経済発展が進む国々では、都市化とともに食のあり方が大きく変わり、それが心血管代謝疾患(心臓病や糖尿病など)の増加とも関わっていると考えられています。ただし、こうした食システムの変化は一様でも一直線でもなく、近代化が進む食環境の中で伝統的な食習慣が残り続けている地域も少なくありません。今回紹介する研究は、インドネシア・ジョグジャカルタの都市部にある3つのコミュニティを対象に、住民たちが急速な都市化の中で食システムや食習慣の変化をどのように経験し、対応しているのかを質的調査によって検討したものです。

研究でわかったこと

調査に参加した住民たちは、自給的な食料調達から、市場や現金を介した食料入手へと移行してきた様子を語りました。あわせて、調理済み食品や超加工食品(UPF)の増加、外食の広がり、デジタルを使ったフードデリバリーの普及といった変化も報告されており、これらは栄養転換と呼ばれる現象と一致するものとされています。こうした変化は、食品の質が下がったという住民自身の実感や、間食の増加、一回あたりの食事量(ポーション)の増大、そして世代を経るごとに利便性を重視した食生活へ移り変わっていく様子とも結びついていました。

一方で、家庭内での食料生産、食べ物を分け合う習慣、伝統食の摂取といった伝統的な食習慣は、依然として重要な位置を占めており、変わりゆく都市の生活条件に合わせて形を変えながら維持されていることも示されました。研究チームは、都市部インドネシアにおける食システムの変化は、伝統的な食システムから近代的な食システムへと単純に置き換わっていくものではなく、両者が共存する形で進んでいる点に特徴があると述べています。そのうえで、伝統的な食習慣は、急速に都市化が進む低・中所得国において、心血管代謝疾患の予防に向けた、文化的に根ざした機会を提供しうると示唆しています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この研究は、インドネシア・ジョグジャカルタの都市部3コミュニティを対象とした質的データにもとづくものであり、住民の語りから得られた経験や認識を分析したものです。特定の食品や成分が病気を予防する、あるいは改善するといったことを直接示したものではなく、あくまで一つの地域における食習慣の変化と、それが心血管代謝疾患のリスクとどう関わりうるかについての示唆にとどまる点に留意が必要です。他の国や地域、あるいは異なる調査方法による結果とは異なる可能性もあり、一つの研究として結論が確定したものではありません。

まとめ

今回の研究は、急速に都市化が進むインドネシアの都市部において、市場・現金ベースの食料システムや加工食品、外食、デリバリーの拡大が進む一方で、家庭内での食料生産や食の分かち合い、伝統食の摂取といった慣行が形を変えながら根強く残っていることを、住民の語りから明らかにしたものです。伝統と近代の食システムが単純に入れ替わるのではなく共存しているという見方は、心血管代謝疾患の予防を考えるうえで、地域の食文化に根ざした取り組みの可能性を示すものといえそうです。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:食システムの変化、伝統的な食習慣、栄養転換のダイナミクス:インドネシアからの質的知見と心血管代謝疾患への示唆(グローバル・パブリック・ヘルス・2026年08月)