揚げ物や加工食品の油としておなじみのパーム油は、実は世界で最も生産量の多い食用油のひとつで、年間生産量は7000万トンを超えるとされています。心血管への影響をめぐる議論が長く続いてきた一方で、パーム油に含まれるトコトリエノールやカロテノイド、フェノール化合物といった成分が、免疫の働きに関わっている可能性を指摘する研究も蓄積してきました。今回紹介するのは、インドネシアのIPOSS Jakartaに所属するLoso Judijanto氏が2020年から2025年に発表された論文をまとめ、パーム油の成分と免疫療法(免疫の力を利用して病気に対処する治療アプローチ)との関係を整理したレビュー論文です。

どうやって調べたのか

この研究は新しい実験を行ったものではなく、既存の学術論文を体系的に集めて読み解く「システマティック・レビュー」という手法を使っています。国際的な報告基準であるPRISMAという手続きに沿って、学術データベースのScopusから文献を絞り込みました。最初に「パーム油」と「医学」というキーワードで検索すると365件がヒットしましたが、そこから「免疫療法」「がん治療」「免疫反応」などのより的を絞った語で再検索し、2020〜2025年に発表された英語の論文で、かつ誰でも読めるオープンアクセスのものという条件で絞り込みを重ねた結果、最終的に29本の論文が分析対象として選ばれました。

29本の論文から見えてきたこと

分析対象の論文は6つのテーマに分類されました。もっとも多かったのは「がん免疫療法への応用」で29本中15本(52%)、次いで「パーム油の生理活性成分と免疫調節の可能性」が14本(48%)、「免疫調節の細胞・分子レベルの仕組み」と「安全性・忍容性・代謝への影響」がそれぞれ12本(41%)でした。一方「ワクチンの効果を高める働きと感染症への関与」は7本(24%)にとどまり、まだ研究が少ない分野として位置づけられています。

成分ごとに見ると、トコトリエノール(ビタミンEの仲間とされる成分)はT細胞の増殖やナチュラルキラー(NK)細胞の働きを20〜35%高めたとする報告が複数あり、活性化したマクロファージにおいて炎症性物質であるIL-6やTNF-αの産生を25〜42%程度抑えたとする実験結果も紹介されています。赤色パーム油に多いカロテノイド(ベータカロテンやリコピンなど)は、樹状細胞の成熟や抗原提示能力を15〜25%改善し、酸化ストレスの指標であるマロンジアルデヒド(MDA)を20〜30%程度減らしたとされています。フェノール化合物については、炎症に関わるNF-κBという情報伝達経路を抑える働きが報告されています。

応用面では、マウスの黒色腫(メラノーマ)モデルにおいて、γ-トコトリエノールを免疫チェックポイント阻害薬(がん免疫療法の一種)と組み合わせると、免疫療法単独より腫瘍の大きさが大きく縮小したとする結果(免疫療法単独での22%減少に対し、併用で37%減少)が紹介されています。また、マウスのインフルエンザモデルではウイルスに対する抗体価が20〜23%上昇し、B型肝炎モデルではワクチン接種後の抗体獲得率が12〜16%改善したとする報告もありました。ヒトを対象にした試験では、1日15〜25mLの赤色パーム油を8〜12週間摂取したグループで血中の総抗酸化能が18〜24%上昇し、炎症マーカーであるCRP(C反応性タンパク)が10〜14%低下したとされています。安全性については、8〜16週間の摂取試験で重大な有害事象は報告されず、参加者の95%以上で肝機能・腎機能の検査値が正常範囲内にとどまったことも述べられています。

この研究を読むうえでの注意点

この論文自体が新しい実験データを生み出したものではなく、あくまで既存の29本の論文をまとめ直したレビューである点には注意が必要です。著者は、対象とした研究の間で実験モデル(細胞実験・動物実験・臨床試験)や投与量、トコトリエノールの種類・抽出方法などにばらつきがあり、これが結果のばらつきの一因になっていると指摘しています。多くのデータはマウスなどの動物実験や試験管内の細胞実験に基づくものであり、ヒトを対象にした研究はまだ限られています。著者自身も、今後は適切な摂取量の検討や、ヒトでの詳しい作用機序の解明、長期的な臨床評価が必要だと述べています。今回の情報の中にパーム油と日本の食習慣や生産を直接結びつける記述はなく、著者の所属もインドネシアの機関であることのみが示されています。

まとめ

パーム油に含まれるトコトリエノールやカロテノイドなどの成分が、T細胞やNK細胞の働き、抗酸化能などさまざまな面で免疫系に影響しうることを示す研究が近年積み重なってきたことが、このレビューから読み取れます。ただし、これは一つのレビュー論文が既存研究を整理したものであり、パーム油の摂取が特定の病気の予防や治療に効果があると結論づけるものではありません。ヒトでの長期的な検証を含め、今後の研究の進展が待たれる段階だといえます。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Loso Judijanto. Palm Oil and Immunotherapy: A Review of Recent Research. バイオメディカル・ジャーナル・オブ・サイエンティフィック・アンド・テクニカル・リサーチ (2026). DOI: 10.26717/bjstr.2026.66.010342. 原著ライセンス: cc-by.