アルガンオイルは北アフリカで長く食用や化粧用に使われてきた植物油ですが、搾り方や加熱の有無によって成分や香りがどのくらい変わるのかは、これまで十分にわかっていませんでした。今回、アルジェリアのティアレット大学やモスタガネムのアブデルハミド・イブン・バディス大学などの研究者たちが、アルジェリア・モスタガネム産のアルガンの種子(カーネル)を使い、抽出方法と焙煎の有無がオイルの栄養プロファイルや香りにどう影響するかを調べた研究が、フーズ誌に2026年8月に掲載予定です。
機械圧搾と溶媒抽出、何が違うのか
研究チームは、焙煎したカーネルと焙煎していないカーネルの両方を用意し、伝統的な機械による低温圧搾(コールドプレス)と、ジエチルエーテルおよび石油エーテルを使った溶媒抽出という異なる方法でオイルを取り出しました。そのうえで、油の回収率(どれだけ多くの油が取れるか)、脂肪酸の組成、ステロール(植物由来の脂質成分)の種類と割合、そして香りのもとになる揮発性成分を比較しています。
結果として、ジエチルエーテルによる抽出は最も高い油の回収率を示し、オレイン酸やβ-シトステロールという成分の割合も相対的に高くなりました。これらは酸化に対する安定性や成分としての品質に関わる可能性がある特徴として位置づけられています。一方、伝統的な機械圧搾では、アルガンオイル本来のステロール組成がより保たれており、その内訳はスコッテノールが44.1%、スピナステロールが32.6%を占め、これらは伝統的なアルガンオイルを特徴づける成分とされています。
焙煎が生み出す「香ばしさ」の正体
もう一つの注目点は焙煎の効果です。カーネルを焙煎すると、メイラード反応(加熱によって糖とアミノ酸が反応し、香りや色を生み出す化学反応)に由来する揮発性成分が増え、特にピラジン類やフラン類といった化合物が目立つようになりました。研究チームは、これが料理用として親しまれている焙煎アルガンオイル特有の「香ばしい」「ナッツのような」香りを生み出していると説明しています。
この研究をどう読むか
この研究の特徴は、油の抽出効率だけでなく、脂肪酸組成、ステロールという本物らしさの指標、そして香りに関わる揮発性成分までを一つの研究の中で総合的に評価した点にあるとされています。研究チームは、抽出方法と焙煎という前処理の組み合わせ次第で、アルガンオイルの栄養面・機能面・香りの特徴を目的に応じて調整できる可能性があるとしており、食品用途、料理用途、化粧品用途、あるいは香りを抑えたい用途など、使い道に応じた加工条件を選ぶための手がかりになるとしています。また、こうした知見はアルジェリア産アルガンオイルの製造工程の標準化や、真正性(本物であることの証明)の維持、産業としての持続的な活用にも役立つ可能性があるとされています。なお、この研究は特定の産地・条件下での比較であり、一つの研究として得られた知見である点には留意が必要です。
まとめ
今回の研究は、同じアルガンの種子から作られるオイルであっても、圧搾か溶媒抽出か、焙煎の有無かによって、脂肪酸組成やステロールプロファイル、香りの成分が異なってくることを示しました。伝統的な圧搾法は本来のステロール組成を保ちやすく、焙煎は香ばしい香りを強めるという、それぞれ異なる特徴が見えてきた形です。今後、こうした知見が食品や化粧品分野でのアルガンオイルの品質管理や用途に応じた製造条件の選択に活用されていくことが期待されます。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Taleb Aridj, Nawal Boukezzoula, Choukri Tefiani, et al. Exploring the Impact of Extraction Methods on the Nutritional and Sensory Profiles of Argan Oil from Mostaganem Kernels. フーズ (2026). DOI: 10.3390/foods15152724. 原著ライセンス: cc-by.