中国各地には、米を原料とした伝統的な発酵酒が数多く存在します。地域ごとに造り方や味わいが異なるこれらの米酒について、成分や香り、味の良し悪しを一度に比べた研究はこれまで限られていました。今回紹介する研究では、中国各地から集めた7種類の発酵米酒を対象に、理化学的な指標、遊離アミノ酸、有機酸、生体アミン(ヒスタミンなど、微生物の働きでアミノ酸から生じる物質)、揮発性の香り成分、そして人による官能評価をあわせて調べ、何が『おいしさ』と『安全性』を左右しているのかを探っています。

7種の米酒で何を比べたのか

研究チームは、酸度やアルコール分といった基本的な理化学指標に加え、うま味や甘みに関わる遊離アミノ酸、酸味のもとになる有機酸、そして摂りすぎると健康への懸念が指摘される生体アミンの含有量を分析しました。さらに、香りを決める揮発性化合物のプロファイルを調べたうえで、実際に人が試飲する官能評価のスコアと突き合わせています。こうした複数の指標を組み合わせて解析する手法(多変量解析)により、単一の数値だけでは見えてこない、米酒の『総合的な質』を捉えようとした点がこの研究の特徴です。

産地によって傾向が大きく異なった

結果には、産地ごとにはっきりとした違いが見られました。広西産のサンプル『MJ5』は官能評価で93.6点という最も高い評価を獲得しています。研究チームはこの評価の高さについて、アルコール度数の高さと、うま味を強めるアミノ酸類、そして花や果実を思わせる香りのエステル類が豊富に含まれていたことが、バランスよく組み合わさった結果だと分析しています。

一方で、湖北産の『MJ6』はMJ5に匹敵するほど香りの複雑さを備えていたものの、7種の中で生体アミンの含有量が最も高く、安全性の面で懸念が示されました。逆に、重慶産の『MJ2』は生体アミンの含有量が最も少なく安全性の面では最も優れていた反面、香りや味の評価は控えめなものにとどまっています。つまり、味の評価が高いサンプルほど安全というわけではなく、両者は必ずしも一致しない、という点がこの研究の重要な発見のひとつです。

『これさえ見れば良い』という単一指標は無かった

研究チームが強調しているのは、酸度やアルコール分、特定の香り成分など、どれか一つの指標だけで米酒全体の質の高さが決まるわけではなかった、という点です。香りや味に関わる揮発性成分・呈味成分が調和よく組み合わさっていることに加え、生体アミンをきちんと管理することの両方がそろって初めて、質の高い米酒になると考察されています。この知見は、発酵米酒に対して複数の指標を組み合わせた品質基準を作るための科学的な土台になるとされています。

読むうえでの留意点

今回の研究は中国産の発酵米酒7種を対象にしたものであり、他の地域や種類の米酒、あるいは日本の米を使った発酵酒(清酒など)に同じ傾向が当てはまるかどうかは、この要旨からは分かりません。あくまで一つの研究であり、これによって発酵米酒の品質基準や安全性の結論が確定したわけではない点に留意してください。

まとめ

この研究は、中国の発酵米酒7種を理化学指標・アミノ酸・生体アミン・香り成分・官能評価という複数の切り口から比較し、味の評価が高いサンプルと安全性(生体アミンの少なさ)に優れたサンプルが必ずしも一致しないことを示しました。おいしい米酒づくりには、香りや味の成分がバランスよく組み合わさることに加え、生体アミンの管理が欠かせないという考察は、今後の品質基準づくりに向けた一つの手がかりといえそうです。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:HuaWei Yuan, XinYu Zhao, Hao Yuan, et al. Quality characterization of fermented rice wines: A multivariate study on physicochemical indices, biogenic amines, volatile profiles, and sensory evaluation. フード・ケミストリー:エックス (2026). DOI: 10.1016/j.fochx.2026.104364.