日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。

掲載誌:Frontiers in Environmental Archaeology

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

研究チームは、カザフスタン南部の乾燥した草原地帯で、青銅器時代から鉄器時代の人々の暮らしに農耕がどのように関わっていたかを調べました。この地域の古代社会は、従来、専門化した遊牧・牧畜を中心に説明されてきました。一方、屋外の遺跡では風によって堆積物が失われるため、植物の遺物から農耕の証拠を得ることが難しいという事情があります。そこで著者らは、土器に残った穀物の跡に注目しました。

何を、どのように調べたか

対象は、カザフスタン南部の24遺跡から出土した土器片です。年代は紀元前1700年から紀元後400年にわたり、うち15遺跡の土器群は今回新たに分析されました。研究チームは、青銅器時代と鉄器時代、また従来は遊牧的と考えられてきた文化と、より定住的とみられる文化を含む資料を扱いました。

調べたのは、土器を作る際に種子や殻が粘土に入り込み、残されたくぼみです。土器の表面や断面を拡大して探し、くぼみにシリコーンを流し込んで型を取りました。その型を走査型電子顕微鏡で観察し、粒の形や殻の表面構造から植物を識別しました。土器の出土した地層や様式を手がかりに、穀物の跡を年代と結び付けました。

主な報告結果

研究チームは、殻が粒に付着するタイプのオオムギと、殻が外れやすいハダカムギ、キビ、アワ、イネの跡を確認しました。栽培穀物の跡は、調査した青銅器時代の6遺跡すべてで見つかり、鉄器時代にも、遊牧的とされてきたサカ文化の遺跡を含む広い範囲で確認されました。

時代による違いとして、著者らは、紀元前2千年紀のオオムギを重視したあり方から、紀元前1千年紀にはキビを中心とする雑穀栽培をより多く取り入れる方向への変化を示唆しています。ハダカムギと識別した例も、1例を除いて古い時期の資料に属していました。

鉄器時代の2遺跡からは、イネの粒1点と籾殻4点の跡が見つかりました。著者らは、これらを東アジア以外で発見されたイネの遺存資料の中でも古い例の一部と位置付けています。

また、殻を取り除いたキビなどの跡も確認されました。研究チームは、この加工の痕跡を、雑穀が家畜の餌や儀礼用だけでなく、人の食用にも使われていたことを示す証拠と解釈しています。

この報告が示すこと

著者らは、この地域の暮らしを牧畜だけで捉えるのではなく、乾燥した環境に合わせて農耕も組み込んだ、多様な生業として理解する必要があると結論付けています。草原と砂漠の間に位置するこの地域を、異なる文化や作物が行き交う接点として捉える報告です。

ただし、土器に残る跡の数から、穀物が食事に占めた割合や、経済上の重要性を測ることはできません。また、穀物が見つかったことだけでは現地での栽培を証明できません。著者らは、殻の付いた粒が含まれることなどから、遠距離輸送よりも現地での小規模な栽培がもっともらしいと考えていますが、輸入の可能性は排除していません。

原著論文の著者・所属:Eiko Endo(Center for Obsidian and Lithic Studies, Meiji University)、Robert N. Spengler(Max Plank Institute of Geoanthropology, Domestication and Anthropogenic Evolution Research Group)、Zhanargul Kaliyeva(Margulan Institute of Archaeology)、Sagynbay Murgabayev(Research Institute of Archaeology of the Khoja Akhmet Yassawi International Kazakh-Turkish University, Turkestan, Kazakhstan)、Mels Bakhtybayev(Research Institute of Archaeology of the Khoja Akhmet Yassawi International Kazakh-Turkish University, Turkestan, Kazakhstan)、Muzaffer Gursoy(Research Institute of Archaeology of the Khoja Akhmet Yassawi International Kazakh-Turkish University, Turkestan, Kazakhstan)、Bagdaulet Sizdikov(Research Institute of Archaeology of the Khoja Akhmet Yassawi International Kazakh-Turkish University, Turkestan, Kazakhstan)、Bauyrzhan Baytanaev(Margulan Institute of Archaeology)、Aisulu Yerzhigitova(Turkestan Regional Museum of History and Local Lore, Shymkent, Kazakhstan)、Shinya Shoda(BioArCh, University of York; Nara National Research Institute for Cultural Properties)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Eiko Endo, Robert N. Spengler, Zhanargul Kaliyeva, et al. An agricultural complement to ancient northern Central Asian pastoralism on the steppe: a regional analysis of ceramic impressions. Frontiers in Environmental Archaeology(出版社:Frontiers Media) 2026-08-28. DOI: 10.3389/fearc.2026.1918428. 原著ライセンス:CC BY.