この研究は、ブラジルの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Journal of Food Science
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
何を目的とした研究か
ミードは蜂蜜を水で薄めた液を酵母で発酵させてつくる、世界でも古い部類に入る醸造酒です。近年はクラフト飲料市場の広がりを背景に、あらためて商業的・科学的な関心を集めています。研究チームは、こうした流れの中で植物由来の素材を加えて飲料の品質を高める手法に注目しました。
取り上げられたのはローゼル(ハイビスカス・サブダリファ)です。この植物はアントシアニン(赤い色素の一群)やフラボノイド、フェノール化合物、有機酸を豊富に含み、酸性の条件で色が安定しやすいため、発酵飲料の天然着色料として有望だと論文は述べています。ただし著者らによれば、他の発酵飲料への利用例はあるものの、ミードに加えた場合に発酵の進み方や理化学的な性質、色、抗酸化性がどうなるかはよく分かっていませんでした。そこで本研究は、まず対照となるミードの発酵の経過を詳しく記述し、そのうえで発酵後にハイビスカスの抽出液を加えたときの影響を評価することを目的としています。
どのように調べたか
原料の蜂蜜はブラジル南部の生産者から2022年9月に採取されたもので、供給者によるとオレンジの花由来が主体とされています(ただし本研究では花粉分析による産地確認は行っていません)。著者らは、この蜂蜜の水分、酸度、HMF(加熱や長期保存で糖が分解して生じる物質で、鮮度の指標に使われます)、可溶性固形分を測定しました。
仕込みでは蜂蜜を水で薄めて糖度16度に調整し、ワイン用の酵母サッカロミセス・セレビシエを加えて18℃前後で発酵させました。発酵の間は定期的に試料を取り、還元糖の減少、酵母の増え方、アルコールの生成を追跡しています。発酵を終えたミードのうち、ハイビスカスを加えない区分を対照(F1)とし、乾燥した花をミードに漬け込んでつくった抽出液を、発酵と清澄の後に20%(容量比)加えたものをハイビスカス区分(F2)としました。抽出液を後から加えたのは、清澄工程でアントシアニンなどが失われるのを避けるためだと説明されています。
両方のミードについて、アルコール度数、pH、総酸度、色(明るさや赤み、鮮やかさを数値で表すCIELAB法)、総フェノール量、総フラボノイド量、総アントシアニン量、そして二種類の試薬(DPPHとABTS)を用いた抗酸化活性が測定されました。
報告された主な結果
蜂蜜の性質は、酸度32.13 mEq/kg、水分16.27%、HMF 57.06 mg/kg、可溶性固形分81.8度と報告され、いずれもブラジルの法定基準の範囲内でした。ただしHMFは上限の60 mg/kgに近い値でした。
発酵の経過については、酵母の濃度が最初の72時間ほどで約0.3 g/Lから1.25 g/Lへ増え、その後は安定したと記されています。還元糖は131 g/Lから37 g/Lまで減りましたが、発酵の終わりにも糖が残っていました。最終的なアルコール分は約4.8%(容量比)で、ミードの一般的な範囲(4〜12%)に収まる値です。
著者らが注目したのは、糖からエタノールへの変換係数が0.46 g/gと、理論値の0.51 g/gに近かった点です。つまり代謝の効率そのものは高く保たれており、アルコール度数が控えめだったのは糖を使い切れなかったためだと論文は解釈しています。その背景として、蜂蜜の液は酵母が利用できる窒素やビタミン・ミネラルが元々乏しいという栄養面の制約が挙げられています。ただし著者らは、本研究ではこれらの成分を実測していないことを限界として明記しており、発酵の様子が文献で報告されている蜂蜜特有の傾向と一致する、という範囲の説明にとどめています。
ハイビスカス抽出液は発酵が完全に終わった後に加えられたため、二つの区分の間でアルコール分や残糖に違いは見られませんでした。著者らはこれを、ハイビスカスの添加が酵母の発酵代謝に干渉しなかったことの確認と位置づけています。
この研究が示すこと
この研究は、ミードづくりにおける発酵の進み方を数値として丁寧に記述したうえで、ハイビスカスを発酵後に加えるという手順が、酒づくりの根幹であるアルコール発酵そのものを乱さずに済むことを示しました。色や抗酸化性といった付加価値を狙う工程と、発酵という工程を切り分けて考えられる、という実践的な見通しにつながる報告だといえます。
同時に、蜂蜜を原料とする発酵には栄養面の制約がつきまとい、糖が残ったまま発酵が緩やかに止まりやすいことも改めて浮かび上がりました。著者ら自身が未測定の項目を限界として示している点も含め、原料の性質を理解することが飲料の設計に直結するという、発酵食品づくりの基本を具体的な数値で裏づけた研究といえるでしょう。
著者:Luiz Antônio Teixeira Pedott(Department of Food Engineering Universidade Regional Integrada do Alto Uruguai e Missões Erechim Brazil)、Lucas Henrique do Nascimento(Department of Food Engineering Universidade Regional Integrada do Alto Uruguai e Missões Erechim Brazil)、Laís Thomazoni(Department of Food Engineering Universidade Regional Integrada do Alto Uruguai e Missões Erechim Brazil)、Jamile Zeni(Department of Food Engineering Universidade Regional Integrada do Alto Uruguai e Missões Erechim Brazil)、Eunice Valduga(Department of Food Engineering Universidade Regional Integrada do Alto Uruguai e Missões Erechim Brazil)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Luiz Antônio Teixeira Pedott, Lucas Henrique do Nascimento, Laís Thomazoni, et al. Impact of Hibiscus sabdariffa Incorporation on Physicochemical Properties, Color Attributes, and Antioxidant Activity of Mead. Journal of Food Science 2026-09-01. DOI: 10.1111/1750-3841.71439. 原著ライセンス:CC BY.