日本関連:この研究は海外機関を中心とする国際共同研究で、日本の研究機関に所属する共著者が参加しています。参加国はエジプト、日本、イラクです。

掲載誌:Journal of Macrofungi

ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: Crossref

キノコは古くから食用として親しまれてきましたが、近年では多糖類やテルペン類、フェノール化合物、フラボノイドなど、多様な生理活性化合物を含む食材としても注目されています。肥満は代謝異常や慢性炎症、糖尿病や心血管疾患のリスク上昇と関わる世界的な健康課題であり、副作用の少ない天然由来の対策への関心が高まっています。一方でアレルギーも生活の質に影響する免疫関連の疾患として世界的に増加しており、新しい予防・対処法が求められています。今回紹介する総説は、キノコ由来の生理活性化合物が肥満対策とアレルギー緩和にどのように役立ちうるかを、これまでの研究をまとめて概観したものです。著者にはエジプトの国立研究センター(National Research Centre)やイラクのアンバール大学に加え、日本の鳥取大学農学部に所属する研究者も名を連ねています。

キノコと肥満対策の研究

総説では、肥満に対するキノコの働きについて複数の研究が紹介されています。まず背景として、日本を含むアジアの食文化ではキノコが日常的に取り入れられてきたことが触れられており、日本のキノコ生産量は年間44万トンに達し、エノキタケ(Flammulina velutipes)が最も多く生産され、次いでブナシメジ(Hypsizygus marmoreus)、シイタケ(Lentinus edodes)、マイタケ(Grifola frondosa)、エリンギ(Pleurotus eryngii)が続くと紹介されています。これらのキノコには食物繊維や葉酸、ビタミンD・B1・B2・B6、ナイアシンなどが含まれ、免疫調整作用や抗腫瘍作用、抗動脈硬化作用、抗糖尿病作用、抗肥満作用が報告されていると述べられています。

具体的な研究例として、Ganoderma属のキノコに含まれるトリテルペノイドが脂肪細胞の分化(アディポジェネシス)を抑え、脂質の産生や蓄積を減らす作用が報告されているとされています。また、白色のマッシュルームであるAgaricus bisporus(アガリクス・ビスポラス)については、多糖類を豊富に含む抽出物がヒトを対象にした臨床試験で抗肥満効果を示したことが紹介されていますが、その正確な作用の仕組みはまだ解明されていないとされ、オートファジー(細胞内の自己分解の仕組み)やベータ酸化(脂肪酸を分解する仕組み)が関わる可能性が挙げられています。

さらに、Pleurotus citrinopileatusという食用キノコについては、高脂肪食で肥満にしたマウス(C57BL/6J系統)を対象に、この水抽出物を体重1kgあたり400mgまたは800mgの用量で12週間毎日投与した実験が紹介されています。その結果、体重増加や脂肪蓄積、食事摂取量が有意に減少し、血清中のコレステロール、中性脂肪、低密度リポタンパク質、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、非エステル型脂肪酸、クレアチニンが減少する一方、高密度リポタンパク質は増加し、耐糖能(血糖値を調整する能力)も改善したと報告されています。また、Auricularia heimuerというキノコの子実体アルコール抽出物についても、肥満マウスに体重1kgあたり150〜600mgの用量で投与した研究が紹介されており、600mgの用量では体重が有意に減少し、肝臓中の68種類の代謝物質に変化が見られ、高脂肪食で乱れていた代謝が正常なレベルに戻る傾向が確認されたとされています。

キノコとアレルギー緩和の研究

アレルギーに関しては、Agaricus subrufescens、Pleurotus ostreatus、Pleurotus pulmonarius、Flammulina velutipes、Ganoderma tsugae、Ganoderma lucidum、Tricholoma populinum、Phellinus linteus、Inonotus obliquus、Armillaria ostoyaeなど複数のキノコで抗アレルギー作用が確認されてきたと紹介されています。ただし、著者は多くの効果が細胞実験や動物実験の段階にとどまっており、作用の原因となる生理活性化合物がまだ特定されていないこと、また抗アレルギー作用が調べられたキノコの種類自体も限られていることを限界として挙げています。

具体的な実験として、Caco-2細胞(大腸がん由来の上皮細胞)とRBL-2H3細胞(ラット好塩基球性白血病細胞)を組み合わせた培養モデルを用い、キノコの子実体や菌糸体由来の粗多糖類がβ-ヘキソサミニダーゼという酵素の放出(肥満細胞の脱顆粒、つまりアレルギー反応の指標)をどの程度抑えるかを調べた研究が紹介されています。その結果、Inonotus obliquus由来の粗多糖類はこの酵素の放出を16%減少させる一方、Pleurotus ostreatusやLentinus squarrosulus由来の多糖類では有意な減少は見られなかったと報告されています。

また、ネパール産の野生キノコ90種のエタノール抽出物と、そこから単離された化合物ヒスピジンを対象に、同じくβ-ヘキソサミニダーゼの放出(BHR)を指標にした抗アレルギー作用の評価も紹介されています。HymenochaetalesやPolyporales目に属する種で有望な結果が見られ、Phellinus adamantinusとGanoderma lingzhiではBHRがそれぞれ19.4%、16.7%と低く抑えられ、細胞毒性も見られなかったとされています。さらに、Inonotus clemensiaeとP. adamantinusのIC50値(放出を50%抑えるのに必要な濃度)はそれぞれ51.24、50.65μg/mLであり、I. clemensiaeの主要な活性成分とされるヒスピジン単体のIC50は82.47μg/mLだったと報告されています。加えて、チャーガ(Inonotus obliquus)に含まれるイノトジオールという化合物が、食物アレルギーのマウスモデルにおいて免疫を調整する独自の作用を示し、アレルギー症状を緩和したことも紹介されています。

この研究をどう読むか

この総説は、複数の既存研究を整理してキノコの生理活性化合物の可能性をまとめたものであり、著者ら自身も紹介した効果の多くが細胞実験や動物実験の段階にとどまっていることを明記しています。抗アレルギー作用について調べられたキノコの種類も限られており、作用の仕組みが完全に解明されていない化合物も多く含まれます。著者らは、キノコの栽培技術の改良や農業廃棄物を利用した低コスト化、気候変動に強い菌株の開発、ナノカプセル化などによる生体利用効率の向上、他の化合物やプロバイオティクスとの相乗効果の検証などを今後の課題として挙げており、ヒトを対象とした臨床試験によって有効性と安全性をさらに確認する必要があると結論づけています。

まとめ

この総説では、キノコに含まれる多糖類やトリテルペノイドなどの生理活性化合物が、肥満対策やアレルギー緩和に役立つ可能性を示す研究例が紹介されています。ただし、これらの多くは細胞実験や動物実験に基づくものであり、著者ら自身がヒトでの有効性や安全性を確認するためのさらなる臨床試験の必要性を指摘しています。特定の食品や成分が病気を予防・治療すると断定するものではなく、今後の研究の発展が期待される段階の知見として理解することが大切です。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。出典(原著論文):キノコの天然兵器庫:肥満対策・アレルギー緩和の究極の武器と今後の展望(ジャーナル・オブ・マクロファンジー・2026年08月)

著者:Waill A. Elkhateeb(Chemistry of Natural and Microbial Products Department, National Research Centre, Dokki, Giza, 12622, Egypt)、Atsushi Ishihara(Faculty of Agriculture, Tottori University, 4-101 Koyama-Minami, Tottori 680-8553, Japan)、Mustafa Nadhim Owaid(University of Anbar)、Ghoson M. Daba(Chemistry of Natural and Microbial Products Department, National Research Centre, Dokki, Giza, 12622, Egypt)