著者の所属・活動拠点の国は、マレーシアです。
掲載誌:Indonesian Journal of Chemistry
ライセンス: CC BY-NC-ND 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
納豆やヨーグルトのように、微生物の働きを利用してつくる発酵食品は世界中で親しまれていますが、動物性の原料を使う発酵食品では「本当に豚などハラール(イスラム法で許容される)ではない原料が混入していないか」という認証の問題と、「発酵の過程で健康に影響しうる成分が生まれていないか」という安全性の問題が、同時に問われます。マレーシアの研究チームが、動物性原料を使った現地の発酵食品を対象に、複数の分析手法を組み合わせてこの二つの課題を調べた研究を報告しています。
ヒスタミンの量を測る
研究チームはまず、HPLC-DAD(高速液体クロマトグラフィーとダイオードアレイ検出器を組み合わせた分析装置)を使い、サンプル中のヒスタミン濃度を定量しました。ヒスタミンは魚介類や発酵食品などで、微生物の働きにより特定のアミノ酸から生成されうる物質で、多量に摂取すると頭痛や動悸などの症状(ヒスタミン中毒)を引き起こす可能性があるとされる成分です。分析の結果、サンプルのヒスタミン濃度は44.2〜570.3mg/kgの範囲に分布し、全体の47%がコーデックス委員会(国際的な食品規格を定める機関)が定める上限の100mg/kgを超えていたことが報告されています。著者らは、この結果が化学的な安全性の観点で懸念材料になりうると述べています。
赤外線スペクトルで原料の由来を見分ける
次に、FTIR-ATR分光法(赤外線を試料に当て、吸収されるパターンから分子構造の特徴を読み取る手法)によって、サンプルの脂質成分のスペクトル(分子の「指紋」に例えられる特徴的な吸収パターン)を調べました。この分析により、発酵によって脂質がどのように変化したかを捉えるとともに、動物由来・植物由来・発酵食品それぞれの脂質が異なる分子的な特徴を示すことが確認され、ハラール認証済みの製品と、比較対象として用いたハラールではないラード(豚脂)のサンプルとを区別できたと報告されています。
さらに、得られたスペクトルデータについて、1500〜650cm⁻¹という波数域(分子の種類ごとの特徴が現れやすいとされる「フィンガープリント領域」)に注目し、主成分分析(PCA)およびOPLS-DA(直交部分最小二乗判別分析)というケモメトリクス(統計・多変量解析を使ってスペクトルなどの複雑なデータからパターンを抽出する手法)の手法で解析しました。その結果、サンプルを明確に分類できただけでなく、ハラールでない脂質による混入(アダルタレーション)が認められなかったことも確認されたとしています。
微生物検査による衛生面の確認
あわせて、微生物学的な検査も行われました。一般生菌数(総菌数)は規制上許容される範囲内にとどまり、大腸菌(Escherichia coli)は検出されず、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)についても管理された水準にあったことが報告されており、著者らはこれらを衛生状態が満足できる水準にあることを示すものとしています。
この研究の位置づけ
この研究は、化学分析・分光法・微生物検査・ケモメトリクスという複数の手法を組み合わせることで、動物性発酵食品のハラール認証と品質管理を同時に検証できる枠組みを示したものです。著者らは、こうした複合的な手法が規制当局による監督の強化や食品の不正混入の防止、消費者保護に役立つ可能性があると述べています。一方で、ヒスタミン濃度がサンプルの半数近くで基準値を超えていたという結果は、ハラールという宗教的な適合性の確認と、食品としての化学的安全性の確認が必ずしも同じ結論に至るとは限らないことを示しています。この研究で扱われたサンプルの具体的な種類や数、産地の詳細については要旨・本文からは限定的にしか読み取れず、あくまで一つの研究として結果を捉える必要があります。
まとめ
この研究は、マレーシアの動物性発酵食品を対象に、HPLC-DADによるヒスタミン定量、FTIR-ATR分光法とケモメトリクスによる脂質由来の識別、微生物検査を組み合わせて、ハラール認証と食品安全の両面を評価したものです。分光学的な手法によりハラールでない脂質の混入は認められなかった一方、ヒスタミン濃度が国際基準を超えるサンプルが一定数あったことが示されており、著者らはこれを今後の規制や品質管理の強化につなげるべき知見として位置づけています。
著者:Muhammad Zulhelmi Nazri(Innovation Center in Agritechnology for Advanced Bioprocessing (ICA), Universiti Teknologi Malaysia (UTM), Jl. Eduhub Tinggi, Pagoh 84600, Malaysia; Malaysia-Japan International Institute of Technology (MJIIT), Universiti Teknologi Malaysia (UTM), Jl. Sultan Yahya Petra, Kuala Lumpur 54100, Malaysia)、Siti Nor Azlina Abd Rashid(Innovation Center in Agritechnology for Advanced Bioprocessing (ICA), Universiti Teknologi Malaysia (UTM), Jl. Eduhub Tinggi, Pagoh 84600, Malaysia)、Nur Fashya Musa(Innovation Center in Agritechnology for Advanced Bioprocessing (ICA), Universiti Teknologi Malaysia (UTM), Jl. Eduhub Tinggi, Pagoh 84600, Malaysia; Malaysia-Japan International Institute of Technology (MJIIT), Universiti Teknologi Malaysia (UTM), Jl. Sultan Yahya Petra, Kuala Lumpur 54100, Malaysia)、Abdul Rahman Jabir Mohd Din(Innovation Center in Agritechnology for Advanced Bioprocessing (ICA), Universiti Teknologi Malaysia (UTM), Jl. Eduhub Tinggi, Pagoh 84600, Malaysia)、Rozaliana Ab Karim(Innovation Center in Agritechnology for Advanced Bioprocessing (ICA), Universiti Teknologi Malaysia (UTM), Jl. Eduhub Tinggi, Pagoh 84600, Malaysia)、Hajar Aminah A. Karim(Innovation Center in Agritechnology for Advanced Bioprocessing (ICA), Universiti Teknologi Malaysia (UTM), Jl. Eduhub Tinggi, Pagoh 84600, Malaysia)、Salimah Ab Malik(Innovation Center in Agritechnology for Advanced Bioprocessing (ICA), Universiti Teknologi Malaysia (UTM), Jl. Eduhub Tinggi, Pagoh 84600, Malaysia)、Muhamad Shirwan Abdullah Sani(International Institute for Halal Research and Training (INHART), Level 3, KICT Building, International Islamic University Malaysia (IIUM), Jl. Gombak, Selangor 53100, Malaysia)、Hesham Ali El-Enshasy(Innovation Center in Agritechnology for Advanced Bioprocessing (ICA), Universiti Teknologi Malaysia (UTM), Jl. Eduhub Tinggi, Pagoh 84600, Malaysia)、Dayang Norulfairuz Abang Zaidel(Innovation Center in Agritechnology for Advanced Bioprocessing (ICA), Universiti Teknologi Malaysia (UTM), Jl. Eduhub Tinggi, Pagoh 84600, Malaysia; Malaysia-Japan International Institute of Technology (MJIIT), Universiti Teknologi Malaysia (UTM), Jl. Sultan Yahya Petra, Kuala Lumpur 54100, Malaysia)
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Muhammad Zulhelmi Nazri, Siti Nor Azlina Abd Rashid, Nur Fashya Musa, et al. Quantitative and Qualitative Halal Authentication Analysis of Malaysian Animal-Based Fermented Food Products Using HPLC-DAD, FTIR-ATR Spectroscopy and Chemometric Approaches. インドネシアン・ジャーナル・オブ・ケミストリー (2026). DOI: 10.22146/ijc.114765.