著者の所属・活動拠点の国は、イラクです。
掲載誌:Iraqi Journal of Physics
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
ラドンは、岩石や土壌、建材に含まれるウランが壊れていく過程で自然に生まれる放射性の気体です。地下水などにも溶け込み、水を飲んだり、水から空気中に出たラドンを吸い込んだりすることで体内に入ります。論文は背景として、ラドンとその壊変でできる物質が自然放射線による被ばくの大きな部分を占め、肺がんの原因になりうることを紹介しています。
研究チームが対象にしたのは、イラクの首都バグダッドの南東、チグリス川の近くにあるトゥワイサ原子力施設と周辺地域です。著者らによると、この地域の水源に含まれるラドンや住民の被ばくへの寄与を体系的に調べた研究は、これまでほとんどありませんでした。国内の先行研究も、屋内の空気を対象にしたものや狭い範囲に限られたものが中心でした。そこで研究チームは、この地域の飲料水の貯水槽などに含まれるラドン濃度の基礎データを得ることと、そこから推定される住民の年間被ばく線量を評価することを目的としました。
何をどう調べたか
研究チームは、合計36か所で水を採取しました。10試料はトゥワイサ原子力施設の敷地内にある建物の貯水槽から、26試料は施設の外の周辺地域から採っています。周辺地域では、ジスル・ディヤラやイシュタルなどの地区にある保健センター、モスク、学校、ガソリンスタンドなどの貯水槽や蛇口が対象です。論文の表によると、採取と測定は2024年11月から2025年1月にかけて行われました。
採水では、水をしばらく流してから容器を満たし、ラドンが逃げたり気泡が入ったりしないよう注意しています。測定には、空気中のラドンを測る「アルファガード」という検出器を使いました。100ミリリットルの水から専用の装置でラドンを追い出し、その空気中の濃度を測ります。そこから計算によって、水1リットルあたりの放射能(単位はベクレル毎リットル)を求めました。
さらに研究チームは、測った濃度をもとに、1年間に受ける放射線の影響の大きさを「年間実効線量」(単位はマイクロシーベルト毎年)として推定しました。飲んだ場合の線量は、成人が1日2リットル、年間730リットルの水を飲むと仮定して計算しています。吸い込んだ場合の線量は、水から室内の空気へ移るラドンの割合や、年間7000時間の滞在時間などの仮定を置いて計算しています。
主な結果
水中のラドン濃度が最も高かったのは、原子力施設内の中央研究所部門の試料で、1リットルあたり0.44204ベクレルでした。最も低かったのは周辺地域のリヤド保健センターの試料で、0.13364ベクレルです。36試料の平均は0.2723ベクレルでした。
著者らは、どの試料も国際的な基準を大きく下回っていたと報告しています。比較の基準は、世界保健機関(WHO)が示す飲料水中ラドンの目安である1リットルあたり100ベクレルと、米国環境保護庁(EPA)が提案した、より厳しい1リットルあたり11ベクレルです。
年間実効線量の推定では、飲むことによる線量は平均で年1.987マイクロシーベルト(0.98〜3.23)でした。吸い込むことによる線量は平均で年0.686マイクロシーベルト(0.337〜1.114)です。どちらも最も高かったのは濃度が最大の試料、最も低かったのは濃度が最小の試料でした。論文は、すべての地点で推定線量が推奨される参考レベルを下回ったとしています。
論文は参考として、他国やイラク国内の他地域で報告された水中ラドン濃度も紹介しています。国内の報告には、たとえばアンバル県の1リットルあたり6.44ベクレルや、2021年のバグダッドでの0.09277〜0.221ベクレルなどがあり、地域によって大きな幅があります。著者らは、こうした地域差には地質や測定方法の違いが影響していると述べています。
研究から分かること
この研究は、原子力施設を含むトゥワイサ地域の飲料水について、ラドン濃度と被ばく線量の基礎データを示しました。著者らの報告では、施設の内外のどの地点でも、ラドン濃度と推定線量は国際的な基準値を下回っていました。そのうえで著者らは、今回の値が低かったとしても、イラク各地の水に含まれるラドンを継続して監視していく必要があると述べています。
原著論文の著者・所属:Ruqayah M. Jawad(Department of Physics, College of Science, University of Baghdad, Baghdad, Iraq)、Hayder S. Hussain(Department of Physics, College of Science, University of Baghdad, Baghdad, Iraq)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ruqayah M. Jawad, Hayder S. Hussain. Assessment of Radon Radiation Risk in Water Samples from Al-Tuwaitha and Surrounding Areas Using the Alpha Guard Detector. Iraqi Journal of Physics 2026-09-01. DOI: 10.30723/ijp.v24i3.1481. 原著ライセンス:CC BY.