魚を焼くとき、表面に油を塗ってから焼くと香りやおいしさが変わることは、料理の経験則としてよく知られています。しかし、どの植物油を使うかによって、香りの成分や食感にどのような違いが生まれるのかを科学的に比較した研究はまだ多くありません。今回紹介するのは、中国・江西師範大学(Jiangxi Normal University)の淡水魚加工に関する研究拠点(National R & D Center for Freshwater Fish Processing)に所属する研究者らが、ソウギョ(アオウオ・草魚)の切り身を使い、6種類の食用油を塗って焼いたときの品質や風味の違いを調べた研究です。

研究でわかったこと

研究チームは、大豆油、ひまわり油、椿油(カメリア油)、パーム油、シソ油(エゴマ油)、ごま油という6種類の植物油をソウギョの切り身に刷毛で塗布し、焼いた後の色調、食感、官能評価(人が食べて感じる味や香りの評価)、揮発性の香り成分、そして脂肪酸組成を分析しました。その結果、植物油を塗って焼くことで、無塗布の場合と比べて総合的なおいしさの評価(総合受容性)が有意に高まることが示されました。

香り成分の分析では、合計42種類の揮発性香気成分が検出され、そのうち8種類が味や香りの決め手となる「キー化合物(重要な香気成分)」として特定されました。これらは主にアルデヒド類で、具体的には(Z)-2-ノネナール、トランス-2-デセナール、トランス,シス-2,4-デカジエナール、トランス,トランス-2,4-デカジエナールといった成分が挙げられています。

油の種類による違いも明確でした。ごま油を塗った場合は、ごま油に特徴的なピラジン類という成分により香ばしい焙焼香が強く感じられ、官能評価の総合スコアが最も高く、キーとなる香気成分の種類も最も豊富だったと報告されています。一方、ひまわり油は魚本来の風味への影響が最も小さく、素材そのものの味を保つ傾向が示されました。

さらに研究では、香気成分と脂肪酸組成との関係についても相関分析が行われました。多くの油に共通する香気成分であるノナナールは、複数の多価不飽和脂肪酸(C18:3n6、C20:3n6、C22:6n3)や飽和脂肪酸(C11:0、C14:0、C15:0、C20:0)と正の相関を示した一方、2-ヘプテナールとベンジルアルコールは同じ飽和脂肪酸群(C11:0、C14:0、C15:0、C20:0)と負の相関を示したことが明らかにされました。これにより、特定の香気成分と脂肪酸との関係性の一端が示されたとしています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この研究は、ソウギョという特定の淡水魚を対象に、6種類の植物油を用いた条件下で得られた結果であり、他の魚種や油の種類、調理方法(焼き方や温度など)に同じ傾向がそのまま当てはまるかは、この論文だけでは分かりません。また、官能評価は人の感覚に基づく評価であるため、対象者や評価環境によって結果が変動する可能性もあります。あくまで一つの研究成果であり、結論が確定したものではない点に留意する必要があります。

まとめ

今回の研究では、焼き魚に塗る植物油の種類によって、香りの成分や総合的なおいしさの評価が変わりうることが示されました。特にごま油は香ばしい香りを強め官能評価を高める傾向、ひまわり油は魚本来の風味を保ちやすい傾向が報告されています。また、香気成分と脂肪酸組成との関連性についても分析が行われ、焼き魚製品の風味設計に向けた基礎的な知見が示されたとしています。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:異なる植物油がソウギョ切り身の焙焼品質と風味特性に及ぼす影響(ドアジ(オープンアクセス学術誌ディレクトリ)・2026年09月掲載予定)