ウガンダのキルフラ県では、伝統的な発酵乳「アマカモ」を作る際、容器を特定の木の幹材でいぶす(燻蒸する)習慣があります。牛の胃袋などから作った容器やひょうたん容器に煙をあてることで、風味づけや保存性の向上を狙っていると考えられていますが、その煙や木材そのものにどのような化学成分が含まれているのかは、これまであまり詳しく調べられていませんでした。今回紹介する研究は、この燻蒸に使われる植物の抽出物と、燻煙から作った水溶液の成分を比較した基礎研究です。
研究チームはアマカモの容器いぶしに使われる3種類の植物、Rhus natalensis、Combretum molle、Gardenia ternifoliaの幹材を対象にしました。それぞれの樹種について3つの独立したロットを採取し、メタノールと50%エタノールの2種類の溶媒で個別に抽出しています。さらに、実際にひょうたん容器を燻蒸したときにできる「燻煙水(スモークウォーター、SWE)」も、独立した3つの容器から3回分作成し、比較の対象としました。得られた抽出物・燻煙水については、フェノール類やフラボノイドの有無を調べる定性スクリーニングに加え、総フェノール含量(TPC)、総フラボノイド含量(TFC)、そしてDPPH法によるフリーラジカル消去活性(消去率とIC50、活性が高いほどIC50は小さい値になる)を測定し、いずれも3回の独立した調製の平均値と標準偏差として示されています。
抽出物と燻煙水で何が見つかったのか
まず抽出の効率について、メタノールでの抽出収率は15.14±0.58%から23.01±0.10%、50%エタノールでの収率は16.96±0.12%から23.76±0.20%の範囲でした。そして、調べたすべての抽出物・燻煙水からフェノール類とフラボノイドが検出されています。
樹種による違いも示されました。Combretum molleの燻煙水は、今回調べたすべての試料の中で総フェノール含量(平均387.27±0.00 mg GAE/g)と総フラボノイド含量(平均7.59±0.62 mg RE/g)がもっとも高い値を示しました。またDPPH消去率については、50%エタノールで抽出したCombretum molleが平均97.33±0.58%ともっとも高く、IC50(少ない量で効果を発揮するほど値が小さい指標)で見ると、メタノールで抽出したCombretum molleが0.040±0.002 mg/mLともっとも低い=効率よくラジカルを消去する値を示しました。全体として、フェノールやフラボノイドの含有量、フリーラジカル消去の強さは、植物の種類と抽出方法(メタノール、50%エタノール、燻煙水)の組み合わせによって異なるパターンを示したと報告されています。
数値の読み方と、この研究の位置づけ
著者らは、燻煙水の数値をそのまま抽出物と同列に比較することには注意が必要だと述べています。燻煙水は、溶媒で成分を直接抽出したものではなく、木材をくすぶらせて出た煙の成分が容器の内側などに付着し、それを水で回収するという過程を経て作られています。そのため、燻煙水の総フェノール含量や総フラボノイド含量の数値が高いからといって、それを「抽出効率が優れている」ことの証拠と解釈すべきではない、と論文は明記しています。
この研究はあくまで、3樹種・3種類の調製法について、それぞれ3回ずつの独立した試料を用いた記述的な分析(成分の傾向を確認する段階の研究)であり、燻煙そのものに含まれる化学成分の詳細な特定や、実際に容器をいぶすことがアマカモの品質や安全性にどう影響するのかについては、今後さらなる研究が必要だと著者らは述べています。つまり、今回の結果から「この植物を使えば発酵乳が長持ちする」「健康に良い」といった結論を導くことはできず、今後の研究の土台となる基礎データという位置づけです。
まとめ
この研究は、ウガンダの伝統的な発酵乳づくりで使われる燻蒸植物3種(Rhus natalensis、Combretum molle、Gardenia ternifolia)について、抽出物と燻煙水それぞれのフェノール・フラボノイド含量やフリーラジカル消去活性を比較したものです。樹種や調製方法によって成分プロファイルが異なることが示された一方、燻煙水の数値の高さを抽出効率の高さと直接結びつけるべきではないという注意点も示されました。あくまで一つの基礎研究であり、燻蒸が発酵乳の品質や安全性にどう関わるかを結論づけるものではない点に留意して読む必要があります。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Norah GULAITA, Rebecca Nalubega, Immaculate Nakalembe, et al. Phytochemical Profiles and Free Radical-Scavenging Properties of Extracts and Smoke-Water from Amakamo Vessel Fumigation Plants. ジャーナル・オブ・フード・イノベーション・ニュートリション・アンド・エンバイロンメンタル・サイエンシズ (2026). DOI: 10.70851/jfines.2026.3(3).362.371. 原著ライセンス: cc-by.