掲載誌:Legume Research - An International Journal

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

インド北西ヒマラヤ地域には、土地ごとの環境に適応した作物の在来品種が数多く残っています。ウッタラーカンド州では、種皮が黒いレンズマメが何世代にもわたって栽培されてきました。地域の人々はその適応力や独特の風味を評価しており、一般的な茶色のレンズマメより農家の収入も高いとされています。

一方で、研究チームによると、こうした在来の黒色レンズマメは系統的な品種改良にほとんど使われていません。山地でどのような性質を示し、系統間にどれだけ違いがあるのかという情報も限られていました。

また、レンズマメでは、土壌中のカビ(フザリウム菌の一種)が引き起こす萎凋病(いちょうびょう)が深刻な病害です。萎凋病は株がしおれて枯れる病気で、ヒマラヤ地域でも大きな減収の原因になっています。

そこで著者らは二つの目的を立てました。一つは、在来の黒色レンズマメの系統間で、草丈や収量などの農業上の性質にどれほどばらつきがあるかを調べることです。もう一つは、成績が良く、萎凋病にも強い有望な系統を見つけ出すことです。

何をどう調べたか

研究チームは、ウッタラーカンドのさまざまな標高の地域から集めた在来の黒色レンズマメ70系統を試験に用いました。これに比較用の既存品種3つを加えた計73系統を、2022〜23年と2023〜24年の冬作期に栽培しました。試験地はアルモラにある研究所の圃場(標高約1250メートル)で、灌漑をせず雨水に頼る中山間地の条件です。

試験では、多数の系統を比較しやすい「増強ブロック計画」という配置を採りました。これは、比較用品種だけを各区画に繰り返し植え、それを基準に多くの系統を比べる方法です。

調べた性質は二種類です。開花までの日数、成熟までの日数、草丈、枝の数、1株あたりのさや数、種子の重さ、子実収量など8つは数値で測りました。初期の生育の勢い、茎やさやの色づき、草姿、花の色、倒れにくさなど11項目は観察で分類しました。2年分のデータは、多くの性質の関係をまとめて見る主成分分析、似た系統同士をグループ分けするクラスター分析、性質同士の相関分析などで解析しました。

萎凋病への強さは二段階で調べました。1年目は、普通の畑で自然に発生する病気の程度を記録しました。2年目は、そこで有望とされた34系統を、再び畑で調べるとともに、「シックプロット」と呼ばれる病原菌の多い試験圃場でも調べました。シックプロットでは、病気にかかりやすい品種を周囲や系統の間に植えて病原菌を増やし、高く均一な病害圧をかけています。発病の程度は段階評価で判定し、各系統を「高度抵抗性」から「感受性」までの5段階に分類しました。

主な結果

観察による分類では、多くの系統に共通する特徴がありました。初期の生育の勢いが良いこと、芽生えやさやに色素による色づきがあること、まっすぐ立つ草姿、小さな小葉、紫色の花、目立たない巻きひげ、中程度の茎葉量、倒れにくさなどです。著者らはこれらを、ヒマラヤの栽培環境への自然な適応を示すものと解釈しています。

数値で測った性質の範囲も広く、次のようなばらつきが報告されています。開花までは87〜98日、成熟までは142〜151日、草丈は21〜36センチ、1株あたりのさや数は25〜74個、100粒の重さは1.49〜2.46グラムでした。子実収量は1平方メートルあたり18.12〜142.03グラムで、系統によって大きく異なりました。統計解析では、さやの長さと100粒重を除くすべての性質で、系統間に有意な差が認められました。

主成分分析では、最初の二つの成分で全体のばらつきの60.12%が説明されました。クラスター分析では、73系統が二つのグループに分かれました。28系統からなるグループは、草丈が高く、さや数や枝数が多く、収量が高く、萎凋病にも強い傾向がありました。45系統からなるもう一方のグループは、系統間の違いがより大きいことが示されました。

相関分析では、子実収量が多い系統ほど、草丈が高く、枝やさやが多く、成熟までの期間が長い傾向がありました。著者らは、これらの性質が雨水頼みの山地で多収の系統を選ぶ目安になると述べています。

萎凋病については、1年目の自然条件の畑で次のような結果になりました。高度抵抗性が6系統、抵抗性が19系統、中程度の抵抗性が20系統、やや感受性が7系統、感受性が21系統でした。発病率は、強い系統で1%未満、弱い系統で50%超と大きな幅がありました。2年目に絞り込んだ34系統では、高度抵抗性と判定された系統はありませんでした。5系統が抵抗性、24系統が中程度の抵抗性、5系統が感受性でした。

2年間を通じて安定した反応を示したのは4系統で、VM2、VM5、VM8、VM17が萎凋病に対して有望と判断されました。なかでもVM17は発病率が6.9%と最も低く、収量も高く、さや数や枝数も優れていました。

研究が示すこと

この研究は、ウッタラーカンド・ヒマラヤの在来の黒色レンズマメに、農業上の性質の大きな多様性があることを、2年間の栽培試験で示しました。小粒であること、初期生育の良さ、色素による色づき、倒れにくさなど、肥料や水の乏しい山地に合った特徴を備えていることも明らかになりました。

さらに、萎凋病への強さと高い収量を兼ね備えた系統が見つかりました。著者らは、これらの系統を今後さらに検証したうえで、病気に強い品種を作るための交配親として活用できる可能性があるとしています。これまで十分に調べられてこなかった地域の在来作物が、品種改良の素材として科学的な評価の対象になったといえます。

原著論文の著者・所属:Anuradha Bhartiya、J.P. Aditya、Gaurav Verma、Hemlata Joshi、R.S. Pal、Nirmal Hedau、L. Kant

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Anuradha Bhartiya, J.P. Aditya, Gaurav Verma, et al. Evaluation of Indigenous Black Lentil (Lens culinaris Medik.) from Uttarakhand Himalayas for Agro-morphological Traits and Resistance to Fusarium Wilt (Fusarium oxysporum f. sp. lentis) under Field and Sick-plot Conditions. Legume Research - An International Journal 2026-10-16. DOI: 10.18805/lr-5638. 原著ライセンス:CC BY.