黒桑(Morus nigra L.)は生食のほか乾燥果実としても利用される果実で、フェノール化合物や抗酸化成分を含むことが知られています。乾燥は保存性を高める一方、熱によって果実中の有用な成分が失われることが懸念されます。今回紹介する研究では、乾燥時の温度と風速という2つの条件が、黒桑果実のフェノール化合物や抗酸化能、色合いにどのような影響を与えるのかが検討されました。

研究チームは黒桑果実を50℃・60℃・70℃・80℃の4段階の乾燥温度と、2 m/s・3 m/sの2段階の風速を組み合わせた条件で乾燥処理し、フェノール化合物、抗酸化能、総フェノール量、モノマー性アントシアニン含量、そして明るさ(L*値)や赤み(a*値)、黄色み(b*値)といった色調パラメータを測定しました。得られたデータは主成分分析(PCA)と階層クラスター分析(HCA)という統計手法によって整理され、条件ごとの特徴が比較されています。

乾燥条件によって成分の残り方が変わる

結果として、どの乾燥条件でもフェノール化合物と抗酸化能は生の果実に比べて減少しました。ただし減り方には差があり、温度と風速がともに高い条件のほうが、これらの成分の保持率が高い傾向がみられました。一方、モノマー性アントシアニンなどの成分については、60℃・風速3 m/sの条件で比較的よく保持されることが示されています。

色に関しては、乾燥によって明るさを示すL*値と黄色みを示すb*値がいずれも増加し、赤みを示すa*値は減少する傾向が確認されました。乾燥条件の中では、50℃・風速2 m/sの組み合わせが最も品質が低い結果となった一方、70℃・80℃の各条件(両風速)と60℃・風速3 m/sの条件は、クラスター分析においてフェノール成分や抗酸化能の点で生の果実に比較的近いグループに分類されました。

目的によって「最適な条件」は一つに決まらない

この研究では、色調を重視するなら70℃・風速3 m/s、抗酸化能を重視するなら80℃・風速3 m/s、フェノール化合物量を重視するなら60℃・風速3 m/sが、それぞれ推奨される条件として挙げられています。つまり、乾燥果実に何を求めるかによって適した条件が異なるという点が、この研究の重要な限界であり同時に知見でもあります。一つの研究結果であり、乾燥条件と成分保持の関係がすべての果実や乾燥方法に当てはまると確定したわけではない点には留意が必要です。

まとめ

今回の研究では、黒桑果実の乾燥において温度と風速の組み合わせがフェノール化合物、抗酸化能、色調に異なる影響を与えることが、統計的な手法を用いて整理されました。乾燥条件次第で品質の保たれ方が変わりうることが示唆されていますが、目的に応じて重視すべき条件が異なるため、一律に「この条件が最良」と言えるものではない点が特徴的な結果といえます。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Hacer Çoklar, Mehmet Akbulut, Mehmet Hakan Sonmete, et al. Evaluation of Drying Temperature and Air Velocity Dependent Profile of Bioactive Compounds, and Antioxidant Capacity of Black Mulberry (Morus Nigra L.) Fruit: a Chemometric Approach. セルチュク・ジャーナル・オブ・アグリカルチュラル・アンド・フード・サイエンシズ (2026). DOI: 10.15316/selcukjafsci.1942988. 原著ライセンス: cc-by-nc.