日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。
掲載誌:Horticulturae
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF
研究の目的
アスパラガスの茎枯病は、カビの一種であるPhomopsis asparagiによって起こる病気です。研究チームは、栽培アスパラガス(Asparagus officinalis)の近縁野生種であるハマタマボウキ(Asparagus kiusianus)に由来する抵抗性に注目しました。著者らによると、アスパラガスの遺伝学研究はこれまで主に性別の決定に向けられており、病気への抵抗性についての報告はありませんでした。
研究チームは、栽培アスパラガスとハマタマボウキの雑種の子孫で、茎枯病抵抗性がどのように遺伝するかを調べました。あわせて、抵抗性を持つ個体を効率よく選び出すためのDNAマーカーの開発に取り組みました。DNAマーカーとは、目的の性質と一緒に受け継がれやすいDNA上の目印のことです。
交配と病気への強さの評価
研究チームは、栽培品種「ウェルカム」の雌株WC-9fに、栽培アスパラガスとハマタマボウキの雑種である雄株OK007とOK014を交配しました。雑種に一方の親の系統をもう一度かけ合わせることを戻し交配といい、これで得た子孫をBC1集団と呼びます。結実率は組み合わせによって49.0%と68.9%、種子の発芽率は74.2〜84.3%でした。著者らは、ハマタマボウキを直接かけ合わせた過去の報告と比べて、結実率が高かったと述べています。別の研究機関で作られた同様の戻し交配集団も評価に加えました。
得られた苗に病原菌を接種し、症状の重さを0から4までの5段階の発病度で評価しました。個体ごとに発病の時期や進み方にはばらつきがありました。研究チームは、比較対照として育てた栽培アスパラガスの半数で地上部の茎が枯れた時点を、早期評価の基準時点と定めました。
発病度の分布は、交配の組み合わせによって異なりました。WC-9f×OK014の集団では、発病度2と4に山を持つ二山型の分布が見られ、比較的強い群と明らかに弱い群に分かれることが示唆されました。一方、ほかの組み合わせでは多くの個体が最も重い発病度4を示しました。著者らはこの違いから、ハマタマボウキ由来の抵抗性には、効果の大きい主要な遺伝子と、効果の小さい多数の遺伝子の両方が関わっていると考えています。
抵抗性に関わる遺伝領域とマーカー
研究チームは、RADシーケンスと呼ばれる方法で、ゲノム中の一塩基の違い(SNP)を多数調べました。WC-9fとOK014の間では3393個のSNPが見つかりました。さらに2つの集団の計122個体をまとめて解析し、402か所の目印を10の連鎖群に並べた遺伝地図を作りました。連鎖群は、一緒に受け継がれやすい目印のまとまりです。著者らは、集団を統合することで地図の精度が高まったと報告しています。
病気への強さに関わるDNA上の領域(QTL)の探索には、この統合地図ではなく、WC-9f×OK014集団だけで作った連鎖地図が使われました。その結果、1番染色体に主要なQTLが見つかりました。この領域の最大LODスコアは3.68で、発病度のばらつきの13.5%を説明していました。LODスコアは、関連の強さを示す統計的な指標です。この領域内のSNP_PRKというSNPが、抵抗性と有意に関連していました。
研究チームは、SNP_PRKをもとに、簡単な実験で遺伝子型を判別できるマーカー「PRK」を作りました。このマーカーでBC1集団の66個体を調べました。ハマタマボウキ由来の型を持つ29個体のうち23個体(79.3%)が、発病度0〜2の抵抗性を示しました。栽培アスパラガス型だけの37個体では、抵抗性を示したのは11個体でした。
ただし、PRKでは一部の試料でバンドの現れ方が不安定でした。そこで研究チームは、近くの配列をもとに新しいマーカー「PR1」を開発しました。PR1は、調べた材料においてPRKと同じ遺伝子型の判別結果を示しました。
研究の意味と残された課題
この研究は、野生種ハマタマボウキに由来する茎枯病抵抗性について、主要な遺伝領域の位置を示し、その領域と関連するDNAマーカーを作りました。著者らは、時間のかかる接種試験を補う手段として、PR1が抵抗性個体の選抜に役立つ可能性があると述べています。
一方で、抵抗性の原因となる遺伝子そのものはまだ特定されていません。また、繰り返し培養した病原菌では病気を起こす力が弱まっていた可能性があり、著者らはこれが評価に影響しうることも指摘しています。マーカーが広く使えるかどうかを確かめるには、より大きく多様な集団での検証が必要だとしています。
原著論文の著者・所属:Yanxing Lu(Kyushu University)、Yoko Takeuchi(Kyushu University)、Emika Kakizoe(Kyushu University)、Eri Kato(Kyushu University)、Masaru Matsumoto(Kyushu University)、Yoshiyuki Yamagata(Kyushu University)、Jun-ichiro Masuda(University of Miyazaki)、Yuki Mizunoe(Kyushu University)、Keita Tomiyoshi(Kagawa University)、Kaori Sakai(Kyushu University)、Mostafa Abdelrahman(Tohoku University)、Akira Kanno(Tohoku University)、Takao Ikeuchi(Kagawa Prefectural Agricultural Experiment Station)、Mitsutaka Mori(Kagawa Prefectural Agricultural Experiment Station)、Kyoko Murakami(Kagawa Prefectural Agricultural Experiment Station)、Atsuko Uragami(National Agriculture and Food Research Organization, Institute of Vegetable and Floriculture Science)、Shin-ichi Watanabe(National Agriculture and Food Research Organization, Kyushu Okinawa Agricultural Research Center)、Yukio Ozaki(Kyushu University)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Yanxing Lu, Yoko Takeuchi, Emika Kakizoe, et al. Identification of a Major QTL and Development of a CAPS Marker Associated with Stem Blight Resistance in BC1 Populations Derived from Interspecific Crosses Between Asparagus officinalis L. and Asparagus kiusianus Makino. Horticulturae 2026-08-02. DOI: 10.3390/horticulturae12080953. 原著ライセンス:CC BY.