この研究は、中国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
何を目的とした研究か
アーモンドミルクを作る際には、油や液を搾ったあとに「搾りかす」が残ります。論文によれば、この搾りかすは主に飼料の原料として使われていますが、タンパク質を42〜61 g/100 g含み、そのうち約半分はグロブリンという種類のタンパク質だと報告されています。著者らは、この甘扁桃(スイートアーモンド)搾りかすグロブリン(以下、搾りかすグロブリン)に注目しました。
乳化剤とは、水と油のように混ざり合わないものを均一に混ぜ、分離しにくくする働きをする物質です。研究チームは、先行研究で搾りかすグロブリンが消化されやすく乳化の性質も持つ一方、合成の乳化剤に比べると乳化する力が弱いことが報告されている点を出発点としています。そこでこの研究では、搾りかすグロブリンに二つの加工を組み合わせ、乳化の性質と「エマルションゲル」をつくる性質をどこまで高められるかを調べました。エマルションゲルは、水と油が混ざった状態のまま固まった半固体状の材料で、論文では液体のエマルションよりも安定性が高いと説明されています。
もう一つの主題はクルクミン(ウコンの黄色い色素成分)です。著者らは、クルクミンには水に溶けにくく、光や熱、酸やアルカリの条件で壊れやすいという性質があることが先行研究で示されていると述べ、これをエマルションゲルに包み込んで守れるかを検討しました。
どのように調べたか
研究チームは中国山西省で収穫されたアーモンドの搾りかすから、脱脂・抽出・透析・凍結乾燥という手順でグロブリンを取り出しました。これに施した加工は二つです。一つは超音波処理で、強い音波が液中に泡の発生と崩壊を引き起こし、タンパク質の構造を広げて内部の基(はたらく部分)を表に出す効果があると説明されています。もう一つはクロロゲン酸の結合です。クロロゲン酸はコーヒーなどに含まれるポリフェノールの一種で、論文では抗菌・抗酸化といった働きを持つ生体活性物質として紹介されています。
比較のために、加工していないもの、超音波だけをかけたもの、超音波とクロロゲン酸結合の両方を施したものの三種類を用意し、それぞれについて水への溶けやすさ、表面の疎水性(油になじむ度合い)、水と油の境界に吸着する力、乳化の力と乳化の安定性などを、酸性からアルカリ性までのpHを変えながら測定しました。
次に、これらのタンパク質に大豆油、アルギン酸ナトリウム、塩化カルシウムを加えて高速で混ぜ、加熱してから冷やすことでエマルションゲルを作りました。できたゲルについては、電子顕微鏡による表面構造の観察、赤外分光やX線回折による構造分析、分子間に働く力の見積もり、水の状態の測定、硬さや弾力などの物性測定、流動性の測定、60℃で14日間置いた酸化の進み方などを調べました。さらにクルクミンを溶かした油で同様のゲルを作り、紫外線を当てたときの残存量、どれだけ包み込めたか、そして人の胃と腸の消化液を再現した液で処理したあとにどれだけ取り出せるかを測定しました。
報告された主な結果
まず著者らは、クロロゲン酸の置換度が7.84%±0.47%であり、赤外分光のスペクトルでも複数のピークが移動したことから、クロロゲン酸がタンパク質に結合したと報告しています。
乳化に関わる性質については、超音波処理だけでも改善が見られましたが、超音波とクロロゲン酸結合を組み合わせたものが、pH4.5〜10.5の範囲で水と油の境界への吸着力、乳化の力、乳化の安定性、ゼータ電位(粒子同士が反発しあう度合いの指標)のいずれにおいても、より高い値を示したと報告されています。また三種類すべてで、pHが4.5から10.5へ上がるにつれて溶けやすさや乳化の性質が高まり、最も低い値はpH4.5付近、つまりアーモンドグロブリンの等電点に近い条件で見られました。等電点とは、タンパク質の電気的な偏りが打ち消し合って分子同士が反発しにくくなるpHのことです。
ゲルそのものについても違いが現れました。加工したタンパク質から作ったゲルは、顕微鏡で見た構造がより緻密で滑らかになり、分子をつなぐジスルフィド結合・疎水的な相互作用・水素結合の見積もり値が高くなりました。論文では、ジスルフィド結合と疎水的相互作用がこのゲルを支える主要な力だと述べられています。さらに、ゲル内部の水が自由に動ける状態から結合した状態へと移り、変形に対する安定性の指標である損失係数は低下しました。なお、著者らはこれらの分子間力の値は個々の結合を直接測ったものではなく、寄与の目安であると明記しています。
物性については、著者らは硬さ(ハードネス)、ばね性(スプリンギネス)、ガム性(ガミネス)、咀嚼性(チューイネス)の四つが向上したと報告しています。ガム性は硬さと凝集性をかけ合わせた値、咀嚼性はさらにばね性をかけ合わせた値であり、硬さと凝集性が高まった結果として後の二つも高くなったと説明されています。一方で、すべての項目で差が出たわけではありません。復元性(レジリエンス)については、加工の有無による有意な差は認められなかったと報告されています。これは、変形させたあとの戻り方をみるばね性とは別の測定項目です。また硬さ、咀嚼性、ガム性は、タンパク質の濃度が6 g/100 gから14 g/100 gへ増えるにつれて高まる、濃度に応じた変化を示しました。
この研究が示すこと
この研究が扱ったのは、これまで主に飼料に向けられてきたアーモンドミルクの副産物です。著者らの報告は、そこから取り出したタンパク質に超音波処理とクロロゲン酸の結合という二つの加工を重ねることで、乳化の性質とゲルを形づくる性質がともに高まり、その背景には構造が広がって新たな基が表に出るという分子レベルの変化があったことを示しています。
著者らは、二つの加工を組み合わせる方法が、超音波処理だけの場合よりも効果的だったと位置づけています。食品由来のタンパク質を素材として使いながら、その働きを高める道筋を一つ示した研究として読むことができます。
著者:Yi Li(Food Science College, Shanxi Normal University, Taiyuan 030092, China)、Ling Dang(School of Health Management, Shanxi Technology and Business University, Taiyuan 030006, China)、Biao Ma(Food Science College, Shanxi Normal University, Taiyuan 030092, China)、Yanan Ren(Food Science College, Shanxi Normal University, Taiyuan 030092, China)、Yajun Zheng(Food Science College, Shanxi Normal University, Taiyuan 030092, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Yi Li, Ling Dang, Biao Ma, et al. Emulsion Gels Stabilized Using Sweet Almond Expeller Globulin Modified by Ultrasonication Assisted with Chlorogenic Acid Conjugation: Preparation, Characterization, Stability, and Applications in Curcumin. Foods 2026-09-11. DOI: 10.3390/foods15183213. 原著ライセンス:CC BY.