この研究は、フィンランドの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Food & Nutrition Research
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
食生活全体の質は、人々の健康を左右する大きな要因の一つとされています。各国・各地域では、科学的根拠にもとづいて「どの食品をどれくらい食べるとよいか」を示す食品ベースの食事ガイドラインが定められており、集団の実際の食べ方をこの目安と照らし合わせることは、リスクの高い集団を見つけ、栄養政策や行動変容の働きかけを設計するうえで欠かせないと著者らは述べています。
2023年版の北欧栄養推奨(NNR 2023)では、健康に加えて食料生産・消費に伴う環境への影響もこれまでより幅広く検討されました。この版は、植物性の食品を中心に据え、低脂肪の乳製品を適度に、赤身肉・加工肉は控えめにする食事を勧めています。NNR 2023には、量を数値で示した7つの食品グループの推奨(たとえば全粒穀物を1日90グラム以上)と、8つの記述的な推奨(たとえば「菓子など砂糖の多い食品は控えめに」)が含まれます。
著者らによれば、この数値で示された食品グループの推奨に北欧の人々がどの程度沿っているかは、これまで評価されていませんでした。そこで研究チームは、フィンランドの成人を対象に7つの食品グループ(全粒穀物、野菜・果物・ベリー類、ナッツ・種実類、植物油、赤身肉・加工肉、牛乳・乳製品、魚介類)の日常的な摂取量を推定し、性別や年齢などの集団ごとに推奨への到達状況を分析することを目的としました。
調べ方
用いられたのは、全国規模の健康調査の一部として実施された「FinDiet 2017」調査のデータです。最終的な解析対象は18〜74歳の1,655人(男性780人、女性875人)で、平均年齢は男女とも51歳でした。参加者は、訓練を受けた調査員による24時間思い出し法の面接を、連続しない2日分受けました。1回目は健康診査に合わせた対面、2回目は8日以上の間隔をあけた電話での聞き取りです。食べた量の見積もりには、検証済みの写真集や食器のモデル、市販食品の標準的な重量の例が用いられました。記録された料理はフィンランドの食品成分データベースにもとづいて材料に分解され、食品グループごとに集計されました。
この研究の方法上の要点は「常用摂取量(usual intake)」のモデル化にあります。数日分の食事調査は、その人の平均的な食べ方をとらえるには向いていても、日によるばらつき(偶然誤差)のために、推奨を満たしている人の割合を正しく見積もることが難しくなります。著者らは、この誤差を統計的に補正する米国国立がん研究所(NCI)の手法を用いて、集団のうち推奨を下回る人・満たす人・上回る人の割合を推定しました。信頼区間はブートストラップ法(500回の反復)で算出し、集団間の差は95%信頼区間が重ならないかどうかで判断しています。フィンランド成人では男女で食べる量やエネルギー摂取量が異なるため、男女は分けて解析され、非回答による偏りを補正する調査ウェイトも適用されました。比較された集団の区分は、年齢(18〜44歳、45〜65歳、66〜74歳)、教育年数の水準、余暇の身体活動、BMI、総エネルギー摂取量の四分位です。なお、ナッツ・種実類については、食べた日が少なく摂取量も低かったため、集団別のモデル化はできなかったと報告されています。
主な結果
著者らの報告によれば、フィンランドの成人では推奨への到達度は全体として低いものでした。植物性の食品では、推奨を下回る人が大多数を占め、その割合は植物油の66%(男性)から全粒穀物の96%(女性)までの幅がありました。全粒穀物の平均摂取量は男性で1日56グラム、女性で43グラムと、推奨の90グラム以上に届いていません。野菜・果物・ベリー類は男性301グラム、女性361グラムで、500〜800グラムという推奨を満たしたのは男性11%、女性18%でした。植物油は男性22グラム、女性15グラムで、25グラム以上という推奨を満たしたのは男性34%、女性14%でした。
動物性の食品では、魚介類を除いて平均摂取量が推奨を上回りました。赤身肉・加工肉は男性が1日112グラムと、女性の62グラムのおよそ2倍で、1日50グラム以下という推奨を満たした人の割合は女性31%に対し男性7%でした。牛乳・乳製品は男性818グラム、女性639グラムで、350〜500グラムという推奨を満たしたのは男性11%、女性20%でした。魚介類の平均摂取量は男性34グラム、女性26グラムで、男女差は統計的に認められず、43〜64グラムという推奨への到達度にも男女差は検出されませんでした。
集団ごとに見ると、いくつかの傾向が報告されています。教育水準が最も高い群は、男女とも野菜・果物・ベリー類の推奨を満たす割合が高く(男性18%対9%、女性23%対10%)、赤身肉・加工肉の推奨についても同様の方向の差がみられました。余暇に身体活動が活発な群も、野菜・果物・ベリー類の推奨を満たす割合が高い一方(男性17%対3%、女性26%対9%)、牛乳・乳製品では活動的でない群のほうが推奨を満たす割合が高いという結果でした。エネルギー摂取量との関係は一貫しており、摂取量が多い群ほど植物性食品の推奨を満たしやすく、同時に動物性食品の推奨を超えやすい傾向がありました。BMIの区分では、どの食品グループでも平均摂取量にも推奨到達度にも差は検出されませんでした。
著者らは限界も挙げています。横断的な調査であるため、身体活動や体格といった要因と食事との間に因果関係を示すことはできません。また、よく訓練された調査員による面接であっても、自己申告にもとづく方法には思い出しの偏りが含まれうること、そして今回はすべてのガイドラインへの適合を同時に分析することができなかったことが述べられています。
この研究が示すこと
この研究は、日々のばらつきを統計的に補正する手法を用いることで、「平均としてどれくらい食べているか」だけでなく「推奨を満たしている人がどれくらいいるか」を、より確からしい形で示しました。そこから浮かび上がったのは、フィンランドの成人の食事がNNR 2023の目安から大きく離れているという姿です。全粒穀物や野菜・果物・ベリー類は一貫して目安を下回り、牛乳・乳製品と赤身肉・加工肉は明らかに上回っていました。
さらに、年齢、教育水準、余暇の身体活動、総エネルギー摂取量が推奨への到達度と関連していたことは、一律の働きかけではすべての集団の状況に応えられない可能性を示しています。著者らは、集団ごとの違いを踏まえることが、栄養政策や行動変容の取り組みを組み立てるうえで重要だと結論づけています。
著者:Tiina Suikki(Finnish Institute for Health and Welfare, Department of Public Health, Helsinki, Finland)、Heli Tapanainen(Finnish Institute for Health and Welfare, Department of Public Health, Helsinki, Finland)、Mirkka Maukonen(Finnish Institute for Health and Welfare, Department of Public Health, Helsinki, Finland)、Satu Männistö(Finnish Institute for Health and Welfare, Department of Public Health, Helsinki, Finland)、Niina E. Kaartinen(Finnish Institute for Health and Welfare, Department of Public Health, Helsinki, Finland)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Tiina Suikki, Heli Tapanainen, Mirkka Maukonen, et al. Adherence to the Nordic food-based dietary guidelines in subgroups of the Finnish adult population. Food & Nutrition Research 2026-08-01. DOI: 10.29219/fnr.v70.13737. 原著ライセンス:CC BY.