著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Foods (Basel, Switzerland)
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC
研究の目的
グルテンは小麦粉からでんぷんや水に溶ける成分を除いて得られるたんぱく質の集まりで、パンや麺の生地に粘りと弾力を与えます。安価で大量に手に入る植物たんぱく質ですが、水に溶けにくく熱に対する安定性も高くないため、用途を広げるには性質を改変する技術が求められています。
その手段の一つが超音波処理です。液体中に超音波を当てると、微小な気泡が生じて崩壊する「キャビテーション」が起こり、強い力や局所的な熱が生まれます。これまでにも生地や冷凍生地での研究はありましたが、そうした系では他の成分の影響を切り分けにくく、加熱中に超音波の強さがグルテンそのものにどう作用するかはよく分かっていませんでした。
そこで研究チームは、主にグルテンからなる単純なモデル系を用い、超音波の強さと加熱温度を組み合わせたときに、グルテンの物理化学的な性質や分子どうしをつなぐ力がどう変わるかを調べました。
何を調べたか
著者らは、グルテンを水に懸濁させた液を30℃、55℃、80℃のいずれかに保ち、周波数40キロヘルツの超音波を1リットルあたり60、90、120ワットの3段階の強さで30分間当てました。3つの温度は、グルテンのたんぱく質が熱で変性する前、部分的に変性した段階、ほぼ完全に変性した段階を想定したもので、生地のこね、発酵、焼成や蒸しの条件にも対応するとされています。比較対照として、超音波を当てずに同じ温度の水浴で処理した試料も用意しました。
処理後に回収したグルテンについて、たんぱく質とでんぷんの含有量、水の吸いやすさと溶けやすさ、粘弾性(弾性的なふるまいと粘性的なふるまいのバランス)、加熱時の分解のしやすさを測定しました。さらに、たんぱく質の結合に関わる遊離チオール基(SH基)の量、イオン結合・水素結合・疎水性相互作用といった分子間の力、赤外分光によるたんぱく質の二次構造(らせん状のαヘリックスやシート状のβシートなど)も分析しました。
主な結果
回収したグルテンのたんぱく質含有量は、温度が高いほど、また超音波が強いほど増え、でんぷん含有量は減りました。著者らは、超音波によってグルテンの網目構造がゆるみ、絡みついていたでんぷんなどが外れやすくなったためと考えています。水を吸う能力も温度と超音波の強さに応じて高まった一方、溶けやすさの指標は超音波処理によって対照より低下しました。
粘弾性の測定では、すべての試料が固体に近いふるまいを示しましたが、超音波処理、とくに90と120の強さで弾性・粘性の指標がともに低下しました。粘性と弾性の比は、30℃と55℃では超音波の強さに対していったん下がってから上がる変化を示しました。著者らは、これは加工品質の単純な向上ではなく、粘弾性のふるまいが変化したものとして解釈すべきだとしています。加熱分析では、30℃と55℃で超音波処理によって重量減少が増え分解温度が下がり、熱に対する安定性が低下したと報告されていますが、80℃ではこうした変化は明確ではありませんでした。
分子レベルでは、超音波処理によって遊離SH基が増え、30℃では対照に比べて60、90、120の強さでそれぞれ7.6%、13.4%、20.2%増加しました。一方、55℃から80℃に温度を上げるとSH基は減少し、著者らは高温でSH基どうしが結びつく結合(ジスルフィド結合)が形成されやすくなるためと考えています。ただし、SH基の量だけではジスルフィド結合を直接測れないことも論文は断っています。
水素結合は温度と超音波の強さが増すにつれて弱まり、30℃では対照に比べて15.2%、17.4%、23.5%低下しました。赤外分光でも、超音波による水素結合の弱まりは30℃で最もはっきり見られ、より高い温度では目立たなくなりました。疎水性相互作用は超音波が強いほど増し、30℃では17.2%、25.2%、33.6%の増加でした。イオン結合は、同じ温度では超音波の強さに対していったん強まってから弱まる傾向を示しました。二次構造では、温度上昇と超音波処理のいずれでもαヘリックスが減ってβシートが増え、その変化は超音波が強いほど顕著でした。
研究が示すこと
この研究は、他の成分の影響を除いた系で、超音波がグルテンの純度、水との関わり、粘弾性、熱安定性、分子間の力や構造を変えること、そしてその変化が処理中の温度と深く関係していることを示しました。とくに、たんぱく質がまだ熱で変性していない比較的低い温度で、超音波の影響がはっきり現れる点が特徴的です。
著者らは、超音波処理を小麦グルテンの性質を改変する手段の候補として位置づける一方、実際の生地のような複雑な食品の中でも同じ結果が得られるかは、今後確かめる必要があるとしています。
原著論文の著者・所属:Gu Z(School of Food and Biological Engineering, Bozhou University, Bozhou 236800, China.)、Dai J(School of Food and Biological Engineering, Bozhou University, Bozhou 236800, China.)、Ma Z(School of Food and Biological Engineering, Bozhou University, Bozhou 236800, China.)、Yao H(School of Food and Biological Engineering, Bozhou University, Bozhou 236800, China.)、Chen J(School of Food and Biological Engineering, Bozhou University, Bozhou 236800, China.)、Zheng R(School of Food and Biological Engineering, Bozhou University, Bozhou 236800, China.)、Xu X(School of Food and Biological Engineering, Bozhou University, Bozhou 236800, China.)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Gu Z, Dai J, Ma Z, et al. Impact of Ultrasound on the Physicochemical and Structural Properties of Gluten Protein During Controlled Thermal Treatment. Foods (Basel, Switzerland) 2026-10-19. DOI: 10.3390/foods15203725. 原著ライセンス:CC BY.