ごはんやパン、麺類などの炭水化物は、私たちの食事の中心を占める栄養素です。近年の栄養学では、炭水化物を「量」だけでなく「質」で捉える視点が注目されています。食物繊維の多さや血糖値の上がりやすさ(血糖指数)、全粒穀物の割合などを組み合わせて評価する「炭水化物の質指数(CQI)」という指標もそのひとつです。欧米の研究では、この指数が高い食事、つまり炭水化物の質が良いとされる食事が、心血管疾患のリスク要因と逆の関連を示す、つまりリスクが低めであるとの報告が出てきています。しかし、中東地域の人々においてこの関連が実際にどうなのかは、これまでのところデータが限られており、結果も一致していませんでした。今回紹介する研究は、イランで行われた大規模な追跡調査「テヘラン脂質・グルコース研究」のデータを用いて、この炭水化物の質指数と心血管疾患の発症との関係を検証したものです。
研究でわかったこと
この研究では、心血管疾患を発症していないイラン人成人2,648人を対象としました。2006〜2008年の時点で、168項目からなる食物摂取頻度調査票を用いて、参加者の日々の食事内容を調べています。そこから、(1)食物繊維の摂取量、(2)食事の血糖指数、(3)全粒穀物が穀物全体に占める割合、(4)固形の炭水化物が炭水化物全体に占める割合、という4つの要素をもとに炭水化物の質指数(CQI)を算出し、参加者を指数の高さによって3つのグループ(三分位)に分けました。その後、追跡期間中に発症した冠動脈疾患、脳卒中、心血管疾患による死亡を「心血管疾患の発症」として記録し、年齢や性別などの基本属性、生活習慣、食事内容、さらに肥満度・糖尿病・高血圧といった要因を段階的に調整したうえで、炭水化物の質指数と心血管疾患発症との関連を統計的に分析しました。
追跡期間の中央値は10.6年で、この間に171件(全体の6.5%)の心血管疾患が確認されました。多変量で調整した分析の結果、炭水化物の質指数が最も高いグループと最も低いグループを比較しても、心血管疾患の発症リスクに統計的に有意な差は見られませんでした(ハザード比0.83、95%信頼区間0.57〜1.21)。また、指数を構成する食物繊維や血糖指数などの各要素を個別に見ても、いずれも有意な関連は認められませんでした。さらに、全粒穀物の項目を除いた「修正版」の指数や、全粒穀物の代わりに豆類の摂取量を組み込んだ「地域適応版」の指数を用いた追加の分析でも、同様に有意な関連は見られなかったと報告されています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
研究チームは、この解析で検出できる統計的な検出力には限界があった点を明記しています。具体的には、80%の検出力で統計的に意味のある差として検出できる最小のハザード比は、1標準偏差あたり0.801程度であったとされ、これよりも小さな関連があった場合には、今回の研究規模では見つけられなかった可能性があります。そのため著者らは、より大規模な追跡調査が今後必要であるとしています。今回の結果は、あくまで今回のコホート・今回の解析条件下で得られたものであり、炭水化物の質と心血管疾患との関連が「ない」と結論づけるものではない点に注意が必要です。一つの研究であり、これをもって結論が確定したわけではありません。
まとめ
今回のイラン人成人を対象とした前向き研究では、食物繊維や血糖指数、全粒穀物比率などから算出した炭水化物の質指数と、心血管疾患の発症との間に、統計的に有意な関連は確認されませんでした。この結果は、欧米での先行研究とは異なる可能性を示すものであり、地域や食文化の違いが関係している可能性も考えられますが、統計的な検出力の限界もあるため、今後さらに大規模な研究による検証が期待されます。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:炭水化物の質指数と心血管疾患の関連:テヘラン脂質・グルコース研究(サイエンティフィック・リポーツ・2026年06月)