遺伝子組換え(GM)作物が市場に出る前には、既存の作物と成分面で大きな違いがないかを確認する「実質的同等性」の評価が行われます。従来はタンパク質や脂質、主要な栄養成分など、あらかじめ決めた項目を測定する方法が中心でしたが、それだけでは見落とす代謝物があるかもしれません。今回、韓国・仁川大学校や農村振興庁国立農業科学院などの研究グループが、GMトウモロコシ(Zea mays L.)を対象に、あらかじめ標的を絞らずに数百種の代謝物を一度に調べる「非標的メタボロミクス」という手法を使って、安全性評価の新しいワークフローを検証した研究を報告しました。
どのように調べたのか
研究チームは、GM系統とその元になった親系統のトウモロコシ(生物学的な繰り返しはそれぞれ3反復)を用意し、代謝物のプロファイルを比較しました。分析には、非標的の高分解能質量分析法であるUPLC-qTOFMSと、脂肪酸などを対象とする標的分析法のGC-TOFMSを組み合わせています。両手法を使い分けることで、幅広い種類の代謝物を検出しつつ、特定の物質群についてはより精度の高いデータも得られるようにしたとみられます。得られたデータは多変量統計解析にかけられ、GM系統と親系統の違いを段階的に絞り込んでいく解析の流れが構築されました。
研究でわかったこと
この分析によって179種類の代謝物が同定されました。まず主成分分析でGM系統と親系統全体の代謝物パターンを比較したところ、両者の間に実質的な差は見られなかったと報告されています。これは、遺伝子組換えという操作自体が代謝物全体のパターンを大きく変えるものではなかったことを示す結果と言えます。
一方で、GM系統と親系統は遺伝的な背景そのものが異なる系統でもあるため、研究チームはさらに詳しく解析を進め、両者を区別しうる「遺伝的背景関連バイオマーカー」を探索しました。VIP値が1.3より大きい、AUROC(判別性能の指標)が0.9より大きい、log2FC(変化倍率の対数値)が1.5より大きいという3つの基準を組み合わせて絞り込んだ結果、脂肪酸7種とフェノール化合物2種、合計9種の代謝物が候補として選び出されました。これらの候補については、相関解析(相関係数r>0.6208、p値<0.0012)や階層クラスタリングという別の統計手法でも一貫した傾向が確認され、バイオマーカーとしての妥当性が支持されたとされています。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
研究チームは、今回のサンプルが単一の栽培環境で得られたものである点を、この研究の限界として挙げています。気候や土壌条件が異なる複数の環境で栽培した場合に同じ結果が得られるかどうかは、この研究だけでは分かりません。著者らは、今回構築した非標的メタボロミクスによる段階的な解析ワークフローを、今後より大規模かつ多様な栽培環境でGM作物を評価していくための基盤として位置づけています。あくまで一つの研究であり、これをもってGM作物全般の安全性が確定したと結論づけるものではない点には留意が必要です。
まとめ
今回の研究では、非標的メタボロミクスと標的分析を組み合わせた手法により、GMトウモロコシと親系統の代謝物パターンに全体としては大きな違いが見られなかったことが報告されました。同時に、両系統を区別しうる脂肪酸やフェノール化合物由来の候補バイオマーカーも特定されており、こうした知見はGM作物の安全性評価手法を精緻化していくうえでの一つの材料になると考えられます。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Bokyeong Kim, Young Jin Park, Hyoun−Min Park, et al. Application of untargeted metabolomics for the safety assessment of genetically modified maize (Zea mays L.) and the identification of genetic background-associated biomarkers. アプライド・バイオロジカル・ケミストリー (2026). DOI: 10.1186/s13765-026-01130-0. 原著ライセンス: cc-by.