ミード(蜂蜜酒)は蜂蜜を水と混ぜて発酵させたアルコール飲料で、人類最古の酒のひとつとされています。近年はトロピカルフルーツやスパイスを使った新しいスタイルが登場し、熟成にオーク樽の代わりにオークチップを使う手法も広がっていますが、商業生産されたオーク熟成ミードの化学的な特徴を調べた研究はまだ少ないのが実情です。今回、ブラジル・バイーア州の醸造所で作られた市販ミードを対象に、フェノール化合物(ポリフェノールの一種で抗酸化作用に関わる成分)の組成、抗酸化力、そしてガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)で検出できる化学成分を比較した研究が報告されました。
研究チームには、蜂蜜を専門に扱うブラジル・レコンカヴォ・ダ・バイーア連邦大学の昆虫学研究拠点(Núcleo de Estudos dos Insetos)や農学・環境・生物科学センター、同大学の理工学センター、さらにパンパ連邦大学のクロマトグラフィー・食品分析研究グループの研究者らが名を連ねています。
何を、どうやって調べたのか
調査対象は、San'Mielle Hidromelaria社(バイーア州クルス・ダス・アルマス)が作った同一の製造バッチ(バッチ番号0002/2025)から作られた2種類の市販ミードです。西洋ミツバチ(Apis mellifera)の蜂蜜を使い、発酵を10ブリックス(糖度の指標)で止めて造られた約400リットルの原料ミードを4つの発酵タンクに分け、うち2タンクはそのまま「伝統的スムースミード」(アルコール度数7%)に、残る2タンクは中程度に焙煎したフレンチオークのチップ(ミード100リットルあたり5kg)を加えて約25℃で6か月間熟成させ「オーク熟成ミード」(アルコール度数8%)に仕上げました。いずれも瓶詰め後に高温短時間殺菌(71〜74℃で15〜30秒)が施されています。それぞれ独立した3本の瓶を用意し、各瓶を3回ずつ分析するという方法で、偶然のばらつきを抑える工夫がされています。
フェノール化合物は高速液体クロマトグラフィー(HPLC-DAD)で、抗酸化力はDPPHという試薬を使ったラジカル消去能テストで測定されました。さらにGC-MS分析により、揮発性・半揮発性の化合物も網羅的に調べられています。
研究でわかったこと
分析の結果、両方のミードから、ハイペロシド、クロロゲン酸、カフェイン酸、パラクマル酸、ケルセチン、4-ヒドロキシ安息香酸など、蜂蜜由来の発酵飲料でよく報告される複数のフェノール化合物が検出されました。一方で没食子酸とネオクロロゲン酸は両サンプルとも検出限界以下でした。
興味深いのは、総フェノール量(伝統的ミードで1リットルあたり没食子酸換算120.59mg、オーク熟成ミードで120.46mg)、個々のフェノール化合物の量、そしてDPPH法による抗酸化力(伝統的ミードで21.10%、オーク熟成ミードで22.65%の還元率)のいずれについても、統計的に意味のある差は見られなかったという点です。つまり、今回調べた条件では、フレンチオークチップでの6か月熟成がフェノール組成や抗酸化力を目立って変化させたとは言えない結果でした。
一方でGC-MS分析では、アルデヒド類、ケトン類、エステル類、アルコール類、有機酸など17種類の化合物が候補として検出され、伝統的ミードとオーク熟成ミードで検出される化合物の種類や量の割合に違いが見られました。特に目立ったのは5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)で、伝統的ミードでは検出面積の20.40%、オーク熟成ミードでは46.34%を占めていました。HMFは蜂蜜や蜂蜜由来食品でよく報告される物質で、糖の分解反応(メイラード反応や酸による脱水反応など)に関連するとされています。ただし著者らは、この結果はピーク面積の相対値であり、絶対的な濃度や香りへの影響を直接示すものではないと注意を促しています。またオーク由来として一般的に知られる化合物は、今回検出された化合物の中で特に多いものには含まれておらず、著者らはフレンチオークチップが化学組成の主要因であるという直接的な証拠は得られていないとも述べています。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
著者らは、この研究が実験室で条件を厳密にそろえた比較ではなく、市販品同士の比較であることを繰り返し強調しています。2つの製品はアルコール度数が7%と8%で異なっており、この違いも化学組成のばらつきに影響した可能性があり、熟成の効果と完全に切り分けることはできないとしています。またGC-MSでの化合物同定は、質量スペクトルのデータベース(NISTライブラリ)との照合による「暫定的な」ものであり、保持指標や標準物質を使った確定的な同定ではない点も限界として挙げられています。オークチップ熟成が実際にミードの成分に与える影響を明らかにするには、条件を統制した実験デザインによる追加研究が必要だと結論づけられています。
まとめ
この研究は、ブラジル・バイーア州で商業生産された伝統的ミードとフレンチオークチップ熟成ミードを比較し、フェノール化合物量・抗酸化力に統計的な差が見られなかった一方、GC-MSで検出される化学成分の構成には違いがあったことを報告しています。ただしこれは1つの生産バッチ由来の市販品を対象にした一つの研究であり、結論が確定したわけではありません。今後、熟成条件をより厳密に統制した研究によって、オーク由来の影響がさらに検証されることが期待されます。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Samira Maria Peixoto Cavalcante da Silva, Carlos Borges Filho, Júnior Mendes Furlan, et al. Comparative analysis of phenolic compounds and antioxidant activity in commercial traditional and French oak-aged meads. ケミカル・ペーパーズ (2026). DOI: 10.1007/s11696-026-05329-9. 原著ライセンス: cc-by.