この研究は、ヨルダン、クウェート、カタール、サウジアラビア、マレーシア、カナダの研究機関の研究論文です。
掲載誌:European Food Research and Technology
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
レンズマメから取り出したたんぱく質(レンズマメたんぱく質)は、水に溶けにくく、加熱に弱く、泡立ちにくいといった課題があると報告されてきました。論文の著者らは、その原因として、たんぱく質が丸く固く縮まった構造をとりやすく、粒子同士が集まって塊(凝集体)になりやすいこと、またポリフェノールやフィチン酸といった成分が水や界面との相互作用を妨げることを挙げています。
こうした性質を改善する方法として、たんぱく質と多糖類(糖が長くつながった成分)を結び付けて複合体をつくる手法が注目されてきました。研究チームは、増粘や安定化の目的で食品に広く使われるキサンタンガムを相手に選びました。キサンタンガムは強く負に帯電した多糖類で、たんぱく質表面の正に帯電した部分と静電気的に引き合うことができます。
本研究の目的は、加熱を使わない二つの処理、すなわちpHシフト(いったん強いアルカリ性にしてから中性に戻す操作)と超音波処理(ソニケーション)を組み合わせて、レンズマメたんぱく質とキサンタンガムの複合体を新たにつくり、その機能的な性質を高められるかを調べることでした。著者らは、pHシフトによる構造変化と超音波処理を組み合わせてこの複合体をつくった研究は本論文が最初であると述べています。
何をどう調べたか
著者らはヨルダンのイルビド地域で入手した緑レンズマメを粉砕し、アルカリ性の水に溶かして上澄みを回収したのち、酸を加えてたんぱく質を沈殿させ、凍結乾燥してレンズマメたんぱく質を得ました。
次に、1%濃度のたんぱく質分散液にキサンタンガムを0.01%、0.025%、0.05%、0.1%の四段階で加え、pHを11に上げて1時間保ったうえで7.0に戻し、60kHzで10分間、21℃の条件で超音波処理を行いました。これらの試料はキサンタンガム濃度の低い順にLP-XG-1からLP-XG-4と名付けられています。比較用の対照試料は、同じたんぱく質とキサンタンガムを混ぜただけで、pHシフトも超音波処理も行っていないものです。
評価項目としては、水への溶けやすさ(溶解性)、消化酵素で分解される割合を試験管内で測る「in vitro たんぱく質消化性」、たんぱく質表面の疎水性(水をはじく性質)の度合い、表面電荷(ゼータ電位)、粒子の大きさ、そして示差走査熱量測定による熱に対する安定性が測られました。さらに、赤外分光法によるたんぱく質の二次構造の割合、蛍光分光法およびUV-可視分光法による構造変化の観察も行われています。データは分散分析で比較され、有意水準はP<0.05とされました。
主な報告結果
水への溶解性は、対照の約52.5%に対し、キサンタンガム濃度を上げた処理試料で段階的に高まり、最も濃度の高いLP-XG-4では61.1%に達したと報告されています。ただし低濃度のLP-XG-1とLP-XG-2では対照との差は統計的に有意ではなく、有意な向上が認められたのはLP-XG-3とLP-XG-4でした。
試験管内でのたんぱく質消化性も、対照の64.26%からLP-XG-4の71.60%へと、キサンタンガム濃度に応じて上昇しました。著者らはこれを、pHシフトと超音波処理によってたんぱく質の構造がゆるみ、酵素が働きかけられる部位が露出したためと説明しています。なお、これは実験室での酵素処理による測定値であり、人体での栄養効果を示したものではありません。
熱に対する安定性の指標である変性温度は、対照の105.1℃からLP-XG-4の108.6℃へと上昇しました。また粒子の大きさは対照の1,474ナノメートルからLP-XG-4の1,050ナノメートルまで小さくなり、凝集が抑えられて細かく分散したことが示されました。表面電荷は-21.53ミリボルトから-26.97ミリボルトへと負の側に大きくなり、負に帯電したキサンタンガムがたんぱく質と結び付いたことの裏付けとされています。一方、表面疎水性は834から478へと低下しました。
構造面では、赤外分光の結果からα-ヘリックスとβ-ターンの割合が有意に減り、決まった形をとらないランダムコイルの割合が14.66%から16.85%へ有意に増えたと報告されています。β-シートについては増加の傾向はあるものの、統計的に有意な差はありませんでした。蛍光分光では、たんぱく質中のトリプトファンに由来する蛍光の強さが複合体で弱まり、著者らはこれを、両者が単に混ざっているのではなく安定した複合体を形成している証拠と解釈しています。
著者らは最も高いキサンタンガム濃度(0.1%)について、溶解性も消化性も向上は続くものの伸びが緩やかになる点に触れ、これ以上加えても効果が頭打ちになる飽和点に近づいている可能性を指摘しています。
この研究が示すこと
この研究は、加熱を伴わないpHシフトと超音波処理という二つの操作を組み合わせることで、レンズマメたんぱく質とキサンタンガムの複合体の構造を変え、溶解性・消化性・熱安定性といった性質を高められることを、一連の測定値によって示したものです。
豆類のたんぱく質は、その使いにくさが加工上の制約になってきました。加熱に頼らない方法で構造を組み替えられることが示されたという点は、たんぱく質素材の扱い方を考えるうえで一つの手がかりになります。著者らは、こうした複合体が食品開発への応用につながる可能性を示唆すると述べています。
著者:Mohammad Alrosan(Department of Food Science and Nutrition, Faculty of Agriculture, Jerash University, Jerash, Jordan)、Mai Subhi Khanfar(Department of Pharmaceutical Technology, Faculty of Pharmacy, Jordan University of Science and Technology, Irbid, Jordan)、Sofyan Maghaydah(Department of Nutrition and Food Technology, Faculty of Agriculture, Jordan University of Science and Technology, Irbid, Jordan)、Amani Qawasmeh(Department of Nutrition and Food Technology, Faculty of Agriculture, Jordan University of Science and Technology, Irbid, Jordan)、Muhammad H. Alu’datt(Department of Food Science & Nutrition, College of Life Sciences, Kuwait University, P.O. Box. 5969, Safat, Kuwait)、Hiba Bawadi(QU Health, College of Health Sciences, Qatar University, P.O. Box 2713, Doha, Qatar)、Ali Madi Almajwal(Department of Community Health Sciences, College of Applied Medical Sciences, King Saud University, P.O. Box 10219, 11433, Riyadh, Saudi Arabia)、Thuan‐Chew Tan(Food Technology Division, School of Industrial Technology, Universiti Sains Malaysia, 11800 USM, Penang, Malaysia)、Farah Al Qudsi(Department of Food Science, University of Guelph, Guelph, ON, N1G 2W1, Canada)、Eng‐Keng Seow(Food Science Research Group, Faculty of Applied Sciences, Universiti Teknologi MARA, 40450 Shah Alam, Selangor, Malaysia)、Ayman S. Mazahreh(Department of Social and Applied Sciences, Princess Alia University College, Al-Balqa Applied University, Amman, Jordan)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Mohammad Alrosan, Mai Subhi Khanfar, Sofyan Maghaydah, et al. Synergistic effects of pH-shifting and sonication on lentil protein–xanthan gum complex formation. European Food Research and Technology 2026-09-19. DOI: 10.1007/s00217-026-05281-8. 原著ライセンス:CC BY.