合でも、雨の降る時期や強さが変われば、作物が育つ大切な時期に乾燥した日が続き、土壌の水分が足りなくなるおそれがあります。
この研究は、フィンランドの農地で起こる水不足を過去と将来の両面から評価することを目指しました。将来については、温室効果ガスの排出が中程度のSSP2-4.5と、排出が多いSSP5-8.5という二つの気候シナリオを比較しています。水不足が強まる地域と時期を特定し、適応策を検討することも目的に含まれます。論文ではジャガイモを主な例として取り上げていますが、手法は農地全般に当てはめられるように設計されています。
観測データと気候モデルで水の収支を計算
研究チームは、フィンランド気象研究所が提供する1981年から2023年までの観測データを使いました。このデータは国土を格子状に区切り、日ごとの降水量と蒸発散の目安となる「可能蒸発散量」を記録したものです。将来の予測には、複数の気候モデルをまとめた国際比較プロジェクトCMIP6のアンサンブルデータを用いました。このデータは、統計的な手法で詳細化と偏りの補正が施されています。
計算は格子のマス目ごと、1日ごとに進めました。降水と蒸発散の差から土壌に蓄えられた水の量を追跡し、蓄えがマイナスになった分を「水不足量」(ミリメートル)として積み上げます。あわせて、作物の生育期である5月から9月に水が足りなかった日を「水不足日数」として数えました。
過去の期間で観測に基づく値と気候モデルに基づく値を比べたところ、相関係数は水不足量で0.71、水不足日数で0.67でした。著者らはこれを中程度から強い一致と評価しています。モデルが水不足の大まかな地理的分布を再現できていることが確認されたことになります。
過去は南西部で大きく、将来は排出シナリオで差が広がる
1981年から2014年までの年間水不足量は、地域によって90〜150ミリメートルでした。最も大きかったのは南西部と西海岸の農業地帯で、年間140ミリメートルを超えていました。一方、涼しい北部では多くの年で120ミリメートルを下回りました。水不足日数は年間40〜55日で、南から北へ向かって少なくなる傾向がはっきり見られました。また、2000年以降は水不足量がわずかに増える傾向がありました。
将来予測では、二つのシナリオの差が大きく表れました。中程度の排出シナリオSSP2-4.5では、全国平均の水不足量が2026年の131ミリメートルから2100年には153ミリメートルへと緩やかに増えます。水不足日数は48日から50日に増えると報告されています。
高排出シナリオSSP5-8.5では、2050年ごろまではSSP2-4.5と大きく変わりません。しかしその後は増加が加速します。全国平均の水不足量は、2056〜2070年に177ミリメートル、2071〜2085年に192ミリメートル、2086〜2100年に213ミリメートルに達します。同じ2086〜2100年の南部では234ミリメートルになります。水不足日数も62日まで増え、2050年以降に増え方が急になると報告されています。
地域別に見ると、水不足の増え方が最も急で、極端な値も大きいのは南西部でした。SSP5-8.5では、南部の最大水不足量が261ミリメートル、南西部の最大水不足日数が85日に達します。一方、過去の基準期間と比べた増加の割合では、今世紀末に北部と東部が最も大きく、基準期間の1.5〜1.9倍の範囲に入りました。著者らはまた、SSP2-4.5でも首都圏を含むウーシマー地域などの南部が、先行研究でジャガイモの約15%の減収と結び付けられてきた150ミリメートル前後の水準に達すると論じています。
研究が示す意味
著者らは、湿潤な北の国であっても農業の水不足が重要な課題になりつつあると結論づけています。特に、国内で最も生産性の高い南西部の農地が最も強い影響を受けると指摘しています。適応策としては、乾燥に強い品種、作付け時期の調整、効率的な灌漑、土壌水分の保全などを組み合わせることを挙げています。
結果の解釈にあたって、著者らはいくつかの注意点を示しています。これらの結果は、広い範囲で水不足リスクが相対的にどう変わるかを示す指標です。個々の畑の土壌水分を再現するものではありません。また、蒸発散の推定方法、気候モデルの違い、各生育期の初めに土壌の水を一律100ミリメートルと仮定したことなどが、不確かさの要因になります。
二つのシナリオの差について、著者らは排出削減の重要性を示すものだと述べています。地球温暖化の進み方を抑えることは、フィンランドの農業が受ける水のストレスを小さくすることに直接つながる、というのが著者らの見方です。
原著論文の著者・所属:Mojtaba Naghdyzadegan Jahromi(Water, Energy, and Environmental Engineering Research Unit, University of Oulu, Oulu, Finland)、Alireza Gohari(Water, Energy, and Environmental Engineering Research Unit, University of Oulu, Oulu, Finland)、Christine Kaggwa Nakigudde(Water, Energy, and Environmental Engineering Research Unit, University of Oulu, Oulu, Finland)、Ali Torabi Haghighi(Water, Energy, and Environmental Engineering Research Unit, University of Oulu, Oulu, Finland)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Mojtaba Naghdyzadegan Jahromi, Alireza Gohari, Christine Kaggwa Nakigudde, et al. Modeling agricultural water deficit risk in finland under CMIP6 climate scenarios. Scientific Reports 2026-08-20. DOI: 10.1038/s41598-026-65956-w. 原著ライセンス:CC BY.