この研究は、中国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Nutrients
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC
なぜアスリートに絞って食物繊維を検討したのか
食物繊維は、人の小腸にある消化酵素では分解・吸収されにくい複雑な炭水化物の総称です。著者らによれば、この「消化されにくさ」こそが、体重の調節や脂質代謝において重要な働きをもたらす鍵だとされています。食物繊維は大腸で腸内細菌のエネルギー源となって発酵を受け、短鎖脂肪酸と呼ばれる活性の高い代謝産物を生み出します。論文は、短鎖脂肪酸が細胞のエネルギーセンサーであるAMPKを活性化し、脂肪細胞での脂肪合成を抑えて脂肪酸の酸化を促すことが示されてきたと紹介しています。また、胃が膨らむことや胃の内容物が送り出される速度が遅くなることを通じて満腹感を高め、総エネルギー摂取量の低下につながる点も挙げられています。
一方で著者らは、一般の人々を対象とした研究結果をそのままアスリートに当てはめることはできないと指摘します。アスリートはエネルギー消費量、利用できるエネルギーの余裕、目指す体組成、トレーニングによる身体の適応のいずれもが一般集団と異なるためです。さらに高強度の運動は内臓への血流低下と消化管への物理的な負担を引き起こし、食物繊維に対する腸の許容度を下げ、腹部の張りや痙攣、不快感といった症状を招きやすくします。これらは競技パフォーマンスを損なう可能性があります。そこで本レビューは、アスリートにおける食物繊維と高食物繊維食の影響について今後の研究の理論的土台を整えると同時に、消化管の不調を抑えつつ腸内細菌への有益な作用を保つ実践的な食事戦略の検討材料を示すことを目的としています。
どのように文献を集め、何を整理したか
本稿はナラティブレビュー、すなわち関連する研究を幅広く集めて論述的にまとめる形式の総説です。著者らは2026年1月にPubMed、Web of Science、Google Scholarを検索し、2000年1月から2026年7月までに公表された文献を対象としました。検索語には食物繊維、プレバイオティクス、イヌリン、レジスタントスターチといった語と、アスリートや運動、身体活動に関する語、さらに体重管理や体組成、脂肪量、腸内細菌叢、脂質代謝、食欲、炎症といった語を組み合わせています。対象はアスリートまたは健康で身体活動の多い人を扱った査読済みの英語・中国語文献で、査読を経ていない論文、糖尿病やがんなど重い代謝疾患を扱った研究、全文が入手できないものは除外されました。著者らは、ナラティブレビューという性質と集めた証拠のばらつきの大きさから、形式ばった選別手順は用いず、系統的レビューやランダム化比較試験といった質の高い研究デザインの知見を解釈上重視し、メカニズム研究や動物実験は生物学的な説明の裏づけとして用いたと述べています。
レビューはまず、アスリートと非アスリートの代謝の違いを整理しています。著者らが引用する研究によれば、長期の定期的な運動を続けるアスリートは同年齢の非アスリートと比べて、中性脂肪、LDLコレステロール、総コレステロールの血中濃度が低く、HDLコレステロールは同等かそれ以上を示す傾向があります。また骨格筋のリポタンパクリパーゼ活性が高く、脂肪組織ではホルモン感受性リパーゼの活性が高まって遊離脂肪酸の動員が進むこと、インスリン感受性が明らかに良好であることなども紹介されています。腸内細菌についても違いが報告されており、ラグビー選手を対象とした研究では22の門、68の科、113の属が検出され、非アスリートの11門・33科・65属を大きく上回ったとされています。ただし著者らは、細菌の多様性が高いことや特定の菌が多いことが、それ自体で優れた代謝状態を意味するわけではなく、競技種目やトレーニング量、食習慣、個人の特性によって生理学的な意味合いが変わると注意を促しています。
アスリートを対象とした介入研究で報告されたこと
食物繊維による体重調節や脂質改善の効果は非アスリートではよく確立されている一方、アスリートを対象とした証拠は比較的限られており、得られた効果が非アスリートと必ずしも一致していないと著者らは述べています。具体例として、バスケットボール選手に8週間の食物繊維介入を行った研究では、高用量群(1日6.84g)と低用量群(1日3.24g)の双方で体重と体脂肪率の低下が報告されました。卓球選手に1日2gのβ-グルカンを4週間補給した研究では、上肢の除脂肪量の増加が報告されています。ただしどちらの研究でも、総コレステロール、中性脂肪、LDLコレステロールといった一般的な血中脂質の指標には有意な改善が見られませんでした。著者らはこれについて、健康で身体活動の多い人はもともと血中脂質の状態が良好であるため、さらに臨床的に意味のある低下を得る余地が限られている可能性を挙げています。つまりこの集団における食物繊維摂取の主な利点は、劇的な代謝の変化ではなく、体重と脂質の恒常性を保ちながら運動能力を維持あるいは高めることにあるのではないか、という見方が示されています。なお先述の卓球選手の研究では、β-グルカン補給がクレアチン代謝経路を活性化させ、最大酸素摂取量を増やし、炎症性サイトカインであるTNF-αを抑え、握力の改善につながったことも報告されています。
食物繊維を単独で補給する場合と比べ、高食物繊維食は総摂取量が多いだけでなく、多様な種類の繊維による発酵の相乗効果や、同時に含まれる微量栄養素の働きも期待できると著者らは整理します。高食物繊維食とは、一般集団の推奨量である1日25〜35gを大きく超える摂取量を、全粒穀物、豆類、野菜、果物、ナッツなど植物性の食品から中心的に得る食事パターンを指します。サッカー選手を対象とした8週間の菜食介入(1日の食物繊維摂取量36.7g超)では、雑食の対照群と比べて体重と体脂肪率が有意に減少し、血清の中性脂肪、総コレステロール、LDLコレステロールも低い値が報告されました。引退したアスリートに6週間の地中海食を実施した研究では、体重の有意な減少と、赤血球膜の脂肪酸に占めるEPAとDHAの割合であるオメガ3インデックスの上昇が報告されています。
著者らは性差にも触れています。豆類を取り入れた食事(1日41±17gの食物繊維)を用いた研究では、女子サッカー選手で体重の変化を伴わない脂肪量の減少と、HDLコレステロール(豆類食+0.5±0.7mmol/L、通常食−0.6±0.3mmol/L)および総コレステロール対HDLコレステロール比(豆類食−2.4±2.9、通常食+2.6±2.2)の有意な改善が報告されました。一方、男子サッカー選手ではこうした血中脂質の好ましい変化は認められませんでした。著者らはその一因としてエストロゲンの関与を挙げ、非アスリートでも同様の性差が記録されていると述べています。これらを踏まえ、食物繊維による体重調節と脂質代謝への恩恵は性別によって異なり、一部の心血管代謝・肝機能の指標では女性でより顕著な改善が見られる、と要約されています。
消化管の負担とどう折り合いをつけるか
本レビューが重視するもう一つの論点は、食物繊維の利点を得るには長期にわたり食事を続ける必要がある一方、激しいトレーニングや試合の時期に摂り過ぎると、腹部の張り、腸内ガスの増加、腹部の不快感といった症状が生じ、トレーニングの質や競技成績に影響しうるという点です。そこで著者らは、競技期と非競技期で食物繊維の量を周期的に調整する方法を実践的な戦略として紹介します。例として、ゲーリックフットボールの選手が1日68gの食物繊維を含む菜食を採用しつつ、トレーニングや試合の前にはレンズ豆やひよこ豆といった食物繊維の多い食品を豆腐などの低繊維のたんぱく源や、白米、パスタ、小ぶりのじゃがいもといった低繊維の炭水化物源に置き換えた事例が挙げられ、この方法でシーズンを通じて体脂肪率を維持しながら除脂肪量を増やすことができたと報告されています。
もう一つの選択肢として、発酵しやすい特定の糖類を控える低FODMAP食の考え方が紹介されています。持久系アスリートを対象とした研究では、運動前48時間に高炭水化物・低FODMAP食をとった場合、高炭水化物・高FODMAP食よりも運動に伴う消化管症状の軽減に有効でした。注目すべきことに、この低FODMAP群も1日53±1gと比較的多くの食物繊維を摂取していました。著者らはここから、食物繊維の摂取量が多いこと自体が必ずしも運動中の消化管症状を引き起こすわけではないと述べ、急速に発酵する繊維を避け、発酵がより緩やかな繊維を選ぶことが有効な方策になりうると論じています。実際、部分加水分解グアーガムやサイリウム外皮は発酵の性質が比較的穏やかで、消化管での忍容性が良いことが知られています。発酵のしやすさは結合の種類だけでなく、枝分かれの程度や立体構造といった構造的な特徴にも左右されるためです。
加えて著者らは、女性アスリートへの配慮を求めています。体脂肪率がもともと低い体操選手や持久系選手では、細身の体型を保つ圧力から食事のエネルギー密度をさらに下げてしまうことがあります。低エネルギー密度・高食物繊維食を調べた研究では、機能性視床下部性無月経の選手がこの食事パターンをとった場合、より痩せた体型を示す傾向がある一方で、スポーツ関連の傷害リスクの上昇とも関連していたと報告されています。高食物繊維食はエネルギー密度を下げ満腹感を高めることで摂取エネルギーを減らしうるうえ、高強度の運動も利用可能なエネルギーの低下に寄与します。複数の権威あるスポーツ医学団体は、利用可能なエネルギーの不足が、月経の異常や骨の健康の悪化を含む女性アスリートの三主徴のリスク上昇と関連することを指摘しており、著者らは十分なエネルギー摂取の確保、内分泌の恒常性の維持、個別のリスク評価が必要だとまとめています。
このレビューが示していること
著者らの整理をまとめると、食物繊維は単なる物理的な性質にとどまらず、腸内環境を左右する生態学的な調整役として、腸内細菌やその代謝産物、炎症、食欲といった複数の経路を通じて体重や脂質代謝に関わりうる栄養素として位置づけられます。ただしアスリートを対象とした現時点の証拠は限られており、腸内細菌の特徴と代謝の指標との関係の多くは相関の段階にとどまっていて、特定の菌が脂質代謝を直接高めるかどうかは実験的な検証を待つ状態だと著者ら自身が明確に述べています。
本レビューの意味は、食物繊維をアスリートにとって一律に増やすべきものとしてではなく、競技の時期、繊維の種類と発酵の速さ、そして性別や個人差を踏まえて調整する対象として捉え直した点にあります。代謝上の利点と消化管の忍容性は、どちらか一方を選ぶ関係ではなく、両立を探る余地があるという見通しが、既存の報告の突き合わせから浮かび上がっています。
著者:Fang F(School of Physical Education, Guangzhou Sport University, Guangzhou 510500, China.)、Hou T(School of Exercise and Health, Guangzhou Sport University, Guangzhou 510500, China.)、Chen Y(School of Exercise and Health, Guangzhou Sport University, Guangzhou 510500, China.)、Hu M(School of Exercise and Health, Guangzhou Sport University, Guangzhou 510500, China.; Guangdong Provincial Key Laboratory of Human Sports Performance Science, Guangzhou Sport University, Guangzhou 510500, China.)、Gu B(School of Exercise and Health, Guangzhou Sport University, Guangzhou 510500, China.)、Li Z(School of Exercise and Health, Guangzhou Sport University, Guangzhou 510500, China.)、Wang Z(School of Physical Education, Guangzhou Sport University, Guangzhou 510500, China.)、Mao YH(School of Exercise and Health, Guangzhou Sport University, Guangzhou 510500, China.; Guangdong Provincial Key Laboratory of Human Sports Performance Science, Guangzhou Sport University, Guangzhou 510500, China.)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Fang F, Hou T, Chen Y, et al. The Effects of Dietary Fiber and High-Dietary-Fiber Diets on Body Weight Regulation and Lipid Metabolism in Athletes: A Narrative Review. Nutrients 2026-08-28. DOI: 10.3390/nu18172832. 原著ライセンス:CC BY.