この研究は、マレーシア、アメリカの研究機関の研究論文です。

掲載誌:PLoS ONE

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

子どもの体重は、実は親の体重と関係している——そんな話を耳にしたことがある方もいるかもしれません。しかし、その背景には単純な「遺伝」だけでなく、暮らしている環境や家庭の事情など、さまざまな要因が絡み合っていると考えられています。特に経済的な余裕が少ない世帯では、過体重や肥満が親から子へと受け継がれやすく、家計の負担も増しやすいことが公衆衛生上の課題として注目されています。今回紹介するのは、マレーシアの低所得世帯を対象に、母親と子どもの体重の世代間のつながりを、統計データとインタビューの両面から調べた研究です。

研究でわかったこと

この研究では、2つの異なる方法を組み合わせる「収斂的混合研究法」というアプローチが取られました。1つは量的データの分析で、マレーシア国民健康・疾病調査(2006年、2011年、2015年)から得られた低所得世帯の母子ペアのデータが使われています。対象となったのは2006年に2,057組、2011年に994組、2015年に952組の母子ペアで、それぞれの体格指数(BMI)に基づいて分類されました。母親も子どもも過体重・肥満に分類されるペア(論文中では「OWM/OWC」と表記)に関連する要因が、多重ロジスティック回帰という統計手法で分析されています。

その結果、母親の年齢が41〜50歳の場合(2006年データ)や50歳以上の場合(2006年・2015年データ)に、母子ともに過体重・肥満となるリスクが高い傾向が示されました。また子どもの年齢が10〜14歳であることも、複数年のデータでリスク上昇と関連していたとされています。一方で、中華系や「その他の民族」に分類される世帯、また世帯人数が多い家庭(2015年データ)では、こうした世代間の過体重・肥満との関連がむしろ低い傾向が見られたと報告されています。

もう1つの柱は質的研究で、27名の母親を対象とした詳細なインタビューが行われ、内容は「テーマ分析」という手法で整理されました。その結果、過体重・肥満に関わる要因として4つの大きなテーマが浮かび上がったとされています。(1)本人に関わる要因(知識や生活スキルなど個人的な背景)、(2)親子関係などの社会的な環境、(3)自宅や周辺の環境といった物理的な環境、(4)食品価格やメディアの影響といったより大きな社会・経済的環境、の4つです。量的データと質的インタビューの結果は、最後に「ナラティブ・アプローチ」という手法で統合的に解釈されています。

これらを踏まえて研究チームは、低所得世帯における母子の世代間の過体重・肥満は、個人・社会・物理的環境・マクロレベルの環境が互いに絡み合って影響している可能性を示唆しています。そのうえで、個人の行動だけに着目するのではなく、より広い環境要因や社会経済的な制約にも目を向けた、複数のレベルにまたがる対策の重要性を指摘しています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

今回の研究は、マレーシアの低所得世帯という特定の集団を対象にしたものであり、得られた関連性がそのまま他の国や地域、あるいは異なる所得層にも当てはまるとは限りません。また、量的データは横断的な全国調査を複数年分組み合わせたものであり、原因と結果の関係を直接示すものではない点にも留意が必要です。あくまで一つの研究であり、これによって世代間の肥満に関する結論が確定したわけではありません。

まとめ

この研究は、マレーシアの低所得世帯を対象に、母親と子どもの過体重・肥満がどのようにつながっているのかを、統計データと母親自身の声の両方から浮かび上がらせようとした試みです。母親や子どもの年齢、民族、世帯規模といった要因に加え、個人の考え方や親子関係、住環境、さらには食品価格やメディアといった社会的な背景までもが複雑に関係している可能性が示されました。体重の問題を個人の努力だけの問題として捉えるのではなく、家庭を取り巻く環境全体から考えるヒントを与えてくれる研究といえそうです。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。出典(原著論文):肥満の母親、肥満の子ども:マレーシアの低所得世帯における世代間肥満の収斂的混合研究法研究(プロス・ワン・2026年08月)

著者:Nur Nadia Mohamed(Dietetics Programme, School of Health Sciences, Universiti Sains Malaysia, Kubang Kerian, Kelantan, Malaysia)、A.J. Rohana(Department of Community Medicine, School of Medical Sciences, Universiti Sains Malaysia, Kubang Kerian, Kelantan, Malaysia)、Noor Aman A Hamid(Department of Community Medicine, School of Medical Sciences, Universiti Sains Malaysia, Kubang Kerian, Kelantan, Malaysia)、Frank B Hu(Department of Nutrition, Harvard T.H. Chan, School of Public Health, Boston, Massachusetts, United States of America)、Vasanti Malik(Department of Nutrition, Harvard T.H. Chan, School of Public Health, Boston, Massachusetts, United States of America)、Muhammad Fadhli Mohd Yusoff(Institute for Public Health, Ministry of Health Malaysia, Shah Alam, Selangor, Malaysia)