この研究は、オーストラリアの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Legume Science

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

レンズマメは世界50か国以上で栽培される温帯性の食用豆で、たんぱく質を多く含む作物として需要が高まっています。研究チームによれば、オーストラリアは世界第3位の生産国で、栽培は南オーストラリア州とビクトリア州の降水量が少ない地域が中心です。これらの地域では高温と水不足がしばしば収量を制約しており、論文は、オーストラリアの平均気温が1910年以降およそ1.4℃上昇し、短期間の強い熱波の頻度も増えていると述べています。

レンズマメの種子は、大きさ・重さ・厚み・種皮の色といった特徴が等級や取引価格を左右します。オーストラリアの生産の95%以上が輸出向けであるため、こうした「種子品質」の形質は育種の主要な目標になってきました。ところが、著者らは、これまでの高温研究の多くが収量や栄養成分に集中しており、種子の大きさや色といった品質形質への影響はあまり調べられていないと指摘します。

そこで研究チームは、莢に実が詰まっていく時期(莢肥大期)に短期間の高温が加わったとき、種子品質がどう変化するのか、また品種によって反応がどう違うのかを明らかにすることを目的としました。

どのように調べたか

試験はオーストラリア・ビクトリア州のウィメラ地域の圃場で、2022年から2024年までの3シーズン行われました。評価された品種・系統は2022年に19、2023年に25、2024年に32で、商業品種、育種系統、在来種を含み、高温耐性が期待されるものと高温に弱いとされるものの両方が選ばれています。

高温は「ヒートチャンバー」と呼ばれる、圃場に一時的に設置する透明な囲いを使って与えられました。光がよく通る素材で覆い、ファンヒーターと循環用ファンで内部の気温を上げる仕組みで、自然に近い日射と空気の流れを保ったまま群落の温度だけを高められます。処理は莢肥大期に3日連続、日中のみ行い、夜間は開放して外気と同じ条件に戻しました。2022年と2023年は平均約35℃、2024年はより強い条件として平均約37℃に設定され、夜間はおよそ13〜15℃でした。比較対象として、同じ圃場で通常の気象条件のまま育てた区画を用いています。

高温の強さは「ヒートロード(熱負荷)」として数値化されました。これは30℃を超えた分の温度を処理期間中に積み上げた量(度・時間)で、3日間の平均は2022年が98.5、2023年が146.4、2024年が227.5と、年を追って大きくなっています。

収穫した種子については、画像解析装置で100粒重、種子サイズ指数、種子の厚みと直径の比である「粒の張り(seed plumpness)」を測定しました。種皮の色は色差計で、明るさ(L*)、赤み(a*)、黄色み(b*)の3つの指標として数値化し、対照区と高温区の色の隔たりを示す指標(Delta E)も算出しています。たんぱく質濃度は近赤外分析で乾物あたりの割合として求められました。

報告された主な結果

研究チームの報告では、高温処理は3シーズンを通じて一貫して種子を小さくしました。100粒重の減少率は2022年が1.4%、2023年が4.4%、2024年が7.0%で、熱負荷が大きい年ほど減少幅も大きくなっています。種子サイズ指数も同様に、0.5〜2.3%の緩やかな減少を示しました。一方で粒の張りはほとんど変化せず(0〜−1.3%)、品種間のばらつきが大きいままでした。

種皮の色は全体として影響が小さく、明るさ(L*)と黄色み(b*)は年を通じてほぼ安定していました。ただし赤み(a*)だけは一貫して低下し、3年間でそれぞれ3.2%、3.3%、4.0%の減少が報告されています。

対照的に、たんぱく質濃度は高温下で一貫して上昇しました。2022年は29.1%から30.2%へ(+3.8%)、2023年は26.6%から28.2%へ(+6.0%)、2024年は30.5%から31.7%へ(+3.9%)という変化です。著者らは、これを種子の充実期にデンプンの蓄積が減ったことに伴う成分構成の変化と解釈しています。つまり、たんぱく質が新たに増えたというより、相対的な割合が動いたという見方です。

形質どうしの関係は、気象条件の異なる年をまたいでも一貫していました。種子が大きいほどたんぱく質濃度は低く、種皮の色は明るい傾向があり、粒の張りはこれと逆の関係を示しています。高温下でもこの関係はおおむね保たれ、種子サイズとたんぱく質濃度の負の関係はむしろ強まりました。

品種の反応には大きな違いがありました。著者らは主成分分析と階層的クラスタリングにより、品種をおおむね4つの反応タイプ——高温下でも品質が安定する群、絶対値として優れた成績を保つ群、種子サイズを犠牲にしつつたんぱく質を維持・上昇させるトレードオフ型、そして種子サイズが落ち色の変動も大きい高温感受性の群——に分類しています。熱負荷が最も大きかった2024年には、トレードオフ型と高温感受性の品種の割合が増えました。ILL 512/70951、GIA Metro、GIA Thunder、PBA Bolt、PBA Hallmark XT、PBA Jumbo 2といった品種は、複数年にわたって安定型または高成績型のグループに繰り返し分類されたと報告されています。

なお論文は、種子重量の減少幅が過去の研究より小さかった点にも触れています。先行研究では開花期から成熟期まで昼夜とも高温を維持した条件で20〜39%といった大きな減少が報告されていますが、本研究は日中のみ3日間という短期間の処理で、夜間は13〜15℃まで下がる自然の熱波に近い設定だったことが違いの理由として挙げられています。

この研究が示すもの

この研究が伝えているのは、短期間の高温が種子品質に与える影響は形質ごとに異なる、ということです。種子の大きさと種皮の赤みは高温の強さに応じて下がる一方、粒の張りや明るさ・黄色みはほとんど動かず、たんぱく質濃度はむしろ上がりました。品質という一括りの言葉では捉えきれない、方向の違う変化が同時に起きています。

同時に、品種によって反応が明確に分かれ、多くの形質で遺伝的な支配が強いことも示されました。著者らは、これが高温下でも安定した品質を保つ品種を選び出す手がかりになり、高温に強い仕組みの理解と、形質に基づく選抜を通じた気候変動に強い品種の開発を後押しすると述べています。

著者:Minhao Li(Agriculture Science and Technology, AgriBio, Centre for AgriBioscience, Department of Energy Environment & Climate Action (DEECA) Bundoora Victoria Australia)、Adnan Riaz(Agriculture Science and Technology, AgriBio, Centre for AgriBioscience, Department of Energy Environment & Climate Action (DEECA) Bundoora Victoria Australia)、Audrey Delahunty(Agriculture Science and Technology DEECA Irymple Victoria Australia)、Joe Panozzo(School of Agriculture, Food and Ecosystem Sciences, Faculty of Science The University of Melbourne Parkville Victoria Australia)、Garry Rosewarne(Agriculture Science and Technology, DEECA Horsham Victoria Australia)、Hafiz Ansar Rasul Suleria(School of Agriculture, Food and Ecosystem Sciences, Faculty of Science The University of Melbourne Parkville Victoria Australia)、Ashley J. Wallace(Agriculture Science and Technology, DEECA Horsham Victoria Australia)、Sukhjiwan Kaur(Agriculture Science and Technology, AgriBio, Centre for AgriBioscience, Department of Energy Environment & Climate Action (DEECA) Bundoora Victoria Australia)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Minhao Li, Adnan Riaz, Audrey Delahunty, et al. Effect of Acute Heat Stress During Pod Filling on Seed Quality Traits in Lentil ( Lens culinaris Medikus). Legume Science 2026-09-01. DOI: 10.1002/leg3.70151. 原著ライセンス:CC BY.