著者の所属・活動拠点の国は、アメリカです。
掲載誌:American Journal of Potato Research
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:輸出ジャガイモが「植えられたら」どうなるか
農産物の国際取引には、作物に付いた病害虫を新しい土地へ持ち込んでしまうリスクがあります。各国は植物検疫と呼ばれる輸入規制でこれを防ごうとしています。ジャガイモは種いもを植えて増やす作物なので、食用として輸出されたいもが畑に植えられると、病原体の侵入経路になるおそれがあります。そのため、生食用ジャガイモの輸出には芽が出ないようにする処理が求められています。
ジャガイモには収穫後しばらく芽が出ない「休眠」の時期があります。しかし休眠の長さは品種や栽培・貯蔵条件で変わり、いつ終わるかを正確に見極めるのは困難です。そこで広く使われているのが、芽止め剤クロルプロファム(CIPC)です。CIPCは芽の細胞分裂を妨げる薬剤で、米国では主に貯蔵庫内で加熱して霧状に充満させる「熱煙霧処理」と、出荷施設での「散布処理」で使われています。
米国アイダホ大学の研究チームは、同大学の研究施設が約15年間に蓄積してきた試験データをまとめて解析し、輸出ジャガイモの発芽リスクを慎重側に見積もることを目指しました。具体的には、(1) 貯蔵温度とCIPC処理が貯蔵中の芽の伸びにどう影響するか、(2) CIPC処理をしたいもを畑に植えたとき、どの程度地上に芽が出てくる(出芽する)かを調べています。
二つのデータセットで何を調べたか
一つ目のデータは、2001〜2010年に行われた10件の貯蔵試験です。25品種のいもを5.6℃、7.2℃、8.9℃の3つの温度で貯蔵し、無処理のいもと、収穫から約60日後にCIPCを熱煙霧処理したいもを比べました。芽の状態は、ほぼ毎月「芽の動きなし」「芽がのぞき始めた段階」「芽がとがってきた段階」「芽が5ミリ以上伸びた段階」の4段階で評価され、著者らは統計モデルを使って、各段階にある確率を処理・温度・貯蔵日数ごとに推定しました。
二つ目のデータは、2009〜2015年のうち5年分の圃場試験です。無処理のいも、植え付けの約5か月前に熱煙霧処理したいも、植え付け前の1週間以内にCIPCを散布したいも、そして熱煙霧と散布を組み合わせたいもを実際に畑へ植え、植え付け後80日まで出芽の割合を記録しました。試験ごとに条件が異なるため、著者らは試験ごとに出芽の推移をモデル化したうえで、それらを統合して処理方法ごとの出芽確率を推定しています。
主な結果:CIPC処理で芽の伸びも出芽も大きく抑制
貯蔵試験では、約150日の時点で、芽が伸びた段階にある確率は無処理のいもで41%だったのに対し、CIPC処理したいもでは1%でした。芽がとがった段階以上に進んでいる確率も、無処理の74%に対しCIPC処理では8%にとどまりました。
無処理のいもでは貯蔵温度の影響がはっきり見られ、150日時点で芽が伸びた段階にある確率は5.6℃で11%、8.9℃で68%でした。一方、CIPC処理したいもでは同じ温度範囲で0〜1%と、温度による差は小さいものでした。貯蔵260日の時点でも、CIPC処理したいもで芽が伸びた段階にある確率は5.6℃で4%、7.2℃で7%、8.9℃で14%にとどまり、多くは芽がのぞき始めた段階のまま止まっていたと報告されています。
圃場試験では、無処理のいもは植え付け40日後に75%の確率で出芽し、80日後には98%に達すると推定されました。CIPC処理したいもでは40日後の出芽は10%未満でした。ただし、熱煙霧か散布のどちらか一方だけの処理では、80日後までに約25%が出芽すると見込まれ、効き方には品種による違いもありました。これに対し、熱煙霧と散布を組み合わせた処理では、80日後でも出芽確率は約2%と低いままでした。また、出芽が遅れるほど収穫量が少ないという強い関連も示されています。
研究が示すこと
著者らは、CIPC処理によっていもの芽の伸びと、植えた場合の植物の生育がともに強く抑えられることを示し、低温貯蔵と適切な時期のCIPC処理、特に熱煙霧と散布の組み合わせによって、輸出されたジャガイモが誤って植えられても生育可能な株になりにくいと結論づけています。一方で、使用した試験ではいもに残ったCIPCの量は測定されていないことを、著者ら自身が限界として挙げています。
本研究は、長年にわたる既存の試験データを束ね直すことで、輸出ジャガイモの植物検疫上のリスクを具体的な確率として示そうとした取り組みといえます。
原著論文の著者・所属:R. Hendricks(Department of Plant Sciences, Kimberly Research and Extension Center, University of Idaho, Kimberly, USA)、N. Olsen(Department of Plant Sciences, Kimberly Research and Extension Center, University of Idaho, Kimberly, USA)、J. Piaskowski(Statistical Programs College of Agricultural and Life Sciences, University of Idaho, Moscow, USA)、H. Kaur(Statistical Programs College of Agricultural and Life Sciences, University of Idaho, Moscow, USA)、G. H. A. Teixeira(Department of Plant Sciences, Kimberly Research and Extension Center, University of Idaho, Kimberly, USA)、A. T. Adjesiwor(Department of Plant Sciences, Kimberly Research and Extension Center, University of Idaho, Kimberly, USA)、J. Miller(Miller Research, LLC, Rupert, USA)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):R. Hendricks, N. Olsen, J. Piaskowski, et al. Historical Multi-Environment Analysis of Chlorpropham Sprout Control Programs for Phytosanitary Assurance in U.S. Fresh, Export Potato Markets. American Journal of Potato Research 2026-10-19. DOI: 10.1007/s12230-026-10089-z. 原著ライセンス:CC BY.