フッ化物は虫歯予防のために水道水に添加されたり、歯磨き粉に含まれたりすることで知られる成分です。一方で、体内に取り込まれたフッ化物が骨や歯以外の健康、たとえば心血管系にどのような影響を及ぼすのかについては、まだ十分にわかっていない部分があります。特に、生活習慣や体の基礎的な特徴が形作られる子どもや青年期にフッ化物への曝露がどう関わるのかは、興味深いテーマです。今回紹介するのは、イランのヤズド市で行われた、子どもと青年を対象にした横断研究です。

研究でわかったこと

この研究は2024年に、ヤズド市に住む6〜18歳の子ども・青年161人を対象に実施されました。研究チームは、地域の水道水網の56地点でフッ化物濃度を測定するとともに、参加者からアンケートで生活背景や身体活動、フッ化物への曝露状況に関する情報を集めました。また、身長・体重・BMI(体格指数)・ウエスト周囲径、収縮期・拡張期血圧を測定し、血液検査で総コレステロール(TC)、HDLコレステロール、LDLコレステロール、中性脂肪(TG)、空腹時血糖、マグネシウム、カルシウムを調べたほか、尿検査でフッ化物とクレアチニンの濃度を測定しました。尿中フッ化物の測定にはイオン選択性電極という手法が用いられています。

参加者の平均年齢は11.95歳で、12〜18歳の青年が全体の50.9%と最も多くを占めていました。尿中フッ化物濃度の平均は0.49 mg/Lと報告されています。カルシウムのサプリメントを摂取していない参加者では、尿中フッ化物濃度(クレアチニン補正値)が有意に高い傾向が見られました。

水道水中のフッ化物濃度については、参加者全体、特に青年においてBMIの低下と関連し、また参加者全体で収縮期・拡張期血圧のz-score(年齢や性別を考慮した標準化指標)の上昇と関連していることが示されました。一方、尿中フッ化物濃度は、子どもにおいてBMIと収縮期血圧z-scoreの低下、参加者全体ではBMIとウエスト周囲径の低下、そして参加者全体および青年において総コレステロール・HDL・中性脂肪の低下と関連していました。これらの関連は、年齢や性別といった人口統計学的要因、生活習慣、栄養状態、代謝関連の要因を考慮して調整すると変化が見られたとされており、研究チームはフッ化物曝露の影響を検討する際にはこうした交絡要因を考慮することの重要性を指摘しています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この研究は、ある一時点での測定に基づく横断研究であり、フッ化物への曝露と心血管リスク因子との間に因果関係があるかどうかを直接示すものではありません。論文の著者らも、今回の結果を確認し、フッ化物曝露と心血管リスク因子との因果関係を明らかにするためには、長期にわたって追跡する縦断研究が必要であると述べています。また対象はイラン・ヤズド市の161人という限られた集団であり、この結果がそのまま他の地域や集団にあてはまるとは限らない点にも留意が必要です。一つの研究であり、結論が確定したわけではないことを念頭に置いて読むことが大切です。

まとめ

今回紹介した研究では、水道水や尿中のフッ化物濃度が、子どもや青年のBMI、ウエスト周囲径、血圧、コレステロールや中性脂肪といった心血管リスクに関わる指標といくつかの関連を示すことが報告されました。ただし、これらはあくまで関連が観察されたという段階のものであり、フッ化物摂取が体に良い、あるいは悪いといった断定はできません。今後の縦断研究の積み重ねによって、フッ化物曝露と子どもの心血管の健康との関係がより明らかになっていくことが期待されます。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:ヤズド市の小児・青年における尿中および水中フッ化物濃度と心血管リスク因子との関係(エンバイロメンタル・ヘルス・2026年08月)