十分な食事がとれるかどうかは、大人が思う以上に子どもや若者の毎日の気分や体調に直結します。ドイツでは低所得世帯に対して公的な補助(ビュルガーゲルトなどの給付制度)が用意されていますが、その額が実際の食費をまかなうには不十分だという指摘は以前からありました。ただし、こうした状況を大人ではなく当事者である若者自身がどう感じ、どう工夫して乗り越えているのかについては、これまであまり調べられてきませんでした。ベルリンのシャリテー大学病院の研究グループは、低所得世帯で暮らす14〜17歳の若者たちに直接話を聞く「E-Kids」という探索的研究を行い、その結果を専門誌に報告しました。
どんな方法で調べたのか
研究チームは2023年5月から2024年7月にかけて、ベルリン市内の小児科診療所130か所や中学・高校、青少年センター10か所、地域センター4か所、フードバンク3か所、行政窓口2か所などを通じて参加者を募りました。対象は、保護者の少なくとも一人が所得に基づく公的給付を受けている世帯の14〜17歳です。最終的に29件の家族と接触し、8人が参加に同意、うち6人(女性5人、男性1人)が第一段階の調査を完了しました。第一段階では、若者自身がスマートフォンで1〜3日分の食事を撮影する「フォトボイス」、17〜58分の半構造化インタビュー、健康・栄養・自己効力感に関する質問紙への回答が行われました。
希望者はさらに、3日間の食事日記や家族の家計管理に関するアンケート、実際の食事場面や買い物への同行観察からなる第二段階に進むことができましたが、すべての項目を完了できたのは6人中1人のみでした。研究チームは若者の募集自体が非常に難しかったと述べており、これを補うために青少年センターの職員など3人の「若者支援の専門家」にもインタビューを実施し、現場の視点を加えています。
浮かび上がった若者たちの食の姿
参加した6家族の週あたりの食費は中央値150ユーロ(125〜200ユーロの範囲)で、世帯人数は3〜7人、5家族中5家族が移住背景を持つことが語られました。多くの若者が自分自身の健康や栄養を「重要」と評価していた一方で、実際の食生活は場面によって大きく異なる姿が見えてきました。
インタビューから浮かび上がったのは、大きく分けて「家庭内で食べる場面」と「家庭の外で食べる場面」という二つの対照的な設定です。家庭内では、食事の準備や献立、買い物のタイミングは主に母親が担い、宗教や習慣、家庭内のルーティンに沿って進められ、若者たちはおおむねそれを受け入れて過ごしていました。実際の買い物への同行観察やお金についての語りからは、若者自身が家計の状況をよく理解し、意識していることもうかがえました。
一方、学校では栄養面でも価格面でも満足のいく食べ物を見つけにくいと若者たちは感じており、学校が「健康的で手頃な食を得られる環境」とは見なされていませんでした。友人や同級生、SNS上の流行は、何をどこで食べるかという選択に影響を与えており、若者たちはこうした学校や友人関係の中で、自分の食べたいものを手に入れるための工夫や戦略を独自に編み出していました。研究チームは、こうした工夫が若者の自律性の育ちの一部になっているとみています。
この研究には日本の研究機関や日本の食に関する言及は含まれておらず、対象はあくまでドイツ・ベルリンの若者と家族に限られます。
この研究をどう受け止めるか
著者らも認めているとおり、この研究は参加人数が非常に少なく(第一段階を完了した若者は6人、すべての段階を終えたのはわずか1人)、募集そのものが難航したことが率直に述べられています。そのため、ここで語られた内容はベルリンの低所得世帯の若者全体を代表するものではなく、あくまで限られた事例から得られた探索的な知見として位置づけられています。統計的な一般化を目的とした研究ではなく、量的データも記述的な整理にとどめられ、若者や専門家の語りを丁寧に読み解くことに主眼が置かれています。
それでも、家庭内では親の判断が食を支える一方、学校や友人関係の中では若者自身が限られた資源の中で選択と工夫を重ねているという構図は、栄養支援や学校での食環境づくりを考えるうえで示唆に富む観察といえそうです。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Sarah B. Blakeslee, Anne Schirmaier, Lara Steyer, et al. Perspectives of adolescents from low-income households in Berlin—nutrition described by food affordability, household routines and autonomy: results from an exploratory qualitatively-driven mixed-methods study of cases. フロンティアーズ・イン・パブリック・ヘルス (2026). DOI: 10.3389/fpubh.2026.1791106.