日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。

掲載誌:Food Science & Nutrition

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

がん治療中や妊娠中など、食べ物の好みが急に変わる時期には、においの強い料理だけでなく、ふだんは香りも味も穏やかとされる白いご飯さえ受けつけられなくなり、食欲が落ちることがあります。研究チームは、白米が多くの国で主食であるにもかかわらず、そのにおいを改善する方法はあまり検討されてこなかったと指摘しています。

炊飯時の湯気に含まれる硫黄を含んだ成分が、ご飯の不快なにおいに関わっていると考えられてきました。硫黄を含む揮発性の成分(においとして空気中に漂う成分)は、ごく薄い濃度でも不快感を引き起こすことが知られています。一方で、ポリフェノールを多く含む食品には、こうした硫黄系のにおいを抑える働きが報告されています。

そこで著者らは、ポリフェノールが豊富で独特の香りをもつ薬味であるシソ(青じそ)に注目しました。玉ねぎを加えて硫黄系のにおいを強めたご飯のモデルを用意し、そこにシソを加えると、においの感じ方(快・不快)や気分がどう変わるのかを調べることを目的としています。論文はこれを、健康な成人を対象にした予備的な検討と位置づけています。

何をどう調べたか

参加者は、大学などを通じて募集された18歳以上の健康な女性41人です。鼻づまりがないこと、白米・玉ねぎ・シソにアレルギーがないことが条件で、新型コロナウイルス感染後に嗅覚障害がある人は対象から外されました。

試料は炊きたての白米に、すりつぶした生の玉ねぎを混ぜた「玉ねぎ条件」と、そこに細かく刻んだシソの葉を加えた「玉ねぎ+シソ条件」の二つです。玉ねぎは、加熱による硫黄成分の分解を避けるため生のまま使われました。著者らは、玉ねぎの香りはご飯本来のにおいをそのまま再現するものではなく、あくまで硫黄系のにおいを感じ取れる形で与えるための実験モデルだと明記しています。

参加者は炊飯器から立ちのぼる湯気を直接かぎ、そのにおいについて二つのことを答えました。一つは、左端を「不快」、右端を「快い」とした10センチの線上に印をつけて快さの程度を示す方法(VAS)、もう一つは、前向きな気分と否定的な気分の強さを項目ごとに答える質問紙(PANAS)です。PANASは、においをかぐ前の状態も含めて測られました。あわせて、人の嗅覚を模してにおいの全体的なパターンや強さを数値化する装置でも試料が測定されています。この装置は個々の化学成分を特定するものではありません。

報告された主な結果

においの快さを表すVASの中央値は、玉ねぎだけの条件で4.1、シソを加えた条件で6.1でした。著者らは、シソを加えることで快さが統計的に意味のある差をもって改善したと報告しています。

一方、装置で測ったにおいの強さの指標は、シソを加えるとわずかに下がる傾向がみられた程度でした。測定回数が限られ、測定日によるばらつきもあったため、統計的な検定は行われていません。においのパターンを示すグラフでも、玉ねぎのみとシソ入りとのあいだに目立った質的な違いは認められませんでした。著者らは、測定されるにおいの強さの変化が小さくても、感じられる快さは変わりうると述べ、その背景として、期待や気分といった認知的・生理的な要因が主観的な快さに影響する可能性を挙げています。

気分については、においをかぐ前と比べて、玉ねぎ条件では前向きな気分の合計点や「活動的」「決意した」といった項目が下がり、「神経質な」「おびえた」といった項目が上がりました。ただし、玉ねぎ条件とシソを加えた条件のあいだでは、気分に関するどの項目にも統計的な差は認められませんでした。つまり、においの快さの評価は改善した一方で、PANASで測られる全般的な気分の変化としては捉えられなかったという結果です。

この研究が示すこと

著者らは、シソの添加が食べる前の段階でにおいの快さを高める可能性を示した、と結論づけています。同時に、この研究にはいくつもの制約があることも自ら挙げています。においの成分そのものを化学的に分析していないため、シソが硫黄成分を実際に変化させたのか、それとも感じ方の側に働いたのかは分かっていません。また、においをかぐ順番が固定されていたこと、シソの量を一種類しか試していないこと、参加者が健康な日本人女性に限られることから、嗅覚が敏感になっている患者や妊娠中の人にそのまま当てはめることはできないとしています。

身近な薬味ひとつで、においの「強さ」はほとんど変わらなくても「感じ方」は動きうる——この研究が投げかけているのは、食べ物のにおいをめぐる主観と測定値のあいだにある隔たりへの問いかけでもあります。

著者:Maaya Toma(Graduate School of Biomedical and Health Sciences Hiroshima University Hiroshima Japan)、Kojiro Ishinaga(Department of Nutrition and Health Promotion Hiroshima Jogakuin University Hiroshima Japan)、Kazuya Saita(Graduate School of Biomedical and Health Sciences Hiroshima University Hiroshima Japan)、Fumiko Kaneko(Graduate School of Biomedical and Health Sciences Hiroshima University Hiroshima Japan)、Hitoshi Okamura(Graduate School of Biomedical and Health Sciences Hiroshima University Hiroshima Japan)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Maaya Toma, Kojiro Ishinaga, Kazuya Saita, et al. Shiso ( Perilla frutescens var. crispa ) Increases Subjective Pleasantness of Steamed Rice With an Enhanced Sulfur‐Odor. Food Science & Nutrition 2026-09-01. DOI: 10.1002/fsn3.72351. 原著ライセンス:CC BY.